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炎上上等! 

炎上上等! 
ユーチューバーが露わにした「女性健診」への不満

「性教育YouTuber(ユーチューバー)」を名乗る人物がインターネットのSNSに投稿した動画が、「医療を冒涜している」「女性として許せない」と炎上し、メーカー迄もが抗議文を発表する事態となった。本人は投稿を取り下げず、謝罪もしていない事から批判は続いているが、ネットの炎上に詳しい専門家は「この問題が露わにしたのは、女性が受ける医療が男性によって行われて来た事への不満ではないか」と分析する。

 問題の投稿は1月9日夕方、ツイッターに上がった。自称「性教育YouTuber」の「しょご先生」が、「足上がり過ぎてセックスどころじゃないセックスマシーンw #群馬のセックスミュージアム」という短文と共に、1本の動画を上げたのだ。 

 「動画の内容は、産婦人科で使われる診察台と思われる台に載った投稿主の男性が、台の動きに合わせて開脚させられ、足が持ち上げられて行く様子を写している。男性は特に言葉は無く、凄い、といった様子で楽しそうに笑っており、音声には機械の操作音と笑い声が入っている」(全国紙の医療担当記者)

 この投稿に続く本人の投稿で、動画が撮影された「#(ハッシュタグ)」の群馬のセックスミュージアムとは、群馬県北群馬郡吉岡町に在る「命と性ミュージアム」 の事だと分かる。関越自動車道の渋川伊香保I・Cから程近い、知る人ぞ知る観光名所の様だ。

 ミュージアムのホームページ(HP)によると、開館は2002年4月。展示内容は「命と性に関する学習・ドラマ館」との事で、入場料は大学生、18歳以上は1000円となっている。HPを見ているだけでも様々な展示物が有り、中には刺激的なものもちらほら。館内は撮影が可能で、いくらでも「悪ノリ」が出来そうだが、一方で「セックスだけが人生の楽しみではない」「パートナーが異性とは限りません」等、書かれているメッセージは至極真っ当。「性」だけでなく、死についてや、タブー視されがちな障がい者の性についても取り扱っているのも面白い。

 しょご先生氏が動画撮影した診察台もミュージアムの展示品の1つで、取材等でなくても実際に乗る体験が出来る。昨今、回転寿司店等で不衛生な行為をして炎上する動画が後を絶たないが、そういう意味ではこの動画については「館内の指示に違反した訳でもなく、撮影やSNSへのアップロード自体は特に問題ではない」(同)という。

診察台大手タカラベルモント社が声明を発表

 問題は、この診察台を「セックスマシーン」と紹介した事だ。

 「女性なら年頃になれば、子宮頸がん検診や妊娠時の健診等で一度は経験した事のある診察台。診察だからと必要に迫られて乗っているが、気持ちの良いものではない。それを、セックスマシーンと揶揄されれば、多くの女性は不快になるのは当然です」(同)

 当初はしょご先生氏のフォロワーを中心に〝楽しく〟閲覧されていた動画だが、そのうちにこれを問題視する人達が現れ、動画は一気に拡散された。投稿から約1カ月後、騒動を収めるべく立ち上がったのは、診察台を作っているメーカー、タカラベルモント(本社・大阪市中央区) である。

 同社は2月10日、「SNSで拡散された産婦人科検診台での迷惑行為に関して」と題した文書を公表。「当該製品は、産婦人科における診断・処置に使われる医療機器です。また、撮影された施設は、人間の命や性についての正しい理解と啓蒙を行うための施設であり、教育の場としても活用されている施設です」とした上で、「誤った機器の取り扱い方、並びに多くの患者様への誤解を生むような表現であるばかりでなく、人間の性に対する尊厳を傷つけるもの」であると「強く抗議」した。文書によると、同社はSNSの運営会社に抗議し、投稿の削除も要請したという。 

 このメーカーからの抗議が報じられると、そこから問題の動画を見に行く〝逆流入〟効果も表れ、投稿が更に拡散され、批判を浴びる事態に。しかし、本人は3月17日時点で特に謝罪のコメントを出したり投稿を削除したりはしていない。

 「同氏は、『性を〝面白く〟発信しようとすると必ず批判を受ける。ハッキリ言うとそんなの無視していいですよ』(1月11日)等と投稿しており、批判も炎上も上等という考えの持ち主のよう。件の投稿も性を面白く伝えようとした結果なのだろうが、本来は診療に使う医療機器を〝性的〟なものと見なした事が不適切だ」と前出の記者は指摘する。投稿には産婦人科医を名乗る人物からの抗議のリプライも寄せられた。医師らは、診療現場で如何に患者に配慮しながらこうした機器を使っているかを伝え、投稿主の無知を諫めている。

多くの女性を不快にした投稿、根底にあるのは?

だが、この炎上騒ぎが露わにしたのは、投稿主の無知や無理解だけではなかった。

 「そもそも、女性の羞恥心を煽るタイプの機器が当然の様に使われている事を疑問視する声が出て来たのです」(同)。その代表的なもの(一部抜粋)を紹介する。

 「下半身だけ裸の不安な状態で、カーテンで向こうが見えないまま椅子が自動で動き始めて、足が開かれて、何が起こるか分からない怖さがある。日本で発展した物で、開発に当たり女性の声は取り入れられなかったそうだけど、聞いていたらこうはならなかったと思う」

 足が持ち上がる事で、診療がし易い姿勢になるのがこの機器の利点でもあるが、本当にこんな体勢を取らされる必要があるのかといった疑問や、自動的に足を開かされる事に恐怖を感じる女性は多いらしく、こうした声は「#婦人科の内診台を改善してください」というハッシュタグで拾う事が出来る。

 尚、診察台の開発に当たり女性の声が取り入れられなかった、というのは06〜08年に国の科学研究費を使って生殖医療に詳しい明治学院大の柘植あづみ教授らが調べた『医療技術の開発/応用と社会の関係についてのジェンダー分析』の『内診台調査プロジェクト』に書かれている。 名称は明らかにしていないが、複数のメーカーを調査した結果、開発段階での女性の関わりが薄い事が明らかになった。 研究は、男性中心で発展して来た医学によって女性に不利益が出ているという昨今の指摘を受けて行われたものだ。

 「今回の炎上騒ぎでも多くの女性が、羞恥心や恐怖を与える検診方法が女性を検診から遠ざけていると指摘していた。同様の例は乳がん検診用のマンモグラフィーでも指摘されている」と話すのは、ネットの炎上事例について詳しいジャーナリストだ。都内の30代の女性会社員は「女性専用の健診クリニックでマンモを受けた時、余りの痛みに気を失いそうになった。廊下に出たら、寝かされている女性や倒れ込む女性が居て、皆もそうなのかと安心した」と語る。定期的に行われる健診でこうした事が起きていると知っている男性は少ないだろう。

 「柘植教授の研究から時間が経ち、タカラベルモント社の最近の同種製品には女性の声が取り入れられ改良が加えられている。 乳がん検診についても、痛みの少ない機器が開発されており普及途上だ」と前出の記者。ユーチューバーが露わにしたのは、医療現場で長年我慢を強いられて来た女性の怒り。こうした声が大きくなれば、女性健診 で使われる機器も変わって行くだろう。

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