今回は、プロトピック軟膏にこれまで記載されてきた発がんに関する「警告」が、「注意」に格下げされたこと、それが欠陥調査に基づいていることを、薬のチェック106号1)で取り上げたので、紹介する。
薬のチェックの発がん性指摘で「警告」記載
アトピー性皮膚炎治療用剤としてのプロトピック軟膏0.03%小児用製剤の2003年の承認審議に先立って、薬のチェックはその発がん性の害を指摘した2)。厚生労働省は、承認条件として、添付文書の「警告」欄に発がん性を記載し、患者への情報提供を医師に課した。
日本のこの措置の2年後に、米国では発がん性を指摘する国の文書が出た。3年後にも添付文書内に最大級の警告を意味する黒枠警告の記載と保護者向け説明レターが発行され、処方は警告前の4〜5分の1に減少した。
悪性腫瘍や白血病が倍増:疫学調査結果
海外では多数の大規模疫学調査が実施された。21年に公表されたシステマティックレビュー3)では、5論文から10の集団をメタ解析し、プロトピック軟膏など免疫抑制剤系外用剤使用群は、対照群に比較して、悪性リンパ腫と白血病の統合リスク比が1.86(95%信頼区間:1.39-2.49、p<0.001)であった。確実な結果である。主要な2調査の結果は10年には判明していた4)。1万人年あたりの悪性リンパ腫発生率は、対照群で0.2(小児)〜1人(全年齢)であった。合計観察人年は約32万人年、対照群は330万人年超である。
日本では21年「警告」を「注意」に格下げ
ところが日本では、21年に添付文書上の「警告」が「注意」へ格下げになった。日本の使用成績調査で皮膚がんなど悪性腫瘍の発現が認められなかったことを根拠としている。日本皮膚科学会雑誌22年10月号に「長期の国内製造販売後調査」として掲載された調査である5)。販売開始直後から12年間234施設が参加して、2〜12歳のアトピー性皮膚炎児1330人中109人を除外して1221人を追跡しただけである。
どのような基準で選択したのか、なぜ109人を除外したのかその理由も不明であり、対照群もない。合計追跡5816人年は、海外調査の32万人年+対照群330万人年に比べて極めて小規模である。しかも、日本の調査はがんの発症が極めてまれな小児だけを対象としているため、悪性腫瘍が検出できないのは当然である。したがって、「悪性腫瘍の報告はなく」という添付文書の記載は間違いである。
悪性腫瘍は使用開始10年以降に激増
もう1つ忘れてはならないのは、悪性リンパ腫も、全部位のがんも、使用期間が10年以上になると、2次関数的に激増するということである。この現象は、臓器移植にタクロリムスなど免疫抑制剤を長期間用いた場合に観察されている4)。したがって、海外のこれまでの調査ですら、4年程度の観察期間であるため、2倍に増加というのは、危険度を過小評価している。
結論
プロトピック軟膏の使用によって、悪性リンパ腫や白血病の発症は増える。添付文書の発がんの「警告」を「注意」への格下げしたのは間違いである。
参考文献
1) 薬のチェック2023:23 (106): 42-44.
https://medcheckjp.org/backnumber/106/ に新情報
2) 薬のチェック速報No18-27,29,31,34-36: www.npojip.org/
3) Lam M. JAMA Dermatol. 2021;157(5):549-558.
4) 浜六郎、TIP誌、2010:25(4):50-57.
5) 大槻マミ太郎ら、日皮会誌2022:132 (10), 2327-2338. 2022
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