■最先端テクノロジー活用で医療の質向上を実現
慶應義塾大学在学中に戦略コンサルタントとして起業し、デロイト トーマツ コンサルティング、アクセンチュア等、約15年間一貫して戦略コンサルティングの仕事をしています。AIやIoT、ビッグデータ等を活用したDX戦略策定・実行支援を数多く担い、2022年7月に株式会社集中メディプロを創業し、病院経営に関わる課題を解決する為のデジタルソリューションの提供や医療従事者の労務改革を行っています。
医療DXは、医療現場へのITツールの導入による業務効率化が目的だと誤って認識されがちです。それもデジタル化の一部ですが、医療現場に於ける本質的な課題の解決には繋がりません。では医療DXとは何かというと、「医療DX令和ビジョン2030」では、少子高齢化という社会外部環境の変化をしっかり捉えた上で、健康増進や良質な医療の提供に向けて、データの見える化等を実現しながら、健康寿命の延伸や感染症危機に迅速対応が可能な仕組みを構築する事と定義されています。しかし、一病院の経営者からすれば国レベルの構想だと感じられ、自分達にどう関わって来るのか実感し辛い。そこで企業経営に於けるDXの考え方を病院経営に当て嵌めて考えてみました。
ポイントは3つ有り、1つ目は医療業界の変化に対応する為に最先端テクノロジーを上手く活用出来ているかです。2つ目は医師を始めとした医療従事者の労働生産性向上と、組織体制や運営方針の変革に取り組んでいるか。3つ目はこれらの変革や取り組みを通じて、医療の質の向上を図っているかという点です。
■DX推進の課題は期間、予算、人材の確保
医療DXは実際にどれ位取り組まれているのか、弊社で独自のアンケート調査を行いました。その結果をご紹介します。
医療DXの取り組み状況ですが、6割超が何らかの形で医療DXに取り組んでいましたが、その5割以上が想定する成果が出ていないと回答しました。そこで、取り組みの成果と期間に関係が有るのかを分析したところ、十分に成果が出ていると答えた医療機関の多くは取り組み期間が長く、5年以上取り組んでいるという医療機関が6割を超えました。逆に成果が出てないとする回答は、約7割強が5年未満で、短い期間ではなかなか成果を上げにくい事が分かります。
このアンケート調査結果を基に医療DXが難航する理由について考察しました。1つ目はデジタルと医療の両方に精通した人材が病院内に少ないという人的要因です。病院経営者、幹部職員を含めた現場のスタッフは医療のプロフェッショナルですが、デジタル技術に精通している訳ではない。一方、デジタルやDXの専門家を外部から採用している病院も増えてきているが、部門別の課題解決に留まり、病院全体の課題を踏まえた取り組みになり難い。
2つ目は、デジタル化の方針が、発言力の強い経営陣や一部の部門や個人の意向に偏ったものになり易い事です。医療DXの検討に当たり、病院全体を俯瞰しつつ、部門別の課題を横串的に捉えなければならないのですが、そうした部門や機能が存在しない。又、部門は存在しても形骸化している事が多く、結局は発言力の強い経営陣や特定部門の意見に集約されてしまう傾向が有ります。
3つ目は予算です。各病院のIT投資計画を見ると、ITツールの新規導入コスト程度しか見積もられていない事が多く、DXを推進出来る規模の予算が確保されていません。その為、戦略的なIT投資やデジタル活用が出来ていない。DXは従来のIT活用の延長上に在るものではない為、全社及び各部門でDX推進に向けたIT投資計画を立てた上で、予算に組み込んでおく必要が有ります。
4つ目は病院の規模や地域性です。規模や地域性によって求められる役割や機能は病院毎に異なる為、他業界に比べて自病院の DX推進に於けるベストソリューションを見出す事が難しい環境下に在ります。他の病院で成功した実例を、単純に自病院に当て嵌めても成功する可能性は低いでしょう。
DX推進の主な目的である医療従事者の働き方改革による労働生産性の向上や業務プロセスの変革に目が行きがちですが、自病院に求められる役割や機能を踏まえて、DXを検討する必要が有ります。
■成功の鍵は、DX専門組織が主導する体制の構築
以上の点を踏まえて、弊社が考える医療DXの推進アプローチを紹介します。先ず自病院の現状把握と課題の抽出を行います。そして、DXを通じて実現したい将来ビジョンの具現化です。ここ迄はDXに限らず成長戦略を描く際に必要なプロセスで、単にこうなりたいといった願望や希望の様なものではなく、具体的な目指す姿を明確にする事が大切です。その次に、将来ビジョンの実現に向けて、デジタルを活用してどうやって進めて行くのかというDX構想を策定します。その構想によって、どれ位の規模のIT投資が必要なのかも見えて来ますので、IT投資計画・予算を策定します。先程説明した様に規模がかなり大きく膨らむ可能性が有り、通常の予算とは別建てで立てるのが重要です。そして最後に策定した計画を誰が、どうやって実行して行くのかという推進体制の構築を行います。
課題の洗い出しでは、現状課題の正確な把握と事案別の優先順位付けとが必要で、経営陣と現場の認識の摺り合わせも重要です。又、将来のビジョンを具現化する際、希望的観測にならない様に注意して頂きたい。現場の意見をよく聞き、病院全体の意見を反映させる事が重要です。DX予算については、収益改善やコスト削減を通じて投資原資を確保する必要がある場合も多く存在します。
病院に於ける医療DX成功の要諦として、先ず全ての前提になるのが、「将来の目指す姿と現在地との差を把握する事」です。中長期の目指すべき姿を定めた上で、そこからバックキャストする形で短期的な目標を定めて行く事で、歩むべき道筋が明確化し、継続的なDX成果の創出が可能となります。
成功の要諦の2つ目は、「現場へのDX戦略の浸透」です。DXの理解度とDX成果創出の相関関係として、現場のDX理解度が高い程、DX成果が出易い傾向があります。一般職の主体的な行動変容を促す迄DX戦略を浸透させる事が重要です。
成功の要諦の3つ目は、「DX専門組織であるDXMO(デジタル・トランスフォーメーション・マネジメント・オフィス)主導の推進体制の構築」です。経営企画部門やIT部門がDXを主導するケースも在りますが、片手間になる傾向が否めず、全社視点から組織横断で取り組む権限と責任を有する強力なリーダーシップ(CxO)の登用と、全社 DX の実現をミッションに掲げた DX 専門組織の設置が不可欠でしょう。
最後の成功の要諦は、「DX 推進に必要となる原資の確保」です。弊社アンケート調査で「十分な成果が出ている」と答えた病院の約8割が、通常予算とは独立した形で投資原資を確保しています。逆に原資を確保していない病院では、その殆どが十分な成果を上げる事が出来ていません。
医療 DX とは、これ迄当たり前だったやり方を効率的・省力的なやり方に変革して行く事であり、見えていなかった事を「見える化」して経営陣から現場まで行動変容させて行く事です。医療 DX の取り組みは「長距離走」になるので、継続する事が成果創出に繋がります 。
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