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未来の会

コロナ禍で増える若者の「市販薬」乱用 

コロナ禍で増える若者の「市販薬」乱用 

依存対策の見直しも必要

3年に及んだコロナ禍が、若者の心を蝕んでいる。ドラッグストアで買える市販薬を過剰摂取する等の薬物乱用が増えているのだ。インターネットの普及により覚醒剤や大麻といった違法薬物の蔓延が懸念される中、日本の若者は比較的、違法薬物への警戒が強く、薬物の経験が低いとされて来た。専門家は「〝違法〟な薬物だけが害になるのではなく、どんな薬物も使い方次第で悪影響が有る事を教えるべきだ」と危機感を露わにしている。

 「市販薬の乱用は確かに増加している印象です」と話すのは、都内の精神科クリニックの女性医師だ。薬物依存の問題に取り組む国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所(NCNP)の薬物依存研究部が隔年で調査している全国の精神科医療施設への調査では、2020年に全国の精神科医療施設を受診した市販薬の依存症患者は、12年に比べて6倍になっている。

 「それだけではありません。市販薬の乱用が、10代で増え続けているんです」と同医師。前出の調査では、14年に10代の乱用で最も多かったのは、危険ドラッグ(48・0%)。次いで覚醒剤、睡眠薬・抗不安薬(いずれも12・0%)で、市販薬の乱用は0%だった。ところが、22年は市販薬が65・2%と突出して多く、次いで大麻が10・9%、覚醒剤は4・3%、睡眠薬・抗不安薬は6・5%だった。「この分析の対象となった薬物依存で治療を受けた10代は14年は25人だったが、20年は39人。22年の調査では46人が10代だった。10代の薬物依存が増えており、それを押し上げているのが市販薬の乱用である事は間違いない」と全国紙の医療担当記者は語る。

 何故なのか。その理由を分析するには、10代が乱用する薬物の内訳を見て行く必要が有る。

「市販薬」を取り巻く環境が変化

 「14年は危険ドラッグが蔓延していた時期で、覚醒剤はハードルが高いが、危険ドラッグなら違法ではないと軽い気持ちで手を出す若者が多かった。それが数字にも表れています」(前出の医師)。ところが、危険ドラッグは類似した成分を一括して取り締まり対象に出来る包括指定等、取り締まりが強化された事で入手が難しくなった。その代わりに依存の原因として増加したのが市販薬なのだという。

 「市販薬は逆に、14年にインターネット販売が解禁され、より入手し易くなりました。医療機関に頼らず自身で市販薬を購入して症状に対処するセルフメディケーションの考え方が広がり、ドラッグストアで市販薬を買う人も増えた。10代がよく出入りするドラッグストアで簡単に手に入る事から、市販薬は依存の入り口になり易いのです」(同)。乱用されている市販薬の種類として知られているのは、せき止め薬、風邪薬、鎮痛剤、頭痛薬等、薬局で処方箋不要で売られ、広く使われている複数の商品だ。デキストロメトルファンやジフェンヒドラミンといった幻覚作用等が指摘され依存性が確認されている成分の他、風邪薬には数種類の成分が含まれており、複数の成分が混ざる事で依存性が高まる恐れが有る。又、カフェイン等、大量に摂取すると命に関わる成分も含まれている。容量、用法を守って服用する分には問題は起き難いが、「服用した結果、体調や気分が良くなった事から服用頻度が増えて行き、体調不良ではないのに飲み続け、気付いたら依存症になっていたという例も多い」(同)という。

 違法薬物のイメージが大きい覚醒剤や大麻、所謂不良と言われる様な男性の乱用が多かった危険ドラッグに比べ、市販薬の依存に陥る若者は、非行歴の無い女性が多いのも特徴だという。NCNPが高校生を対象に21年9月〜22年3月に行った別の調査では、過去1年間に気分を変える等の治療以外の目的で風邪薬を決められた量や回数以上に服用したことが有る高校生は、60人に1人居ると推計された。身近に相談出来る大人や友人が居なかったり、コロナ禍で孤立を深めていたりする高校生の割合も高かった。

 「違法薬物と異なり、市販薬の乱用は、ごく普通の子がありふれた状況下で薬物を入手する事からも始まる。ドラッグストアで買える身近な薬に、依存や健康被害のリスクがある事をもっと伝える必要がある」と前出の全国紙記者は警鐘を鳴らす。更に都内の精神科医は、「コロナ禍で、大人以上に子供達は大きなストレスを抱えている。薬物乱用はそうしたストレスの表出方法の1つ。根本に有るストレスや不安と向き合って行かなければならない」と指摘する。

子供の自殺増加も看過できない

この医師が、コロナ禍の若者の心の問題として懸念している事はもう1つ有る。

 「22年に自殺した児童・生徒(小学生、中学生、高校生の総計)は514人と、警察庁が統計を取り始めて以降、初めて500人を超えたんです。コロナ禍になった20年に前年より100人増の499人と過去最多を更新したが、21年には減少に転じていただけに、再び過去最多を記録した事に大きなショックを受けました」

 514人の内訳は、小学生17人(男子12人、女子5人)、中学生143人(男子73人、女子69人)、高校生354人(男子206人、146人)。全年代で見ると、2万1881人の内男性が1万4746人、女性が7135人と男性が女性の約2倍だが、小中高校生に於いては女子と男子の差がそこまで大きくない。

 「そもそも少子化で子供全体の数が減り続けている中、子供の自殺が増えている事が由々しき事態。コロナ禍の3年間でも変動は有る訳で、ただ時代のせいにする訳には行かない。しっかり原因を分析し、対策を取る必要が有る」(前出の記者)

 統計によると、自殺の「原因・動機」(複数回答)として最多だったのは「学校問題」(54・4%)であり、過半数を占める。成人の場合は健康や金銭問題が多いが、小中高校生で「健康問題」を挙げたのは25%だった。この「健康問題」には、自殺の要因と関わりが深いとされる鬱病等の精神疾患も含まれる。ある自治体で自殺対策に携わった女性は、「自殺を企図したり実行したりする際の精神状態は、明らかに健康ではない。多くは鬱病や適応障害といった精神疾患の状態に有るとされています。こうした精神疾患の中には、薬物やアルコール依存等の依存症も含まれています」と明かす。

 睡眠薬や抗不安薬に依存する薬物依存は、精神科等で精神疾患と診断され、処方された薬物に依存して始まるケースが多い。ところが、市販薬への依存は、「気分を変えたい」といった動機から始まる為、精神科に辿り着けない若者も多いのだという。「コロナ禍で会話や集団行動が制限される中、ちょっとした不安や悩みを打ち明けられる関係が学校生活の中で築けず、ストレスが市販薬の乱用といった方面に向かっている可能性が有る。コロナ禍から日常が戻りつつあるといっても、子供達の心は繊細で不安定なもの。寄り添う姿勢が求められる」とこの女性は強調する。

 市販薬の乱用が増加している事と、小中高校生の自殺が増加した事との因果関係は現時点では分からないが、知識として市販薬に依存性が有ると教える事に加え、依存を防ぐにも自殺を防ぐにも、子供の心に寄り添う姿勢が大切なのは間違いない。子供の自殺が増え続ける国はそうはいない。

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