マイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」の普及を狙い、厚生労働省は1度は打ち出した患者の追加負担を当初案より抑え、10月からはマイナ保険証を使う方が従来の保険証を使うより負担が軽くなるようにする。しかし、患者に追加の負担を求める点に変わりは無い上、マイナ保険証未対応の医療機関ではそもそも負担不要とちぐはぐで、今回の修正案もすこぶる評判が悪い。
マイナ保険証は今年4月にスタート。導入の狙いに関し厚労省は薬の処方歴等が直ぐ分かる等と言う。だが、大きなメリットは少なくとも患者側には見出せず、一向に進んで来なかったマイナンバーカードの普及を後押しする事が政府の最大の思惑だろう。対応を可能にした医療機関の収入を増やせば普及も進むだろうとにらみ、診療報酬が加算される事になった。その結果、当初のマイナ保険証を使う患者の自己負担額(3割負担の場合)は初診時21円、再診時12円、調剤薬局(1カ月毎9円)とされた。
一方、マイナ保険証に対応している医療機関で従来の保険証を使う際の加算は、初診時9円、再診時0円、調剤薬局3円だった。医療機関側の収入を重視した余り、患者の側からは「進めたい政策なのに、患者に損をさせるなんて」「悪質な便乗値上げ」「負担がメリットにまるで追い付いていない」との不満が飛び出し、みるみる撤回に追い込まれた。
追加負担軽減案を決めた場は8月10日の中央社会保険医療協議会(中医協)だった。10月から適用する改定案は初診時をマイナ保険証9円、従来型12円(再診時は共に加算無し)とする等し、今度は従来型の方の負担が重くなるよう逆転させた。患者から追加負担を求める根幹自体は変えなかったのだ。医療機関がマイナ保険証に対応するには、オンライン資格確認の設備を導入する必要が有り、「その経費は診療報酬で面倒を見ざるを得ない」(幹部)というのが厚労省の見解だ。単に引き下げるだけでは医療機関は納得せず、加算は残さざるを得なかったという。そこで今回は従来の保険証ユーザーにより多くの負担を求める事にしたのだが……。
医療機関側だけで無く患者の機嫌も取って「マイナ保険証を使うとお得」と売り込もうとしたら、今度は従来の保険証ユーザー達の不満が爆発。「マイナ保険証を使わない人の負担を増やすと言うならそれは制度の強制で、罰則だ」といった批判があちらこちらで満ち溢れている。
マイナ保険証のメリットとしては、薬剤や特定健診、医療費通知情報の閲覧が可能になったり、医療機関での受け付け・支払いが簡易になったりする等が有る。
ただ、一方で個人情報を政府に管理される事への忌避感や流出を懸念する声も強い。
厚労省は8月、原則として2023年4月以降は全医療機関・調剤薬局にマイナ保険証への対応を義務付ける事も決定し、退路を断った。しかし、専用のカードリーダーを申し込んだ医療機関ベースで見ても7月時点で6割強に過ぎずメドは立っていない。最大2万点のマイナポイント還付等なりふり構わぬ国の姿勢に同省OBは「私が言ってはいけませんが、政府のデジタル分野の遅れ具合は、特に医療分野は度し難いですね」と頭を抱えていた。
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