SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

5類移行の節目を迎えるコロナ対策、継続への課題

5類移行の節目を迎えるコロナ対策、継続への課題
支援縮小に伴う医療機関・患者の負担増を克服出来るか

政府が新型コロナウイルスの感染法上の分類を「2類相当」から「5類」へと引き下げる5月8日が迫っている。医療体制を平時に戻して行くのに伴い、厚生労働省は幅広い医療機関に患者を受け入れてもらう事を想定している。

 しかし、公的支援が減るにも拘らず、従来と変わらない感染対策を迫られる医療機関には困惑の声も聞かれる。果たして感染者は安心して受診出来るのか。

 東京都心のビルに入居する内科クリニック。院長は5類移行後の発熱患者受け入れについて、「感染対策の負担が大き過ぎる。明からさまな診療拒否は出来ないにしても、消極的にならざるを得ない」と話す。

 このクリニックでは建物の構造上、陽性者とそうでない人の接触を避ける事が難しく、コロナ感染者の受け入れを控えて来た。それでも、5類移行後は「正当な事由無しに診療を拒否出来ない」とした医師法上の「応召義務」により、感染やその疑いのみを理由とした診療拒否は出来なくなる。

 現行ルールで厚労省は設備や機材の不備を「正当な事由」と認め、構造上院内感染対策が困難との理由で発熱患者の診察をしない医療機関に目を瞑っている。だが、5類移行後は設備の不備等を拒否の正当な事由として認めない意向だ。院長は「診察時間帯を分けるしかないが、混乱するのは間違いない」とこぼす。

 厚労省は現在約4万2000カ所在る発熱外来について、季節性インフルエンザを診ている医療機関の数に当たる約6万4000カ所に増やす事を目指している。また入院に関しては現在、コロナ病床を設ける約3000カ所の病院が患者を受け入れているが、受け入れ対象を全病院(約8200カ所)に広げる。全病院をそれぞれのコロナ対応能力に応じて3つに分類し、機能に則した受け入れを求める。

公的援助の縮小で確実に増す現場の負担

 ただ、5類移行後は補助金や診療報酬の特例加算等が大幅に減らされる。これまでは外来で陽性疑いの患者を診察すると初診料に5500円が上乗せされた。それが最大でも3000円に減額される。そもそも今年1月時点で内科や小児科等のうち発熱外来を設けているのは、厚労省によると全国平均で54・8%。都道府県によって35・7〜82・5%と2倍を超す開きが有る。

 発熱外来の中にも検査だけを行っていたり、診察をかかりつけの患者に限定したりしている所も有る。「対応出来る所は既に発熱患者を受け入れており、一気に広がるとは考え難い」(日本医師会関係者)との見方も有る中、加藤勝信・厚労相は3月10日の記者会見で「かかりつけ患者を中心に診ていた所は一般患者に広げてもらいたい」と発言せざるを得なかった。

 患者の側も負担が増す。外来時に無料だった検査料は自己負担となる。陽性確定後は全額公費負担に切り替わる治療費も一部を支払わねばならなくなり、自己負担の総額は季節性インフルエンザ並となる。政府の試算では一般患者(自己負担3割)の場合、今のコロナ外来費用は2590円なのが、5類移行後は3710〜4170円となる。引き続き無料なのは高額の治療薬のみだ。

 より厳重な感染対策が必要となる入院には、医療機関への手厚い補助が有る。これまでは重症患者を受け入れると1日最大32万6340円が上乗せされていた。それが5類になると最大8万1590円へと減少する。ウイルスの主流株がオミクロン株に移り変わり、重症患者が減って来ているという事情が有るとは言え、医療機関からは悲鳴が上がる。コロナ患者受け入れの為にベッドを空けている病院への補助金「病床確保料」も1日最大43万6000円だったのが、最大21万8000円と半減となる。

 患者の入院医療費も従来無料だったのが、窓口負担に上限を設けている高額療養費を適用の上、月に最大2万円補助する仕組みに変わる。5月8日以降、年収383万円以下の人が中等症で10日間入院すれば3万7600円+1万3800円(食事代)の自己負担が発生する様になる。

 発熱患者や自宅療養者を対象とした自治体の受診相談は引き続き実施されるものの、宿泊療養施設は廃止される。しかもカットされる病床確保料や患者の負担軽減策は9月末迄の期限付き。10月以降は感染状況を踏まえ国が判断する事になっている。

 確かに補助金を受け取っておきながら入院患者を受け入れない医療機関の存在等、3兆円を超す病床確保料を中心に「無駄遣い」との批判は出ている。但し、感染拡大の再来が懸念される中での補助等の見直しには慎重論も根強く有る。政府の動向を踏まえ3月9日に記者会見した全国自治体病院協議会の小熊豊・会長は「公的支援が縮小された場合、医療提供体制を維持出来るのかどうか懸念している」と述べ、危機感を露わにした。

  補助縮小で経営が成り立たなくなる医療機関はコロナ対応を縮小する。その分、公立病院が対応せざるを得ないが、それでも院内感染を防ぐ「ゼロコロナ」を続ける為の対策は必要で、コストは掛かる。結果的に「患者の受け皿確保の為の病床休止」「危急でない手術・入院の延期」といった診療制限を今より強めねばならなくなり、コロナのみならず一般医療への対応にも影響が生じ兼ねない——との懸念だ。

 また患者についても「自己負担が生じる事で、重症化リスクが高い人も受診を我慢して症状が悪化しないか心配だ」と不安視する医療関係者は少なくない。

それでも求められる「ゼロコロナ対策」

政府が新型コロナを5類に引き下げるのは「現下のオミクロン株の毒性等に鑑みて、私権制限に見合う生命・健康への重大な影響は無い」と判断した事が理由だ。しかし、全国自治体病院協議会はコロナの感染力について「インフルエンザの比ではない」と指摘している。更に、コロナには特効薬や根治薬が無く、ゼロコロナ対策をこれまで通り続ける必要が有る点を強調している。同協議会は、5類移行による一般国民の意識の変化も不安視している。マスク着用の緩和も併せ、5類への移行で「日常の生活が戻って来る」と考える人が少なくない中、面会者や外来患者等がマスクをせず来院してトラブルになり兼ねない。小熊会長らは「医療現場では、患者の健康・生命を守る為にゼロコロナ対策を続けねばならない。その点を国は国民向けに十分アナウンスをして欲しい」と訴えている。

 厚労省は都道府県に対し、入院、外来の受け皿拡大に向けた9月末迄の「移行計画」を4月中に策定する様求めている。だが、「民間医療機関の受け皿を増やす具体策作りは難しい」(関東地区の県)といった反応が少なくない。医師の「応召義務」の適用についても、がん等重症化リスクの高い患者を多く抱える医療機関は例外とする案等が浮上している。運用の仕方次第では診察拒否の口実に使われる可能性は否めない。

 コロナ患者の入院調整は主に保健所が担って来た。今後その機能は縮小され、医療機関同士に任せる仕組みへと移る。医療機関の間の連携は地域格差が大きく、連携が乏しい地域では「入院難民」が出る可能性が有る。厚労省は入院調整に携わった医療機関を対象とした診療報酬を新たに設ける事を検討しているものの、効果はハッキリしない。同省幹部は「正直なところ、『出たとこ勝負』という側面が有るのは事実だ」と漏らしている。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top