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未来の会

東京医科歯科大学と東京工業大学

東京医科歯科大学と東京工業大学
統合で見据える卓越した“医工連携”への道

2023年1月、「東京科学大学」という新大学の名称が、文部科学省の大学設置・学校法人審議会に提出された。2024年度の統合を目指す、東京医科歯科大学(本部・東京都文京区)と東京工業大学(同・東京都目黒区)の新名称である。略称は科学大、英語名は「Institute of Science Tokyo」である。新名称は、在学生・教職員、卒業生に一般も含めた6000件以上の提案を参考に検討した結果、これからの科学の発展を担うという意気込みの下、親しみやすい「科学」を冠した。

 共に伝統の有るトップレベルの国立理系大学の統合は、アカデミアのビッグニュースだ。両校には互いに重複する学部が無い事から、再編は不要で、着々と準備が進む。統合に向けた両校の本格的な協議は22年8月に始まった。コロナ禍でオンラインの会合が浸透した事も後押しし、延べ34回、60時間以上の集中的協議を重ね、10月には基本合意書の締結に至ったとされる。

この統合話は合意から2年前の20年、医科歯科大が東工大に対して、連携推進法人を立ち上げないかと打診した事から始まっている。同年4月、コロナ禍が拡大する最中に就任した医科歯科大学長の田中雄二郎氏が、東工大学長の益一哉氏を直接訪ねて話を持ち掛けた。当初は「1法人2大学」として、医工連携を深めようという狙いだったが、多様な可能性が模索された末、最終的に「1法人1大学」で最大の統合効果を得ようという事で話がまとまった。そこに至る間には、若手の研究者同士が各校から4〜5人ずつ集まって合宿し、夢を語るといった場も設けられたという。

大学の統合が加速したのは04年、それまで親方日の丸の下にあった国立大学が独立行政法人化された前後からだ。医学系の単科大学では特に顕著で、山梨医科、福井医科、島根医科など8つの新設大は、それぞれ県下の総合大学に統合された。富山医科薬科大学も富山大となった。02〜07年に29大学が14大学に統合されたが、その殆どが、少子化が進行する中で経営面の課題を乗り切ろうという目的だった。

これに対し、医科歯科大と東工大は実績が十分な大学同士の統合であり、注目度も高い。医科歯科大は28年に官立歯科医学教育機関として設置され、学問と教育の聖地である湯島・昌平坂において、医学と歯学の融合を通じて先進的な医療を実践する日本で唯一の医療系総合大学だ。千葉県に教養部のキャンパスが在り、学生数は3000人強。21年10月、2つの附属病院を統合。一方の東工大は1881年に東京職工学校として設立された理工系総合大学。都内と横浜市に3つのキャンパスが在り、在校生は1万人を超える。学生は人文社会学系のリベラルアーツ教育を受ける。

両校に共通するのは、共に「指定国立大学」である事だ。これは、日本の大学の教育研究水準の著しい向上とイノベーション創出を図る目的で、世界最高水準の教育研究活動の展開が見込まれる大学として、文部科学大臣が指定する制度だ。安倍政権下の17年にスタートし、「ハーバード大学に負けない大学づくり」が旗印となった。医科歯科大は、10ある指定国立大学の中で唯一の医療系に特化した国立大で、「世界屈指のヘルスケア・サイエンス拠点の形成」を掲げる。国立大学経営改革促進事業に採択され、22年の進展状況は最高評価のSと評価されている。

医科歯科大と東工大の共通点はまだ有る。自他共にトップと認める東京大学に対する対抗意識である。戦後しばらく、医科歯科大の学長や教授は東大医学部出身者が多くを占め、東大の植民地と揶揄された時代も有った。80年代でも、東大卒の教授の割合が自校出身者を上回っていたが、現在はすっかり逆転している。

