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第170回 政界サーチ 2023年、卯年の政局展望

第170回 政界サーチ 2023年、卯年の政局展望

2023年が明けた。干支は癸卯(みずのとう)である。易学では、大地を潤す癸と飛び跳ねる卯の組み合わせは、これ迄の努力が実を結び、飛躍が期待される、というイメージなのだそうだ。新型コロナウイルスもロシアのウクライナ侵攻も終息の見通しは立っていないが、平和と繁栄に繫がる1年となる様努める他に道は無いと受け止めよう。

 陰陽五行説によれば、癸は水の陰のエネルギーを、卯は木の陰のエネルギーを表すそうだ。陰とは月の事である。卯は月と関わりが深い動物として知られる。日本では月の影の形を「卯の餅つき」に例えるが、卯と月の親密性を説く伝承は東アジア共通の文化である。

 因みに中国の伝説では、卯は月の女神に仕える動物で、長寿のシンボルとされている。月、卯、桃はいずれも不死、再生、豊穣の象徴として扱われている。近代化した中国では顧みられる事も少ないが、庶民文化としてはしっかり残っている。「卯の餅つき」には東アジアの文化のエッセンスが詰まっているのだ。

 さて、卯年の政界だが、多難の様相である。閣僚が不祥事の引責で次々に辞任に追い込まれる「辞任ドミノ」で、岸田文雄内閣は著しく体力と信用を失っているからだ。信用は政治の要であり、どんなに優れた政策であっても信用がなければ推進は難しくなる。岸田政権では既に3閣僚が辞任し、選挙での影武者疑惑で窮地に追い込まれた秋葉賢也・復興相が持ちこたえられるかに注目が集まっている。自民党中堅がぼやく。

 「麻雀なら満貫に振り込む寸前で、〝倒閣リーチ状態〟。秋葉さんが辞めたら、万事休すじゃないの。だって、春の統一地方選が戦えないでしょ」

 やや投げやりな発言で、根拠も希薄ではあるが、岸田政権を覆う暗雲は良く分かる。確かに閣僚の連続辞任で、第1次安倍晋三政権は潰れた。ただ、政治状況は大分異なる。第1次安倍政権の時代は、最大野党の民主党が衆参合わせて200余りの議席を有し、世論も政権交代への期待が強かった。自民党がバブル崩壊後の国難に全く対処出来て来なかったとの不満が蔓延していた。そうした世相が背景にあった上で、安倍元首相の病気による辞任という結末が訪れた。第1次安倍政権に続いて、閣僚が4人連続で辞任に追い込まれれば確かに異例の事態ではあるが、閣僚辞任数が直ちに倒閣に結び付く訳ではない。

 岸田政権下では、最大野党の立憲民主党は衆参合わせて136議席に過ぎない。政党支持率で見ても、政権交代への期待は決して高くない。岸田政権の現状は、かなりしんどいが耐え切れない状態でもないというのが順当な見方だろう。

河野うさぎはいつ跳ねる

 とは言え、首相交代への期待が無い訳でもない。地方の首長や議会議員を決める統一地方選が4月に迫っているからだ。自身の選挙にも影響を及ぼし兼ねない地方選挙を何とか凌ぎたいと、選挙に自信の無い若手や中堅の多くは思っている。

 そうした若手・中堅の期待を集めているのが河野太郎・消費者担当相だ。各種世論調査でも次期首相候補のナンバー1として注目されているし、前号の当欄で紹介した様に旧統一教会の被害者救済制度を巡っては岸田首相と主導権争いも演じた。前回の自民党総裁選では敗れたが、このところ、〝ポスト岸田〟を意識した言動が目立っている。

 河野消費者担当相の長所は歯切れの良い弁舌と、自民党の常識に囚われない自由で大胆な発想に在る。短所については、「仲間を作れない」「自分勝手でリーダーシップが無い」等と指摘されて来たが、これは長所と表裏一体のものだろう。最近では、自民党幹部の中にも「河野さんは、旧来の自民党の派閥主義的なリーダーシップとは無縁だが、政策や発想の共通点を繋いで群れを作る力は備えている」と評価する向きも有る。

 少し、干支の話に戻そう。河野消費者担当相は1963年1月10日生まれ。つまり、癸卯の生まれで、間もなく還暦を迎える。偶然かも知れないが、この人がピョンと跳ね上がれば、政界が大きく変わる契機になるかも知れない。

 河野一族は政治一家だ。祖父・一郎氏は元副総理、父・洋平氏は元衆院議長である。いずれも、首相を狙える有力政治家だったが、一郎氏は安倍元首相の大叔父・佐藤栄作氏に敗れた。洋平氏は非自民連立政権誕生で、野党に転落した自民党の総裁になり、首相になれなかった。干支の癸卯が「積年の努力が実を結び、飛躍が期待される」との暗示であるとすれば、河野一族の悲願成就に何かしらの縁を感じないでもない。

 河野消費者担当相は麻生太郎・副総裁率いる麻生派に所属している。但し、麻生派が一枚岩で河野消費者担当相を後継首相に推している訳ではない。「仲間をまとめられない」との批判はこの辺に由来するが、肌の合わない仲間とは一線を画すのが河野消費者担当相の流儀だ。そこが、「旧来の自民党臭がしない」と若い世代に人気が高い理由の1つにもなっている。

 派閥の全面支援こそ無いが、河野消費者担当相には強力な助っ人もいる。「河野を首相にしたい」と言ってはばからない菅義偉・前首相と小泉進次郎・国対副委員長だ。3人は共に神奈川県選出で、岸田政権誕生の前哨戦になる「菅降ろし」に共に立ち向かった仲間である。河野消費者担当相が総裁選で岸田首相に敗れた事で、いわゆる〝負け組〟に転落するが、岸田政権の支持率低下に伴い、党内で再び注目を集め出しているのだ。

 〝負け組〟に要注意人物がもう1人いる。二階俊博・元幹事長だ。1939年2月17日生まれで、来月84歳になる。そう、この人も卯年なのだ。河野消費者担当相の後ろ盾を任じる菅元首相と懇意で、その動向は〝ポスト岸田〟の行方に大きく関わって来ると見られている。岸田首相との会談では、政権運営への協力を表明しているが、周囲には「黙っていればいい」と語っている。「黙々と内閣を支える事が将来的な派閥の安泰に繋がる」とも取れるし、「黙って待っていれば、勝手に内閣が潰れる」とも読める。老獪且つ玄妙なコメントである。

キーマンは潜水艦とステルス?

二階元幹事長は「理屈よりも行動」の人とされる。あれこれ、机上で計算するのでは無く、機を見て素早く動く。秘書時代から培った長年の経験と、生来の勘の良さが持ち味だ。自民党中堅はその存在を「動静が把握しにくい政局の潜水艦」と称している。安倍元首相の死去に伴い、自ら提唱した派閥横断型の勉強会を見送り、目立った行動を控えている菅前首相も目が離せない存在だろう。前述の中堅に言わせると「飛んでいるのに姿が見えないステルス戦闘機」なのだそうだ。

 卯年の政局は潜水艦とステルス戦闘機の動向次第と言う事らしいが、岸田首相に近い自民党幹部はこんな事を口にした。

 「新型コロナもウクライナ情勢も有る。首相を変えて目先を変えた所で本質的に問題が解決するとは思えない。政局にかまけている場合じゃない。というより、今首相になるのは〝火中の栗〟を拾う様なものだから、皆様子見が本音だろう。それなら岸田政権は黙々と仕事をし、結果を残す。それだけだ」。開き直りと言えば、それ迄だが、案外、的を射ているかも知れない。

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