SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

マスク着用ルール緩和でどう変わる?

マスク着用ルール緩和でどう変わる?

脱マスク派・着用派、対応分かれる

3月13日より、新型コロナウイルス対策の象徴だったマスクの着用ルールが緩和される。新型コロナの感染法上の位置付けを5月8日に「5類」へと引き下げる事を決めた政府が、それに先立って打ち出した。ただ「脱マスク」を巡る混乱は避けられず、「日常を取り戻した」とアピールしたい政府の思惑通りには行きそうに無い。

 「正にウィズコロナに向けての移行をしっかり図って行くという事だ。感染対策の必要性は引き続き申し上げながらも、早く日常生活、経済社会活動をしっかり戻して行く事を進めて行きたい」

 2月10日、政府の新型コロナ対策本部は基本的対処方針にマスク着用ルールの緩和を盛り込む事を決めた。これを受けて記者会見した加藤勝信・厚生労働相はそう語り、「平時」への復帰に意欲を見せた。緩和を3月13日とした理由については、飲食業や宿泊業等で着用の有無を巡って客とのトラブルが起きる恐れが有るとし、業界のガイドライン変更と周知に1カ月程度掛かる事を挙げた。

 マスク着用の新ルールは「個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断に委ねる事を基本」としており、屋内外を問わず個々の判断に委ねる事が大原則だ。

 但し、同時に着用を「推奨」する目安に関しても示した。

 着用を推奨する場として感染防止の観点から医療機関や混雑した電車内を挙げた他、高齢者施設の従事者、訪問者らも対象としている。

 重症化リスクの高い人が混雑した場所に出て行く場合は「着用が効果的」とし、陽性者や同居する家族に陽性者が居る人が通院等で外出する際は、周りの人への感染を広げない様「着用する」としている。感染の拡大時には「一時的に場面に応じた適切なマスクの着用を広く呼び掛ける」という。

 更にマスクを付けた生活が子供の発達に影響を与えるとの知見を考慮し、学校に関しては別途基準を設けた。4月1日から「着用を求めない事を基本とする」というものだ。今年度内であっても、卒業式については脱マスクを基本とした。

 ルールの変更を巡り、早々にマスクを脱した欧米をにらむ岸田文雄・首相はルールの緩和に前のめりとなっていた。

5月の広島サミットへの布石か

 背景に今年日本はG7議長国を務め、5月には広島で開催されるG7サミットに各国首脳が訪れるという事情があった。G7各国が脱マスクを済ませている中、日本だけ突出して規制が厳しいままなのはまずい、という判断だ。官邸は昨年末には関係省庁に具体的な見直し案を検討する様指示していた。

 政府の新型コロナ基本的対処方針分科会でも、経済系の専門家は早期の緩和を主張していた。これに対し、感染症の専門家は複数が慎重論を説いた。世論も二分されている中、官邸・経済系の専門家と感染症の専門家の主張に挟まれて右往左往していたのが厚労省、という構図だ。

 マスクの着用は政府が義務化していた訳ではない。状況に応じて「着用を推奨」し、昨年には「屋外で距離が確保出来る場合や会話しない場合は不要」と規制を緩めてもいた。

 そして1月末、新型コロナの5類への移行を踏まえて個人の判断を基本としたものの、専門家らの意見対立も有り、その時点では未だ具体策を示せずにいた。

 こうした中、2月8日に専門家で作る助言機関「アドバイザリーボード」は卒業式と入学式に限って脱マスクを認める見解を示した。マスクによって相手の表情が見えないままでは子供の発達に悪影響を与える、という専門家の主張に沿ったものだった。一方でこの会合では卒業式や入学式を取り上げただけで、商業施設や公共交通機関の利用時など他の個別事例には一切触れなかった。

 「高齢者や妊婦は流行期に混雑した場所に行くのを控える」等とする原案を用意していた厚労省は焦った。「具体例が何も無いのでは国民の判断材料にならない」(幹部)と懸念したからだ。

 同省の強い要望を受け、専門家側も「公共交通機関では着用が望ましい」「高齢者や妊婦が混雑した場所に行く時はマスク着用が効果的」といったところ迄は譲ったものの、メンバーの1人は「国は一方的に緩和を決めておきながら、個別事例でこちらに責任を押し付けるのはどうかと思う」と不満を口にし、苛立ちを隠さない。

 新型コロナが完全に収束した訳では無い状況下、マスクに一定の効用が有る以上、感染症の専門家が慎重論を唱えるのは当然だろう。アドバイザリーボードのメンバーら25人による78件の症例解析によると、マスクの着用者は非着用者よりも1週間当たりの感染リスクが0・84倍に抑えられ、2週間だと0・76倍まで低下するという。

医療の逼迫やクラスターへの懸念も

脱マスクが進み、再び感染が広がる様な事があれば医療機関の逼迫を招き兼ねない。東京都内でクリニックを経営する医師は「マスクを着用しない患者でも受診拒否は出来ない。『着脱は個人の判断に任せる』と言うが、拠り所になる判断基準が無いのに国民はどう判断するのか」と不安を訴える。

 東京都内の特別養護老人ホームの経営者らで作る「東京都高齢者福祉施設協議会」が昨年夏に実施した調査によると、273の入所施設中58・2%で新型コロナへの感染が発生し、その内59・7%ではクラスターが起きた。クラスターの発生理由として、「利用者が自ら感染対策を講じることが困難」「施設内療養は職員の負担が過大で感染対策が不十分になりやすい」等を挙げている。

 政府のマスク着用ルール緩和方針に対し、「全国老人福祉施設協議会」はこうした調査結果も踏まえて加藤厚労相に意見書を提出した。科学的根拠に基づく詳しい説明や、本人・同居家族が感染したり濃厚接触者となったりした場合の行動制限の考え方の周知と共に、抗原検査キットの支給など検査態勢の支援を求めている。又、「自分が感染しない為」では無く、「他人に感染させない為」というマスク着用の意義についても啓発を進める様訴えている。

 各報道機関の世論調査結果からも、一般国民はマスク着用派と脱マスク派に二分されている事がわかる。商業施設など接客業も引き続き来店者にマスク着用を求める所と、そうで無い所に分かれており、感染状況の行方をギリギリ迄見極めようとしている所も少なくない。

 都内の大型専門店の店長は「お客様の年齢層は幅広く、着用する人、しない人の間のトラブルも予想される。正直頭が痛い」と漏らす。

 今年は杉や檜の花粉の飛散量が例年より大幅に多いと予想されている。花粉症シーズンの本番を迎えマスクを外したくとも外せない人は少なくないと見られる。

 厚労省幹部はマスクを外したい人、外したくない人双方に配慮した結果、『個人の判断』に落ち着いたと説明しつつも「花粉の大量飛散に加え、他人の動向を気にする国民性を考えれば直ぐに『平時』に戻る事は無いだろう」と予想している。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top