10兆円ファンドへの期待

両校が統合した先に見据えるのが、「国際卓越研究大学」に認定され、大規模な研究資金を得て研究体制を強化する事だ。22年5月に成立した「国際卓越研究大学支援法」に基づき、政府が拠出した10兆円で科学技術振興機構(JST)にファンドを創設し、運用益で認定校の大型の支援を行う。通称「10兆円大学ファンド」と言われ、先端研究に取り組み世界トップレベルに成長が期待出来る大学を文科省が数校認定する制度だ。

ファンド創設の背景には、国際的な研究力低下に対する政府の懸念と焦りが有る。文科省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の「科学技術指標2022」によれば、18〜20年に発表された主として理工系論文で引用上位10%に入った影響力のある論文数では、日本は世界で12位でだった。インドや韓国の後塵を拝し、初めてトップ10から陥落した。1998〜2000年には、米国、英国、ドイツに次ぐ4位であった事を思えば、凋落著しい。

日本の18歳人口の減少は顕著で、国立大学の運営費交付金は毎年減額されている。21年の交付金は、トップが東大の835億円、次いで京大573億円、以下、東北大459億円、大阪大、東海国立大学機構(名古屋大と岐阜大の運営法人)、九州大と、旧帝大が続く。東工大は218億円、医科歯科大138億円で、両校を合わせた356億円は、北海道大学の366億円、筑波大学の361億円と同等規模である。北大と筑波大は総合大学であり、医系学部と工学部だけの合計と考えれば、かなりの規模だが、まだまだ不十分というのが、両校の見解だ。

10兆円ファンドの運用益は年3000億円を目標としており、仮に6校に分配する事になれば、単純計算で1校当たり500億円だ。公募は22年度末が締め切りで、同年秋から順次認定がスタート。段階的に数校程度にまで拡大する予定だが、国公私立大学40校以上が申請を検討しているとされる。22年11月に公表された選考基準は、①国際的に卓越した研究成果の創出(研究力)、②実効性高く意欲的な事業・財務戦略(支出額ベースで年3%の事業成長)、③自律と責任のあるガバナンス体制(合議体)改革の具体案が、3本柱に掲げられている。①の研究力では、引用数が上位10%に入る論文が直近の5年間で、ⓐ1000本程度以上かつ総論文数の1割程度以上、ⓑ研究者1人当たり0.6本程度以上、のいずれかが求められる。注目すべきは、研究実績は勿論、世界トップレベルに到達する為のビジョンと財務戦略の具体性が重視され、“稼げる大学”である事も条件となる。

支援期間は最長で25年間で、助成金は翌年度に繰り越しが可能だ。強化計画の進捗状況は文科省に毎年報告し、中長期で6〜10年ごとに支援継続の可否が評価される。同時に、成果が助成に見合っていないと判断されれば、支援が打ち切られる。

論文の総数だけを条件とせず、中小規模の大学にも門戸が開かれた制度であると言える。話を元の統合話に戻すと、医工連携はとりわけ成長が期待される分野であり、医科歯科大と東工大が統合する事で、より有利に選考を乗り切ろうと考えるのは自然だ。

対等でWin-Winな関係を築けるか

前述の通り、学生数は東工大が医科歯科大の3倍強だが、職員数は病院を抱える医科歯科大が多い。運営費交付は東工大が多いが、総予算は医科歯科大が大きい。医局等の組織人事は、医学部特有のものだ。研究面では、医学者と工学者が、対等にWin-Winの関係を築けるかどうかが、成否の鍵を握る。対等である事を示す為、新名称は「医科」「歯科」「工科」を排している。最初の法人の長を選ぶ会議は、両大学から同数推薦されるが、その後は未定だ。統合後の大学の舵取りは、より合理的に事を進める事を重視する事も必要になるだろう。

医科歯科大と言えば、附属病院が新型コロナウイルス感染症の対応に率先して取り組み、20年4月第1波から重症者を中心に常に多数の患者を受け入れ、臨床現場で中心的な役割を担ってきた。それは、今なお継続中だ。オミクロン株など変異ウイルスの研究でも成果が出ている。正にコロナ禍でこそ煮詰められた新大学構想の未来に、医学と工学の“二刀流”人材の輩出等、日本の閉塞感を打破する成果を期待したい。

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