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未来の会

第93回「日本の医療」を展望する 世界目線 医師が組織に属するということ ⑦

第93回「日本の医療」を展望する 世界目線 医師が組織に属するということ ⑦
 
近年の企業の傾向

ここで、最近の企業の様子を見てみよう。この記事を読んでいる医師や医療機関に勤務している皆さんは、企業に勤めた経験の無い方も多いと思われるが、テレビドラマなどを見ていると、特に大きな企業の場合には色々な細かい規則があってややこしいとか、厳しいノルマがあってそれを達成しないと文句を言われる、というようなイメージを持たれているかもしれない。確かにそういった側面も否定はしないが、最近では企業の様子もかなり変わってきている。対外的にも、自分達の利益だけを追い求める経営スタイルから価値観の変化が起こりつつある。例を挙げるとすると、気候変動などの社会課題に取り組むESG経営などが知られている。

価値観の変化をもたらすZ世代

これは、「Z世代」などと言われたりする若者達の考え方の変化に起因しているとも言える。Z世代とは、生まれながらにしてデジタルネイティブである初の世代で、アメリカ合衆国をはじめ世界各国において概ね1990年代中盤から2000年代終盤、または10年代序盤までに生まれた世代のことであり、20年時点で世界人口の約3分の1を占めていると言われる。わかりやすく言えば、PCよりスマホを使いこなす人達である。

日本は現在、右頁に示すような高齢社会であり、諸外国に比べればその数は少ないが、だからこそ後に述べる「多様性をどう考えるか」という話にもつながっていく。

医師という職業においても、「若い医師は仕事熱心ではない」「すぐに帰ってしまう」「病院を大事にしていない」といった意見を我々世代の医師からしばしば聞くことがあるが、働き方改革の影響もあるにせよ、かなり大きな価値観の変化が起きていることは間違いない。先ほどの話と絡めて言えば、企業においてもそういった若い世代に積極的に就職してもらい、活躍してもらわないことにはやっていけない状況になってきている。

働く人が減る時代

ここで働く人の変化を見てみよう。厚生労働省などのレクチャーで聞くことも多い内容かもしれないが、今回は企業の立場で説明してみたい。図1として、国立社会保障・人口問題研究所や総務省のデータを元に厚生労働省が作成した図を示した。これを見ると、日本の人口がどのように変化してきたかがわかる。また今後、働き手が極めて少なくなっていくこともこの図から見て取れる。日本の様々な仕組み、いや日本だけではない世界の様々な仕組みは、働く人がいるから成り立っている。ここが崩れそうだということだ。

では、働き手が少なくなっていくという間違いない事実の中で、どのように解決策を考えていけば良いのだろう。

年代による就業率の変化

図2は年代別の働く人の比率である。当たり前のことだが、年齢が上がると働く人の比率は減ってくる。今後、人口が減少するは間違いなく、その為必然的に労働人口も減る。だが、働き手がいないと社会は立ち行かない。ならば、今まで働いていなかった人にも働いてもらうしかない、ということになる。特にこの図からは高齢の人にも働いてもらう必要があるということが読み取れる。また、これ以外にもう1つ働いて欲しい層として女性の存在があるが、特に出産前後で仕事を辞めてしまい、そのまま働かなくなってしまう女性が多かった為、ここを何とかしようという動きもあった。過去形で書いたのは、現在この部分はかなり改善されてきているからで、医療界でも状況は同様である。さらに言えば、病気や障害を持った人も働けるような社会を作るということは、日本という国を維持する為にも欠かせないということになる。高齢者は病気を持っていることが多いという側面もある。

多様性が求められる社会での企業の在り方

多様性(ダイバーシティ:diversity)という言葉がある。色々な価値観を認めるという意味であるが、企業においては、単一的な価値観、たとえば業績を上げれば良いというだけではなく、社会にもある程度貢献していこうという考え方をも示す。最近話題の脱炭素運動なども企業の考え方の変化の1つであるが、Z世代に限らず個人個人の価値観が様々になる中、企業の価値観にも幅が出てきていると言える。

ところで、企業にとって、優秀だがたまたま病気になってしまった人を雇用することや、働きやすい環境作りに取り組むことにメリットはあるのだろうか? もちろんある。それは、働き手自体が減ってきている為、優秀な社員を雇うことが極めて難しくなってきていることが原因である。また、最近では出戻りで社員を雇うことも増えている。銀行などでもリストラが盛んで、そこで辞めた人も多くいるが、そういった人たちは特定の能力を持っている場合も多い。少なくとも、元の企業の仕組みには慣れているはずだ。人材不足の折、新しく不慣れな人を雇うより、こういった中から優秀な人を再度雇用した方が良い場合もある。これが出戻り雇用だ。当然、病気だからといって優秀な人材を逃してしまうのはよろしくない。ただ一方病気の人にも事情があるので、それをきちんと認めることは必要になる。

こうして考えると、病気や障害を持った人も働けるような多様性のある社会を作る、ということは日本という国を維持するためにも欠かせないということになる。少し話が大きくなってしまったが、次回はこういった社会の変化について、経営の視点でもう少し見てみたい。

医療従事者から見ると

最後に、このような企業および社会の考え方の変化が医師などの医療従事者にとってどんな意味があるのかを考えてみよう。これまでも述べてきたように、私が医師として企業に勤務していた時と今とでは、企業側の環境が違う。医師のような専門職の雇用も、お客様扱いではなく、一社員として扱うようになってきている。これは、医師がノルマを持たされて厳しく扱われるということではなく、専門職の社員として適切に扱われるということである。実は最近、厚労省のような役所からも企業に転職する人が増えてきている。医師である医系技官もそうだし、法令といわれる文科系の方もいる。こういった人材が活躍できる場に企業が変わってきているという事実は、今後大いに注目すべきだろう。

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