財務省主導の為替介入は中央銀行の独立性を阻害している
多くの方が外為特会という言葉を聞いた事が有るだろう。正式には外国為替資金特別会計という。一般会計歳入において「その他収入」というものが有る。
租税63・5兆円、公債金32・6兆円に続いてその他収入が6・6兆円(6・4%)をも占めており大きい収入である事が分かる。この「その他税収」は主に日本銀行による国庫返納金、国債整理基金特別会計、並びに外国為替資金特別会計で構成されている。
外国為替資金特別会計は本来、外国為替のレートを安定させる為に政府が為替介入する時の為の資金として特別会計に充てられている。日本の技術力や産業競争力は比較的高いので放っておくと円高が進む傾向に有る。そこで政府が為替の安定的なバランスを取る為に介入出来る様にしている。介入は財務省が行い、日本銀行はその代理に当たる。実際には2011年以降は介入の実施が殆ど行われていない。それでも外国為替資金証券が発行されて当該会計の残高は増加して行っている。この証券は保有する外国債からのドル建ての金利収入が得られる。金利収入を証券化して財務省の要望により一般会計に繰り入れている。為替介入の為のファイナンスではないという理由付けを行う為に証券化して一般会計に戻すという事にしているのだ。実質的な赤字国債と言って良いのかも知れない。外為特会の総資産は令和2年には146兆円に上っている。外為特会は制度上、一般会計から独立しているが、凡そ利息受け取り分に当たる2兆円前後が一般会計に繰り入れられている。
外貨建ての資産の評価損は放置して良いのか
デフレが進行している場合、為替レートは上昇し易い状態である。そして、円高は輸入費の価格を下げるのでデフレを進行させる。円高がデフレのスパイラルを引き起こし、輸出を主とする製造業に深刻な悪影響を及ぼす。よって、財務省は日本銀行を代理人として為替介入を行って来たのだ。この事は日本銀行法第40条2項に規定されている。国際的にはEUも米国も中央銀行が外国為替市場に介入出来る。直接、介入していないのは日本とイギリスぐらいかも知れない。とは言え、06年以降は日本以外に為替介入する国は殆ど見られない。今では中国ぐらいしか為替介入していない。中国の外貨準備額は22年3月末において3兆1880億ドル、日本は同8月末で1兆2920億ドルとなっている。諸外国が中央銀行の独立性を重視している観点からすると、日本の財務省主導の介入は問題が有るのではないか。
外国為替資金特別会計の利益は外国為替等売買差益から生んでいる。介入により購入したドル資金をドル建て債券で運用しており発生する金利が収入になっている。令和2年度の外為特会の外貨証券運用益は2兆4381億円に上る。ここから損失として借入金の利子が引かれる。これは証券の利払いに当たるが極めて低い金利に設定されている。損益は年度によって変動するが、毎年2〜3兆円程度が計上される。その中から「積立金」と「一般会計繰り入れ」に分けて処理されている。積立金は内外金利の逆転に対する備えと円高が進行した際の評価損に備える為に有る。(資料:資産・負債差額増減計算書。財務省 令和2年度 外国為替資金特別会計財務書類より作成)
左表の様に23兆8705億円の損失を抱えたまま、それが慢性化している。つまり、過去から積み上がっている外貨建ての資産の評価損を解消する事無く今に至っている。
外国為替資金特別会計は、一般会計から独立し、外国為替資金証券として独自のファイナンス形態を採っている。その事が結果的に外為特会から一般会計への繰り入れを可能にしているのだろう。外貨建ての資産の評価損が巨額のまま解消されない場合は、外国為替資金証券が本来の趣旨から逸脱し、赤字国債が隠されている状態になっていると言える。よって、外国為替資金特別会計自身の損失が解消されてから一般会計に繰り入れるべきではないだろうか。
一般会計と特別会計を分ける必要が有るのか
特別会計自体の問題を検討してみる。そもそも、国家の予算を特別会計と一般会計に分ける必要が有るのか。国家には2つの財布が有り、特別会計は官僚の財布、一般会計は政治家の財布と言われている。官僚の財布である特別会計は年間約250兆円の予算が組まれていると言われている。一方、政治家の財布と言われる一般会計は年間約100兆円である。特別会計は、予算規模以外は殆ど公表されておらず詳細を把握する事は容易ではない。国民の負託を受けた政治家が議論して承認するのは国家予算全体の凡そ3分の1以下の一般会計だけである。
国の財布を特別会計と一般会計に何故分けるのか。何故、特別会計は政治家に立ち入らせないのか。特別会計は何故詳細を公表しないのか。それは官僚の既得権を増殖し、維持し、厚遇する為なのではないだろうか。官僚達の天下りポストや利権的な受発注や入札、随意契約など公に出来ない既得権がアメーバーの如く各界に張り巡らされ肥大化して来たのではないか。その闇に埋もれた特別会計の財源になっているのが年金、健康保険、道路、自動車、労災、食料、登記、特許、国有林、農業、漁業、エネルギー等の国民の負担金なのである。
何故、国会で特別会計を審議対象としないのか。官僚達は人事と天下りポストと特別会計の予算を一体化させているのではないか。もし、違うのなら特別会計を廃止して国家予算を一本化するべきである。
森友問題の土地も特別会計だ。米国債を外為特会で買い支えて来たと言うが実際の保有額も不明である。特別会計は会計検査院の検査対象にもなっていない。又、一般会計の内約50兆円を特別会計に繰り入れたりする事で財務省は資金の流れを敢えて複雑化し国民の視線を逸らしている。
年間約250兆円規模の特別会計にメスを入れる事で年間約20兆円の消費税と相当額くらいの財源を捻出する事は可能なのではないだろうか。2002年に特別会計について追及していた民主党の石井紘基・衆議院議員が刺殺されている。事件現場からは特別会計や整理回収機構について国会で質問する予定の資料が持ち去られている。服役中の犯人は殺害を頼まれて実行した事を明かしているが、その依頼者については自白していない。
この様なテロに屈してはいけない。特別会計が国家のへそくりだとすれば、それは一般会計の2倍以上の予算規模に膨れ上がっているのだ。そして、へそくりはあくまでへそくりで、その詳細は闇の中だ。国家予算を国民の手に取り戻し、健全性の有るガラス張りの予算組と執行を行える様にしないといけない。それは国会議員に課せられた大きな課題であり使命と言える。
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