滝山病院を便利使いした行政の罪
看護師の男が、患者への暴行容疑で今年2月に逮捕された医療法人社団孝山会滝山病院(東京都八王子市)。この原稿を書いている2月末時点の逮捕者は1人だが、他の看護師も告発されているので事件は拡大するだろう。この病院の悪評は以前から際立っていた。60%を超える異常な死亡退院率が常態化し、筆者は4年前、内部告発者を探した事が有る。その時は見つからず踏み込めなかったが、今回、遂に闇が暴かれることになった。この病院の看護師のほとんどは非常勤で、仕事を長く続ける人は少ない。惨状を目の当たりにして、耐えられず退職していくのだ。辞めた看護師たちは、随分前からネット上などで滝山病院の実態を明かしていた。
「職員から患者への暴言が酷い。透析患者が多いのにバイタルチェックもいい加減で、入院させられている人たちが可哀そうでならない」
「患者さんへの対応が横柄で高圧的な職員が多く、驚くことばかり。自分はそんな環境に慣れたらいけないと思い退職した」
「こんな病院があるのか、といった感じ。理想が低いというか、ホスピタリティや倫理観が崩壊している」
「患者さんに暴言や無駄な拘束が多々ある。拘束も理不尽な看護側の言い訳で行うこともある」
「透析患者が多くて驚く。感染面の配慮がなく、食事も栄養バランスが全く考えられていない」
「非常勤の夜勤は1回3万3千円だったのに、事前に何の通達もなく2千円も下げられた」
「私が勤めた病棟は半分以上の患者に人工呼吸器がのっていて、会話のできない人が多かった」
「とにかく古い。汚い。お金を稼ぐためと割り切らなければ続かない」
気が重くなるコメントはこの位にして、最後に病院側によると思われる素敵な書き込みを紹介する。
「気が楽な職場です。自然環境に恵まれているので和みます。交通も便利で楽。給与も良くアルバイトには最高の条件です。スタッフの皆さんも優しく教えて頂いています。シフトも満点です。年齢もバラバラですが働きやすいです」
こんな病院を、なぜ定期的な検査を行う行政が放置したのかと言えば、理由は簡単。行き場の無い患者を放り込む最終処分場として、役所や福祉事務所などが便利使いしてきたからだ。この病院のウリは人工透析。身体が弱った精神疾患患者が、家族や地域から邪魔者扱いされて見捨てられると、役所などを介してこのような病院が受け皿になる。特に生活保護の患者が餌食になりやすい。
心身の適切な治療ができる病院が殆ど無いという事情はあるものの、「滝山に送れば一丁上がり」という無能で冷酷な役人たちの判断は、「仕方なかった」では済まされない。かつて朝倉病院事件を引き起こした人物が院長を務める滝山病院の惨たらしい実態は、東京都も随分前から把握していたはずだ。それなのに我関せずと手を打たず、患者たちを劣悪な環境に置き続け、見殺しにした。
八王子北部の静かな集落を抜けて、細い坂道を上った山の中にある滝山病院の周辺では、ゴミの不法投棄が目立つ。子供達が書いたポイ捨て禁止の絵が、病院を取り巻くフェンスの各所に張られている。この山ではまた、人間もポイ捨てされている。
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