療担規則の改正だけでは不足気味
この8月24日に三師会•厚生労働省合同開催で「オンライン資格確認の原則義務化に向けた医療機関•薬局向けオンライン説明会」があった。その説明会の中で、厚労省の担当者は、オンライン資格確認の義務化は療担規則(保険医療機関及び保険医療養担当規則の略。厚生労働省令のうちの1つ)に規定されるから、違反すると、保険医療機関指定の取消事由となりうるという趣旨の解説をしている(説明会動画の40分辺り)。
しかしながら、健康保険法(法律)、健康保険法施行規則(厚労省令)、療担規則(厚労省令)、マイナンバー法などを比べて読むと、療担規則の改正のみによって、保険医療機関にオンライン資格確認の原則義務化を課すのは、法治主義的観点から見ると、その法的根拠が少し不十分なように思う。結論を先に述べれば、法的根拠を十分なものとするためには、健康保険法を少しだけ改正するとよい。たとえば、健康保険法第63条はその第1項で「療養の給付」について定めているが、その第3項の規定をほんの少しだけ法律改正するのはいかがであろうか。
現行の健康保険法第63条第3項は、「第1項の給付を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる病院若しくは診療所又は薬局のうち、自己の選定するものから、電子資格確認その他厚生労働省令で定める方法(以下「電子資格確認等」という。)により、被保険者であることの確認を受け、同項の給付を受けるものとする」と定められている。そこで、保険医療機関による電子資格確認(オンライン資格確認)を義務化したいのならば、「電子資格確認その他厚生労働省令で定める方法(以下「電子資格確認等」という。)により、」という箇所を、「電子資格確認その他厚生労働省令で定める方法(以下「電子資格確認等」という。)のうち、自己の選定する方法により、」と法律改正してはどうであろうか。もちろん、他にもアイデアはあるであろうから、さらによく精査・検討すべきだと思う。
厚労省による療担規則の改正
現在、厚労省は療担規則の2022年9月5日付け改正(23年4月1日から施行)によって、義務化を実施しようとしている。今までの療担規則第3条第1項本文は、次のとおりであった。
「保険医療機関は、患者から療養の給付を受けることを求められた場合には、次に掲げるいずれかの方法によって療養の給付を受ける資格があることを確認しなければならない(筆者注・ただし書きは省略)。
一 健康保険法第3条第13項に規定する電子資格確認
二 患者の提出する被保険者証」
そうしたところ、療担規則第3条第1項本文は、この度、次のとおりに改正されたのである。
「保険医療機関は、患者から療養の給付を受けることを求められた場合には、健康保険法第3条第13項に規定する電子資格確認(以下「電子資格確認」という。)又は患者の提出する被保険者証によって療養の給付を受ける資格があることを確認しなければならない」
しかし、ここまでならば、条文の体裁を変えただけであり、内容は同一である。問題は第2項であり、ここで大幅な変更が加えられた(以前は第3条には、第2項以下は無かったのである)。
第3条第2項では(分かりにくいので後に前項文言を当てはめて読むが)、「患者が電子資格確認により療養の給付を受ける資格があることの確認を受けることを求めた場合における前項の規定の適用については、同項中「という。)又は患者の提出する被保険者証」とあるのは「という。)」と…(中略)…とする」という規定が設けられた。前項の文言を当てはめて読むと、「患者が電子資格確認により療養の給付を受ける資格があることの確認を受けることを求めた場合には、健康保険法第3条第13項に規定する電子資格確認(以下「電子資格確認」という。)によって療養の給付を受ける資格があることを確認しなければならない」という規定になる。
これが厚労省による療担規則改正を通じた義務化の手法にほかならない。普通の考え方からすると、その療担規則改正で事足りるように思われるところではあろう。
健康保険法第70条第1項に、「保険医療機関…(中略)は、…(中略)厚生労働省令で定めるところにより、療養の給付を担当しなければならない」との定めがあり、その「厚生労働省令で定めるところ」とは、療担規則「第一章 保険医療機関の療養担当」第1条から第11条の3までを指し、ここにおいて第3条が含まれているので法律による省令への適法な委任があったと認められるからである。
資格確認の基本条文は法第63条と施行規則
以上が厚労省の考え方であるけれども、もともと「資格確認」に関する規定の基本条文は、前記の健康保険法第63条第3項とその委任を受けた厚労省令たる健康保険法施行規則第53条であり、健康保険法第70条とその委任を受けた厚労省令たる療担規則第3条ではない。前者は従来通りに任意のままであり、後者の義務化とは必ずしも整合的ではなく、そこには抵触があるとも評しえよう。
すなわち、健康保険法施行規則第53条は、「法第63条第3項の厚生労働省令で定める方法は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるもの(…中略…)を提出する方法とする。
一 保険医療機関から療養を受けようとする場合…(中略)…被保険者証
二 …中略…」
と定めているので、これを健康保険法第63条第3項に当てはめて整理すれば、「療養の給付を受けようとする者は、次に掲げる病院もしくは診療所のうち、自己の選定するものから、電子資格確認その他被保険者証を提出する方法により、被保険者であることの確認を受け、療養の給付を受けるものとする」という定めであるということになる。しかも、この規定は、今までは、電子資格確認を選択してもそれは保険医療機関に対して強制的なものではなく、任意のものであると解釈されて来た。「資格確認」に関する基本条文たる健康保険法第63条第3項が、今までは、電子資格確認の選択があっても保険医療機関にとっては任意のものと解釈適用されて来たものであったところ、依然として条文の定めには何らの変更はない。そうすると、片面的に療担規則だけを改正したとしても、その義務化の文言はそれこそ文言通りの拘束力は生じず、訓示規定的な意味合いに過ぎないとも考えられよう。
付け加えると、そもそも「電子資格確認」とは、健康保険法第3条第13項に規定されているとおり、保険医療機関から療養の給付を受けようとする者が、保険者に対して、個人番号カードに記録された利用者証明用電子証明書を送信して資格情報の照会を行うものである。マイナンバー法では、そもそも保険医療機関がその個人番号カードの利用に対応して対処する義務を負うものではない。そのマイナンバー法の趣旨からすれば、法律ではなく省令に過ぎない療担規則だけで義務化されてしまうというのも、余り法律横断的な整合的な解釈とは感じられないように思う。
施行前に法治主義的観点からの対処を
以上のとおり、健康保険法は何らの改正をせずに、一気にオンライン資格確認の原則義務化を行うのは、法治主義的観点からして、それだけでは今もって法的根拠が十分とは言い切れない。来年4月1日からの施行より前に、関係各所においてより適切な対処方法を見出してもらいたい。
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