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第155回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ ゾコーバ:データ操作疑いあり

第155回 浜六郎の臨床副作用ノート  ◉  ゾコーバ:データ操作疑いあり

軽症で重症化リスクがないCOVID-19の治療用剤として、抗ウイルス剤エンシトレルビル(ゾコーバ®)が2022年11月に緊急承認された。従来の同種抗ウイルス剤はCOVID-19による入院または死亡を減らす効果で特例承認されたが、ゾコーバは症状改善効果が根拠とされた。薬のチェック105号*で詳細に検討しデータ操作の疑いが濃厚であることが判明した。概要を紹介する。

第2相は甘い緊急承認基準さえクリアせず

第2相までの結果で2度審査されたが、緊急承認制度で甘くなった条件「効能・効果が推定できる」をもクリアできず「継続審議(事実上の承認不可)」となっていた。

第2相は、小規模の2a相と中規模の2b相で、いずれも、プロトコル記載のCOVID-19の12症状を点数化した合計点数で評価したが、有意の症状改善が得られなかった。

問題はそれだけでない。2a相も2b相も両群には出発点で大きい偏りがある。ゾコーバ群がプラセボ群より点数が大きく、2b相はp=0.031と有意であった。しかも、この偏りによって、ゾコーバ群に有利になるように、合計点数の「変化量」が評価指標とされた。このように、ゾコーバに有利な偏りと評価方法が用いられたにも関わらず、2b相では症状改善すら「推定」もできなかったのである。

第3相試験計画は変更につぐ変更

第3相の主アウトカムは、2022年3月に国際登録システム(ClinicalTrials.gov)に登録された際には「全入院または総死亡」であったが、申請資料では「症状が回復するまでの時間」と食い違っている。また、ClinicalTrials.govでは8月23日に「症状回復までの時間中央値」に変更されたが、その症状の数も当初(第9版計画書)の「12症状」から9月20日の第10版計画書で「5症状」に変更された。しかも3相の5症状では、2b相で採用していた「息苦しさ(呼吸困難)」を外して「倦怠感または疲労感」に変更した。この変遷の結果「5症状の回復までの時間」が1日短縮した(p=0.04)として緊急承認された。

第3相は試験開始時の公平性の証明なし

2a相や2b相では、ゾコーバ群とプラセボ群のベースラインの症状点数の平均値と標準偏差のデータが、曲がりなりにも開示されていたので、その偏りを統計学的に検討することができた。

ところが、第3相試験では、プラセボ群とゾコーバ群にベースラインでの偏りがないとの証明が未だにない。背景因子の出発点が公平だという証拠がない限り、ゾコーバで改善したとは言えない。

害:胎児奇形、凝固異常、相互作用など

害は、肝障害と血液凝固機能異常、胎児奇形、骨の発育障害が問題となる。また、パキロビッド®と同様、併用で血中濃度が高まる薬剤が100種類以上あり、特に抗血液凝固剤との併用は危険である。妊娠可能な女性や使用後一定期間は避妊すること、との注意があるが期間は指定されておらず、現実的に妊婦への注意の周知は困難である。

結論

ゾコーバの臨床試験には根本的に欠陥があり症状回復効果を示す客観的証拠はなく、ましてCOVID-19による入院や死亡を減らす可能性は皆無である。国費(100万人分は1000億円前後相当)に見合う効果の裏付けは全くない。利益の証明なく、害だけがある物質、というのが薬のチェックの結論である。

参考文献

* 薬のチェック 2023:23(105):15-18.

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