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第159回 経営に活かす法律の知恵袋 ◉ 各地域での助産所開設促進と医療連携確保

第159回 経営に活かす法律の知恵袋 ◉ 各地域での助産所開設促進と医療連携確保
少子化そのものに対処するための直截的な施策

 2022年8月30日、厚生労働省が人口動態統計(速報値)を公表した。22年上半期(1〜6月)の出生数が40万人を下回ったとのことである。22年上半期の出生数は約38万4942人で、21年と比べて約5%減、20年と比べて約10.6%減とのことであり、凄まじい出生数の減少と言えよう。

 少子化への対処の必要性は、20年以上も前から叫ばれていて、すでに03(平成15)年には「少子化社会対策基本法」が制定されていた。その前文では、対処すべき事態がズバリと表現されている。その一部を引用すると、「我らはともすれば高齢社会に対する対応にのみ目を奪われ、少子化という、社会の根幹を揺るがしかねない事態に対する国民の意識や社会の対応は、著しく遅れている。少子化は、社会における様々なシステムや人々の価値観と深くかかわっており、この事態を克服するためには、長期的な展望に立った不断の努力の積重ねが不可欠で、極めて長い時間を要する。急速な少子化という現実を前にして、我らに残された時間は極めて少ない。もとより、結婚や出産は個人の決定に基づくものではあるが、こうした事態に直面して、家庭や子育てに夢を持ち、かつ、次代の社会を担う子どもを安心して生み、育てることができる環境を整備し、子どもがひとしく心身ともに健やかに育ち、子どもを生み、育てる者が真に誇りと喜びを感じることのできる社会を実現し、少子化の進展に歯止めをかけることが、今、我らに、強く求められている」などという毅然としたものであった。

 その目的•基本理念は良かったのだが、残念なことに、少子化社会対策基本法ではストレートに「出産(分娩)」そのものに切り込むところは乏しかった。そのため、少子化そのものに対処するための直截的な施策が薄かったと言えるように思う。

地域再生に直結する少子化対策

 少子化の進展は、地方創生の面でも深刻な事態を招く。05(平成17)年に制定された「地域再生法」でも、少子化に言及されている。地域再生法の基本理念を定めた第2条では、「地域再生の推進は、少子高齢化が進展し、人口の減少が続くとともに、産業構造が変化する中で、地域の活力の向上及び持続的発展を図る観点から、地域における創意工夫を生かしつつ、潤いのある豊かな生活環境を創造し、地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる住みよい地域社会の実現を図ることを基本とし」なければならない旨が規定された。

 また、地域再生基本方針の策定について定めた第4条でも、その第2項第3号において「特定政策課題」として「地域における少子高齢化の進展に対応した良好な居住環境の形成その他の地方公共団体が地域再生を図るために特に重点的に取り組むことが必要な政策課題」が規定され、具体的には、政令たる地域再生法施行令第1条第1号で「地域における少子高齢化の進展に対応した良好な居住環境の形成」などが規定されている。

 しかしながら、地域再生法とその関連法令では、結局、「少子高齢化の進展」「人口の減少」が所与の大前提となってしまっていて、地域再生に直結するような少子化対策そのものに対しては切り込まず、その施策は明瞭には定められてはいないと言えよう。

 以上の次第であり、少子化社会対策基本法においても地域再生法においても、それら自体は少子化対策そのものには直截的ではなく、必ずしも十分でも無かった。

こども基本法における「出産」施策の登場

 以上の各法律と対比すると、22(令和4)年に制定された「こども基本法」(23年4月1日施行予定)は、少し趣が異なる。正面から、「出産」を「こども施策」の1つとして取り上げたのである。

 「こども基本法」第2条第2項の「こども施策」の1つとして、その第2号に「子育てに伴う喜びを実感できる社会の実現に資するため、就労、結婚、妊娠、出産、育児等の各段階に応じて行われる支援」が定められ、「出産」への支援が明示されたのである。

 少子化対策の点については、「こども基本法」が初めてではない。そのベースは、すでに「少子化社会対策大綱〜新しい令和の時代にふさわしい少子化対策へ〜」において、策定されていた。たとえば、20年5月29日閣議決定(第4次の大綱)では、「国民が結婚、妊娠•出産、子育てに希望を見出せるとともに、男女が互いの生き方を尊重しつつ、主体的な選択により、希望する時期に結婚でき、かつ、希望するタイミングで希望する数の子供を持てる社会をつくる(結婚、妊娠•出産、子育ては個人の自由な意思決定に基づくものであり、個々人の決定に特定の価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりすることがあってはならないことに十分留意)」、「多子世帯、多胎児を育てる家庭に対する支援」、「地方創生と連携した取組の推進」、「結婚、妊娠•出産、子供•子育てに温かい社会をつくる」など、「こども基本法」の基盤が明示されていたのである。

各地域での助産所開設の促進策

 「希望する数の子供」、「多子」の妊娠•出産を支援するためには、それにつながって行きやすい助産所分娩(開業助産院での分娩も病院内助産所での分娩も含む)や在宅分娩(助産師による出張の下での自宅分娩。無介助分娩を除く)ができるように、分娩介助の提供体制を形作るべきであろう。産科医不足で産科医療集約化の昨今、特に過疎地域などにそのような提供体制を形成するのは、物的•人的•資金的に不可能に近い。そうすると、今後はできる限り、比較的容易な「助産所」の増設を進めて行くのが適切であろう。

 さらには、「地方創生と連携した取組の推進」も意識するならば、各市町村や地域で、地方自治体が単独で又は共同で支援することとし、小規模でよいので「助産所」を公立で開設し、または、民間の「助産所」を誘致して補助金を拠出したりすることも、地方創生にとって有益である。

 つまり、少子化対策と地方創生とこども家庭の3方の政策効果が得られる施策(少子化社会対策、地方創生策、こども施策)として、全国各地域で「助産所」の開設を大胆に促進していくべきであると思う。言い換えれば、少子化対策、地方創生策、こども施策のいわば「センター」に「出産(分娩)」を位置付け、そこに多子化の傾向性もある「助産所」も参画させて、「出産(分娩)」を量的に拡充しようとする政策なのである。

 なお、医療法第19条第1項によれば、助産所では嘱託医や嘱託医療機関を定めなければならない。産科医不足で産科医療機関集約化の昨今、その負担が大きいとして、なかなか嘱託医や嘱託医療機関が見つからないことも多いらしい。しかしながら、そのような実情に鑑みて、厚生労働省は22(令和4)年6月6日付けで「助産所、嘱託医師等並びに地域の病院及び診療所の間における連携について(再周知)」と題する事務連絡を発出した。そこでは、「嘱託を受けたことのみをもって、嘱託医師等が新たな義務を負うことはない」と明言し、また、「嘱託医師等は、分娩時等の異常への対応に万全を期するために定めるものであるが、必ず経由しなければならないという趣旨ではない。実際の分娩時等の異常の際には、母子の安全を第一義に、適宜適切な病院又は診療所による対応をされたい」とも言い切っている。つまり、そのようなものであるから、必ずしも負担が大きいものではないと、厚生労働省がことさらに強調したのであった。したがって、この厚労省通達に則って、助産所と産科医・産科医療機関は連携を確保していくことが強く要請されている。そして、このことは、医療法固有のことだけではなく、すでに述べて来た少子化社会対策•地方創生策•こども施策からも、やはり強く要請されていると言えるであろう。

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