設立の理念や職員の思いをアートに託す
235 耳原総合病院 (大阪府堺市)
戦後間も無い日本の復興期、貧しく治療を受けられない人達に手を差し伸べようと「無差別・平等」を掲げ、民家の2階を借りた小さな診療所からスタートした大阪府堺市の耳原総合病院。その後、地域住民等に支えられながら規模を拡大し、総合病院として急性期を中心に堺市の地域医療に貢献している。
老朽化した病院のリニューアル構想が持ち上がった2012年、元アーティストの看護師が「新病院を建てるのならホスピタルアートを取り入れて欲しい」と訴え、職員に賛同を求めた。それは街のシンボルとして病院の存在をアピールしたいと考えていた奥村伸二・前病院長の思いとも合致し、病院全体でホスピタルアートに取り組む事になった。
アートのテーマは「希望のともしび」。病気を治すだけで無く、人々の心に希望のあかりが灯る事を願った開設当初の診療所時代の思いを込めたという。エントランスホールに飾られたハート形のオブジェ「Expectation ——希望の芽——」は1万9000枚の小さなハートを組み合わせたYUKO TAKADA KELLER氏の作品。小さなハートにはスタッフや地域の方からのメッセージが書かれている。院内のエレベーターホールには、設立の原風景や実際の物語、目指したい未来を描いた。検査室では、壁面に銅版画家・安井寿磨子氏による海や街並み、花等を描いた作品を展開し、不安な気持ちで検査に臨む患者の心を和ませている。又、病院の外壁には小鳥やケヤキの大木、しずく葉を描き、病院の理念や歴史、職員の思いを表現した。小鳥は地域住民を、しずく葉は涙や苦難からの希望を、ケヤキは地域に根差した医療をイメージしている。
ホスピタルアートに取り組むに当たっては、アートディレクターに企画等を依頼した。しかし、取り組みを継続する為、15年4月の病院完成後も担当者を置き、現在は4人の担当者が在籍。絵画やイラスト以外にも、音楽やダンス、朗読といった表現によるアート活動も実施している。
耳原総合病院のホスピタルアートは、決して作品を飾る事だけではない。アートディレクターが職員の声を聞き、アイデアを生かして構想を広げて行く事も大事な活動の一環だ。ヒアリングやプレゼン等にも職員が参加し、作品作りに職員や患者、地域住民が参加する事も有る。新型コロナへの対応で職員が疲弊していた時期には、アートを求める声が更に高まり、院内放送を使ったラジオ番組や、外を見る間も無い程忙しいスタッフの為に全国から寄せられた空の写真を張り出す等のプロジェクトにも取り組んだ。
現在は、母体である社会医療法人同仁会が経営する他のクリニックでもホスピタルアートを展開しており、建て替え時にはアートを取り入れて行く予定だ。又、地域包括ケアの現場にもアートを取り入れる構想が有り、職員が快適に働き、利用者が不安無く治療や介護等を受けられる医療・福祉を追求して行く。
235耳原総合病院 (大阪府堺市)
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