厚生労働省の昨夏の幹部人事を巡り、栗生俊一・内閣官房副長官から或る人物の処遇について注文が付いた事はあまり知られていない。内閣人事局長も兼ねる立場の為、こうした「介入」に違法性は全く無い。前任の杉田和博氏より霞が関への「睨み」が利かなくなったとされる栗生副長官だが、官僚の生殺与奪権を握る人事案件になると別のようだ。
関係者の話を総合すると、変更されたのは大西証史・老健局長を巡る人事だという。現在、昨夏の幹部人事で内閣総務官から老健局長に収まった大西氏だが、当初は別の局長に充てる案が有力だった模様だ。
この案を見た栗生副長官が「きちんと処遇しないといけない」等とリクエストした結果、介護保険法の見直し等重要な課題が山積し、より格上と見られる老健局長に変更された様だ。
栗生副長官が大西氏の処遇に拘ったのには理由が有る。大西氏は2018年7月に内閣官房内閣審議官に就任すると、20年7月には内閣総務官に昇格している。内閣人事局人事政策統括官や皇室典範改正準備室長を兼任する等、官房副長官を下支えする枢要なポジションを務めたからだ。
内閣総務官は旧内務省のポストで、現在は厚労省の他、総務省、警察庁、国土交通省でポストを回しており、内閣総務官を務めた官僚は出身省庁に戻っても出世コースを辿るのが通例とされる。厚労省出身者では、土生栄二・内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局長や原勝則・元厚労審議官、柴田雅人・元内閣審議官らが内閣総務官を務めた。
内閣総務官だった大西氏の評判というと、そつの無い仕事振りで知られ、前任の杉田氏からの評判も良かったという。あるメディア関係者は「杉田前副長官からは、厚労省出身だが大西君はよくやっている、と話しているのを聞いた事が有る」と明かす。
愛媛県出身の大西氏は、県立松山東高校、東京大法学部を卒業後、88年に旧厚生省に入省した。同期には渡辺由美子・内閣官房こども家庭庁設立準備室長や川又竹男・社会・援護局長、度山徹・大臣官房地域保健福祉施策特別分析官らが居る。大島一博・事務次官や伊原和人・保険局長らを輩出した87年組程ではないにしても、優秀な人材が揃っている代とされている。
大西氏は障害保健福祉分野が比較的長く、大臣官房広報室長や社会・援護局保護課長、健康局総務課長、大臣官房総務課長等を歴任した。尾辻秀久・元厚労相の秘書官も務め、今でも尾辻氏の事務所に出入りする等、可愛がられている事はよく知られている。
中堅職員は「常に笑顔なのが怖い時もあるが、物腰柔らかく、根回しも上手い。指摘も的確で、永田町からの信頼も厚い」と話す。こうした仕事振りや人柄が栗生氏からも評価されたと見る向きもある。
内閣人事局長でもある栗生氏が各省庁の人事に口を出すのは何ら問題は無く、きちんとした人事評価に基づくものならむしろ首相官邸主導の面からも正しい在り方だ。こうした官房副長官ら首相官邸主導による「介入」はこれからも増えて行くかも知れない。
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