権利擁護は本当に実現するのか?
精神保健福祉法を一部改正する法案が、2022年暮れの臨時国会で成立した。 1950年制定の精神衛生法から始まるこの法律は、「精神障害者の医療及び保護」を行うことなどを目的とする。
この「保護」が拡大解釈され、民間救急による拉致監禁や、財産目当ての家族による健常者の強制入院など、明白な事件までもが免罪されている。真の悪人にとって、「精神疾患」のレッテルを張りさえすれば、邪魔な人間を隔離収容できる法律ほど好都合なものはない。
精神保健福祉法は、第1章に「(精神障害者の)発生の予防」という化石のような文言が残るヘイト法律なので、改正の話が出る度に、厚生労働省は更なる改悪を恐れる人たちから変更の意図を厳しく問われてきた。そうした面倒を防ぐため、厚労省は今回、精神保健福祉法を含む5つの法律を1つに束ねた改正法案 を提出した。反対意見が出そうな法律改正案を、多くが賛成する法律改正案の中に入れ込むことで、反対の声をかき消す姑息な手法を使ったのだ。
改正を巡る検討会では当初、強制入院のほとんどを占める医療保護入院(精神科入院の半数を占めてもいる) の「将来的な廃止」が打ち出された。日本ならではの異様な制度なので当然だが、業界団体から反発があり、この文言はあっけなく消えた。「忖度」という言葉の事例として、辞書に載せたいくらい鮮やかな顛末である。
医療保護入院の問題は別の機会に述べるとして、今回は、改正で創設される「入院者訪問支援事業」(仮称)についてふれておきたい。
2024年度に始まるこの事業は、都道府県等の任意事業と位置付けられた。「都道府県知事等が行う研修を修了した入院者訪問支援員が、患者本人の希望により、精神科病院を訪問し、本人の話を丁寧に聴くとともに、必要な情報提供等を行う」という。
この事業で真っ先に対象となるのは、家族の同意ではなく、市町村長の同意で医療保護入院させられた患者だ。今回の改正で同意の規定が一部変更され、本人との関係悪化を恐れる家族が強制入院の同意・不同意の意思を明らかにしない場合、市町村長による同意が可能になった。
しかし、会ったこともない市長の同意で無理やり入院させられたら、当然納得できない。その不満を抑え込むために、民間の力を利用するというわけだ。虫のいい話である。
筆者が顧問を務めるKP神奈川精神医療人権センターは昨年、延べ約700件、新規約200件の相談を全国から受けた 。名称が「神奈川」なのに全国から多数の相談が寄せられるのは、精神科での人権侵害が一向に収まらないことに加え、相談できる組織が官民問わず極めて乏しいためだ。
入院者訪問支援事業が具体化した場合、KPメンバーが訪問支援員の認定を受けて活動するかどうかは難しい問題だ。行政の管理下では手足を縛られて、必要な支援を迅速に行えないのではないか。病院や行政のアリバイ作りに使われるだけではないか。とはいえ、訪問支援員にならなければ、研修未受講を理由に病院への立ち入りを拒否される恐れがある。
「精神科患者の権利擁護」が空虚な美辞麗句に過ぎない日本では、一見すると前進にみえる新規事業に関しても懸念が尽きない。
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