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未来の会

高齢化を見据えた地域医療基盤の強化へ ~救急搬送の積極応需・近隣施設との連携を推進~

高齢化を見据えた地域医療基盤の強化へ ~救急搬送の積極応需・近隣施設との連携を推進~
池田 寿昭(いけだ・としあき)1978年東京医科大学医学部医学科卒業。麻酔科医。83年東京医科大学麻酔科学。86年同大学八王子医療センター麻酔科。88年ベルギー王立ゲント大学留学。89年東京医科大学八王子医療センター救命救急センター部長・助教授、2006年同センター特定集中治療部教授、14年同副院長を経て、17年10月院長に就任(現職)。1998年日本救急医学会評議員、99年日本集中治療医学会理事、2004年日本急性血液浄化学会理事、日本 Shock 学会理事等の学会役員を務める。著書に『緊急麻酔の心得 —ここが肝心・おさえどこ!—』(克誠堂出版)が有る。

人口約144万人を擁する東京・南多摩健康医療圏 は、1966年からの都市計画事業によって生まれた「多摩ニュータウン」を中心とする急激な人口増を経験し、今後は著しい人口の減少と住民の高齢化が予測されている。こうした地域の変化を目前に、災害対策と地域医療基盤の強化が大きな課題となる。同医療圏の災害拠点病院であり、高度急性期医療を担う東京医科大学八王子医療センターの取り組みについて、病院長の池田寿昭氏に話を伺った。

——院長就任から5年が経過。これまで力を注がれて来た事についてお聞かせ下さい。

池田 当院の救命救急センターは、開設当初より「3次救命救急センター」を標榜して来た為、救急搬送や近隣の医療機関からの紹介は極力受け入れるようにして下さいとお願いしています。南多摩医療圏のみならず近隣の山梨県や神奈川県からの搬送患者も受け入れていますし、最近では、ヘリポート搬送も増えています。物理的にベッドが無いという時等、月に10〜20件は受け入れられないという報告も上がって来ています。件数ではもっと受けている所も有るかも知れませんが、3次救急の応需率では都内トップです。2次救急はシステムが異なり、救命救急センターの医師だけではなく、一般の内科・外科のドクターが診ますので、検査中や手術中で断られるケースも有りますが、それでも60%以上は受けてくれていると思います。

——救急隊から見ると、八王子医療センターに頼めば大丈夫という期待が有るという事ですね。

池田 そうですね。当救命救急センターのスタッフはモチベーションが非常に高く、最後の砦としての自覚を持って仕事をしています。しかし、現在は東京都の感染症指定医療機関である事もあって、コロナ以降は3次救急患者の受け入れを制限せざるを得ない状況に陥りました。応需率は半分にも満たないところまで減り、経営的にも厳しい状況に置かれました。

感染症指定病院としてコロナ診療に奮闘

——新型コロナウイルス感染症の重症患者も積極的に受け入れています。

池田 現在迄に、総数で約1400名の入院患者を受け入れました。20年2月にダイヤモンド・プリンセス号から運ばれて来たのが最初ですね。神奈川県での受け入れが一杯になって来たという事で、行政の方から保健所経由で連絡が有りました。当センターは感染症の指定医療機関ですから、断る訳にはいかないという事で、海外からの夫婦2名を受け入れました。初めはどちらも酸素も必要としない位で、女性の方は自然に良くなったのですが、男性の方が3〜4日目から息苦しさを訴えるようになりました。その時当直だった先生がたまたま感染症科の医師で、CTを取ったら真っ白だったんですね。そのまま診て行く事も考えましたが、まだ薬もワクチンも無い時期でしたから、どうなるか分からないし、感染の恐れがあるという事で、国立国際医療研究センターへ移す事になりました。この時は直ぐにECMOを回して助かりましたが、悪くなる人はあっと言う間に悪くなる怖い病気だなという印象を持ちました。第1波の時は病院の中は大慌てでしたね。今はワクチンが行き渡り、ウイルスの株自体も変異して来て死亡率が下がりましたので、あまり驚かなくなりました。

——救急搬送されるコロナの患者さんは、予めコロナに感染しているか分かっているのでしょうか?

