これまで4回に亘り「フリーアクセスとかかりつけ医」について考えてきた。総合すると、かかりつけ医とは、「健康に関することをなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」ということになる(厚生労働省ホームページより)。
かかりつけ医の役割の確認
また、日本医師会と病院団体では「かかりつけ医機能」について
・日常行う診療においては、患者の生活背景を把握し、適切な診療及び保健指導を行い、自己の専門性を超えて診療や指導を行えない場合には、地域の医師、医療機関等と協力して解決策を提供する。
・自己の診療時間外も患者にとって最善の医療が継続されるよう、地域の医師、医療機関等と必要な情報を共有し、お互いに協力して休日や夜間も患者に対応できる体制を構築する。
・日常行う診療のほかに、地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の地域における医療を取り巻く社会的活動、行政活動に積極的に参加するとともに保健・介護・福祉関係者との連携を行う。また、地域の高齢者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進する。
・患者や家族に対して、医療に関する適切かつわかりやすい情報の提供を行う。
といったことも議論された。
更に日本医師会は、地域社会におけるかかりつけ医機能の定義を「わたしたち医師はお互いに協力し、さまざまな職種の方とも協力して、医師それぞれの特性を活かして地域住民の健康を支えます。主に医師会活動として行っています。○健康相談、予防接種、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健などの社会的な活動や、警察医などの行政活動に協力します。○災害が起きた地域の医療支援活動に参加し、被災者の方の健康管理や診療などを担います。○24時間365日、安心して相談、受診していただけるよう地域の医師同士で連携する体制をとるとともに、在宅当番医や休日夜間急患センターの業務を分担します」とし、定例記者会見においても「『かかりつけ医』は患者さんの自由な意思によって選択されます。どの医師が『かかりつけ医』かは、患者さんによってさまざまです。患者さんにもっともふさわしい医師が誰かを、数値化して測定することはできません。だからこそ、わたしたち医師は、心をこめてひとりひとりの患者さんに寄り添います。そうして患者さんに信頼された医師が、『かかりつけ医』になるのです」と発表している。これらのことから考えると、かかりつけ医に求められる役割が自ずと見えてくるのではないか。それを実現するには、「アクセスが良いこと」が必須である。
今、様々な国で診察を受けられるまでの期間が問題になっている。例えば英国では病院で治療を受けられるまでの期間が2008年は7.6週であったが、19年には10.1週になっている。スウェーデンでは、05年に治療までの待ち時間を90日以内にするよう法律で定められたが、17年には20%の患者がそれ以上の待ち時間となった。そのため、スウェーデンでは国の制度以外の医療を受ける人が、00年の1.1%から1.8%に増え、民間医療保険に入っている人が6%となった。
ITは医療へのアクセスを補完するか
そこで、ITやAIが登場する。この話は拙著『新たな医療危機を超えて ◇コロナ後の未来を医学×経済の視点で考える』(日本評論社)等でも触れているが、英国ではバビロン・ヘルス(Babylon Health)が開発した新しい人工知能(AI)アプリにより、医師の不要な事務処理や外来診療の負担を軽減し、患者の待ち時間を短くしている。
体調が悪いと感じたら、いきなり病院に行く代わりに、アプリでチャットすればいい。AIは、緊急処置が必要な症状だと判断すれば、患者に伝えるといった様に、開業医の代替をしている。また中国では、人の多さに比べて病院や医師の数が少なく、大昔の日本のように病院に患者が押し寄せている。こうした状況を解決するために、中国政府が肝煎りで進めているのが、医療と情報技術とを結びつけるヘルテック(Healtech:Health+ Technology)だ。
電子カルテシステムの活用
もう1つの視点である電子データについても考えたい。前回までに触れたカナダの資料に再び戻ると、海外では、かかりつけ医の多くが電子カルテを使用している(表1:19年データ)が、日本では20年で49.9%(厚生労働省調べ)である。更に、海外では、受け持ちの患者が救急診察を受診した場合や、入院した場合に連絡がいく(表2)。
米国ニューヨーク州ではHealthixというサービスが展開され、筆者も見学した。米国は欧州と異なりかかりつけ医は登録制ではないが、同じように情報共有がされている。また、これは日本でも同じかもしれないが、訪問看護などの介護サービスとも連携しており、患者サマリーや検査結果、投薬情報のやり取りの半数以上を電子的に行っているようだ。
まとめ
このような取り組みを行うには、ITによる情報共有が欠かせない。例えば誰かが入院した時に、関係各所へ電話で連絡し、それをメモに取って共有するというのは現代に即してはナンセンスであり、電子データとして情報が入力されるのが通例である。そしてかかりつけ医は、アラートによってその事実を知るということが望ましい。
フリーアクセスという視点も重要であるが、今後のかかりつけ医の役割としては、前回述べた終末期もそうだが、ペイシェントジャーニーいやヘルスケアジャーニー、いやライフジャーニー、即ち「人生」に、相談者としてかかりつけ医が関与するということが重要だろう。
ただその場合、欧州のようにかかりつけ医の制度化が必要かどうかについてには疑問がある。データの管理者である患者の許可の下、データが共有されるHealthixのような方法もあるからである。さらに言えば、これだけ様々な医療サービスを選択することに慣れている日本国民に、あなたのかかりつけ医は1名ですと固定する英国やスウェーデンの制度が馴染むとは思えない。
参考資料
Canadian Institute for Health Information:How Canada Compares—Results From the Commonwealth Fund’s 2019 International Health Policy Survey of Primary Care Physicians. Accessible Report January 2020
McKinsey Global Institute:The social contract in the 21st century Results From the Commonwealth Fund’s 2019 International Health Policy Survey of Primary Care PhysiciansAccessible ReportJanuary 2020
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