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未来の会

第178回 厚労省ウォッチング 先送りばかり、議論進まぬ介護分野の「給付と負担」

第178回 厚労省ウォッチング 先送りばかり、議論進まぬ介護分野の「給付と負担」

2024年度の介護保険制度改革に向けた社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の意見書がまとまった。とは言え、利用者の負担割合を2割とする対象者の拡大など負担増に関わるものは軒並み先送り。厚労省内からは「これ迄の制度見直しの中で積み残されて来た課題ばかりだから簡単じゃないよ」(幹部)との嘆きが漏れる。

意見書の「給付と負担」の部分は先送りのオンパレードだ。2割負担となる対象者(現在は単身なら年金収入等が年280万円以上)の拡大や、一定以上所得のある高齢者の保険料引き上げは「遅くとも23年夏迄に」、介護老人保健施設(老健)等多床室(大部屋)の室料を全額自己負担とする案については「23年度中に」それぞれ結論を出す様求めた。

今回の制度見直しでは、ケアプラン(介護サービスの計画)の策定に自己負担を求める案や要介護1、2の人向けの一部サービスを市区町村の事業に移す案も検討されていた。しかし、この2つは実現に法改正が必要だ。その為今回は断念し、27年度以降の介護計画を立てる迄に結論を出すとした。

結局、意見書に盛り込まれたのは介護のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進や、訪問・通所サービス等を組み合わせた複合型サービスの創設等に留まった。介護保険の見直しは原則3年に1度。12月に基本方針を決めるのが通例で、越年は極めて異例の事だ。

背景には、22年10月に一定の収入がある75歳以上の人の医療費の窓口負担(原則1割)の2割対象者を所得の上位30%の人へ広げたばかりという事が有る。医療と介護、ダブルパンチの負担増には与党からも慎重論が沸き起こった。厚労省老健局からは「先送りと言っても、24年度改定に向けてまだ時間が有る」「要介護1、2のサービス移管など断念した案は、利用者に痛みを強いる割に財政効果が小さい」といった釈明が聞こえて来る。

今回先送りしたり諦めたりした項目は、3年前の見直しでも検討されたものが大半だ。当時も「高齢者医療費の負担増と同時になる」という理由で断念に追い込まれた。「難しい宿題だけが残っている。まあ既視感有るよね」と厚労省幹部はぼやく。

介護の2割負担の対象者を増やす案は元々、22年10月に75歳以上の医療費の自己負担を一部引き上げた事を踏まえて「医療とのバランスを取る」というのが厚労省の言い分だった。「医療の負担が増えるから介護は増やさない」というなら当初の話とは真逆になる。

介護分野の「給付と負担」の議論が進まない事に、政府の有識者会議「全世代型社会保障構築会議」では不満も飛び出した。土居丈朗・慶應大教授は昨年12月7日の会合で「介護保険制度の持続可能性の確保について」と題した資料を示し、「制度改正の度に毎回同じ様な改正項目が宿題として掲げられ、その度に見送られている」「この会議が果たすべき使命から逃げていると言われかねない」等と批判した。

政府は今年、大幅に増やすとした防衛費や子ども・子育て予算を裏付ける増税に向き合わねばならない。介護の負担増の議論を先送りすれば増税議論とぶつかりかねず、厚労省内には「『介護も負担増を』とはますます言い難くなる」との懸念もくすぶる。

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