池田 色々なケースが有ります。コロナ陽性で重症でという事で搬送されて来る患者さんも居ますし、くも膜下出血や心筋梗塞で運ばれて来て、調べたらコロナ陽性だったという場合も有ります。ただ、当然こういう状況に応じた教育を行って来ていますので、救急搬送患者の対応をするスタッフが新型コロナに感染したという事は聞いていません。

——院内での新型コロナウイルス感染症対策は?

池田 基本的には、行政の指導に従って対応して来ました。独自の判断で、「八王子方式」とか「八王子医療センター方式」等というような事はせず、石橋を叩きながらやって来ました。その中で、少なからずセンター内の診療形態を変えざるを得ませんでした。先ず、全診療科で新型コロナウイルス罹患患者に対応するシステムを導入しました。司令塔の医師を感染症科の教授に依頼し、その下でコンシェルジュ役として主に内科系の医師を2名、更にその下に新型コロナ対応当番医1名を配置して、入院患者の治療に当たると共に、行政への報告を行うようにしました。最初の頃はICUを使用していましたが、新型コロナウイルス感染症の患者さんを受け入れると、心臓手術や移植手術を必要とする他の患者さんを受けられなくなってしまいます。そこで、機材管理室の機械を全部取り払い、そこに陰圧室を作って8床の重症コロナ部屋を作りました。

——病床を完全に分ける事で、補助金が支給されますね。

池田 もちろん重症部屋にして陰圧室にすれば高い点数が付きます。ただ、重症部屋を管理するには、それなりの体制が必要になります。当センターの場合は看護師の数がギリギリで働いていますから、一般病棟から引っ張って来たり、病院全体から少しずつかき集めたりしながら、最初の頃は一生懸命やっていました。しかし、これでは看護師が疲弊してしまいますし、一般病床の方を潰さざるを得ないという事にもなり、収益が下がってしまいます。そこで、最近は出来るだけ重症部屋を使わないようにして、ICUの中に陰圧室を作り2床迄受け入れるようにしています。

紹介患者を積極的に受け入れ、地域連携を強化

——南多摩医療圏の中核病院として、地域医療の推進の為にどのような取り組みをされているのでしょう。

池田 先程もお話ししましたように、近隣の医療機関や開業医の先生方からの紹介患者さんは可能な限り受け入れるようにしています。当センターは私が院長代行を務めていた17年8月に、南多摩医療圏で2番目に「地域医療支援病院」の承認を頂きました。その時から「紹介率」「逆紹介率」共に高く維持しており、紹介率は80%近く、逆紹介率は87%と、近隣の医療機関との連携はより密接になっていると考えています。外来は1日当たり1000人を超えており、八王子市民が85%を占めていますが、近隣の日野市や山梨県から来られる患者さんも居ます。現在の八王子市の人口は約56万人です。これからもう2〜3年は増えると言われていますが、それ以降は緩やかに下がり、高齢化率も都心よりも早く上がるだろうと考えられています。昔は交通外傷が多かったのですが、車の性能が上がり、シートベルト着用の義務化が進んだ事で交通事故がかなり減りましたね。私が救急をやっていた頃は、交通事故で心肺停止という状態の患者さんが運ばれて来て、直ぐに開胸心マッサージを行うような事もしていましたが、最近は多発外傷はあまり見なくなりました。

——近隣には大規模なライバル病院もあります。

池田 日本医科大学多摩永山病院は救命センターを持っていますし、八王子市内には東海大学医学部付属八王子病院があり、そちらには3次救命センターは有りませんが、ベッド数も大体同じ位の規模で、ある意味では良いライバルですね。地域医療という点では、これらの医療機関と連携し、それぞれが役割を果たしながら、南多摩地区の医療を共に担って行きたいと思います。

——移植医療の実施状況について教えて下さい。

池田 当センターは南多摩医療圏で唯一の、臓器移植が行われている施設です。開設当初の80年より腎移植を行って来て、現在迄に674件が行われています。全国142の移植医療施設の中で、腎移植症例数は11位、都内では3位です。生体肝臓移植術も、腎移植程ではないにしても着実に実績を積み重ねて来ています。更に、現在迄、心停止下の臓器提供が33例、脳死下は20例で、こちらも全国で最多の提供数です。又、毎年、臓器移植推進の為のグリーンリボンキャンペーンも共催で行っています。

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