当たり前となった弁護士帯同
弁護士の業務は、民事弁護と刑事弁護に大別されることが多い。最近、これらに加えて、行政弁護も1つの柱として確立していくべきだとの声が弁護士の間で大きくなっている。日本弁護士連合会では、2020年度から「日弁連行政問題対応センター」を設け、「行政調査における弁護士の関与を普及させるための活動(日本各地でのキャラバンの開催を含む)」などを進め始めた。
すでに数年前から「健康保険医療(保険医に対する個別指導への立会い等)」、「税務(税務調査に対する弁護士の立会い等)」、「生活保護(生活保護の申請の際に窓口に同行、申請を拒否された場合の同行等)」を中心に具体的な研究が行われていて、「法令の根拠に基づき、憲法31条等の適正手続に基づく行政過程を実現するために、行政処分が下される以前の段階から弁護士が積極的に立会いに関与していくことを実現」しようとしていたのである。
この9月3日には名古屋において、日本弁護士連合会主催の第22回弁護士業務改革シンポジウムが開催され、その第4分科会では「やれる! 行政弁護」がテーマとなっている。主な内容は、「行政庁による行政処分に向けて行われる指導・調査の手続において、弁護士が代理人として関与することによって市民・企業の正当な利益を擁護する活動を『行政弁護』ととらえ、民事弁護・刑事弁護に並ぶ弁護士の業務として確立することが必要であり、弁護士にとっても業務の拡大につながるものです。現在、日弁連では『行政弁護』の確立に向けた体制が整い、また、各地の弁護士会においてもこの分野の業務に取り組む弁護士の活動を支援していく動きが始まっています。そこで、全国において更に『行政弁護』の確立に向けた活動を展開していくために、保険医指導・監査と税務調査の分野を切り口として、具体的にどのような弁護活動が有益であるのか、また弁護士会がどのようにバックアップしていくことが効果的なのかを提言すべく、前回19年の京都シンポに引き続き、本分科会を実施します」とのことである。
「個別指導・適時調査への弁護士帯同」は、まさにこの「行政弁護」の一環であり、「個別指導」でも「適時調査」でも「弁護士帯同」は厚生労働省がもうすでに公式に認めていて、すべての医療機関にとって普通のこととなっているのであり、何ら特別のことではない。筆者自身も、「保険医指導・監査対策協会」を設立し、その会長兼委員長として「保険医指導・監査対応認定弁護士選考会」を5月、7月と2度にわたって開催して参加弁護士に認定を付与し始めているが、これもそれらのトレンドの一環に位置付けてよいであろう。
厚生局から通知が来たらどうするか
診療所への個別指導にしても病院への適時調査にしても、その1カ月前に地方厚生局から通知が来る。
診療所への個別指導でも病院への適時調査でも、その選定の指標として最も注意されるべきものは「情報提供」となっているのが現状にほかならない。「情報提供」には各方面からのものがあるが、最も深刻なのが「医療機関の職員・元職員による内部告発」であろう。内部情報の持ち出しを伴うことが通例なので、重大なものが多いだけでなく、何と言っても情報が正確・精密であることも多い。また、「保険者(国保連・支払基金も含む)」からの地方厚生局への情報提供も積極化している。これは専門的な傾向分析も伴うので、手強い。そして、時には患者・家族からの公益通報などもありうる。マスコミやSNS等に採り上げられる場合も同様であり、注意しておかねばならない。
どうして選定されたのか、確定的に分かることはそう多くはないが、それらの可能性を推測しながら、1カ月後の当日に備えた対策を立てる必要がある。もちろん、レセプト等の専門の事業者が最も有益ではあるが、実は、底流に何らかのトラブルが想定される時は、特に弁護士も有益であろう。弁護士の本領は、当日の帯同もそうだが、むしろ事前相談・対策立案においてこそ発揮されることが多い。
地方厚生局からの通知後、できるだけ早いうちに、専門の事業者や弁護士などと相談して、今回の個別指導や適時調査における獲得目標やそのための戦略を立てることが肝要であろう。
タイムスケジュールは、個別指導の場合では、指導日の1週間前にカルテ20件(患者20名分)が具体的に指定され、さらに、指導前日に同様にカルテ10件が指定される。ここで最も重要なのは、通知から20件指定までの3週間であり、次に重要なのは(前日のカルテ10件ではなく)1週間前のカルテ20件であると言えよう。この点は、普通の常識とは真逆であり、むしろこれこそが弁護士固有のコツなのである。
以上が、通知直後の要点だと言ってよい。
当日の対応の要点
個別指導については、まずは指導当日の参加者の選定が重要である。管理者は必須だが、開設者も参加するかどうか、患者を担当した医師も参加するかどうかは、ケースバイケースであり、利害得失を検討してから決めなければならない。なお、看護師や事務職員を同行させたがる管理者も多いが、一般的に言えば、同行させないのが適切であろう。
指導当日の録音は必須である。開始時点で、録音機を用意して来たので録音をさせて欲しいと要望すれば、全てオーケーしてくれる取り扱いがすでに確立した。逆に、隠し録音は禁止である。
帯同する弁護士は、メインの医師の真横に座るようにしなければならない。地方厚生局の都道府県事務所によっては、弁護士を横に座らせるのを嫌がる担当官もいるが、弁護士は現場での発言を禁じられているのだから、そのような担当官の取り扱いは不合理である。なお、弁護士は真横にいなければ、メインの医師からの現場での相談に有効適切に即時対処できない。
個別指導は、カルテ30件につき、指定された番号順に1件ずつ、面談懇談の方式によって、特に厚生局が重要だと思って予めピックアップしてあるレセプトの各診療料に則して進行していくのが通常である。
ひと昔前にはパワハラまがいの指導もあったけれども、現在は、ほとんどが良識的で丁重なように感じられる。しかし、帯同する弁護士は常に油断してはならない。
特に注意すべきは、カルテのコピーである。さり気なく「カルテのコピーをさせてください」と要請して来る厚生局担当者がいるが、無粋ではあるけれども、コピー要請は絶対に拒絶しなければならない。
以上のことは、適時調査においても、似たようなところである。ただ、個別指導と異なり、適時調査では指導医療官や保険指導医といった医師は臨場しない。厚生局の担当官は、法令系事務官と保険指導看護師だけである。それに対応して、病院側も事務長・医事課職員と看護部長・師長だけというケースも多い。しかしながら、病院側だけは、管理者やしかるべき医師(時には、理事長も)が会場に参加して、最初から最後までべったりと同席することが適切だと思っている。
所定の時間(個別指導は2時間、適時調査は3時間が標準)の最後に口頭での講評が行われるが、時に、指導や調査の際に指摘されていなかった事項が指摘事項として紛れ込むことがあるので、最後まで気を抜かずに注意深くしていなければならない。もしも不審を感じたら、講評中に即時に、疑義を申し述べるべきである。後日に伺いを立てても、もう終わったこととして一蹴されてしまう。後日に、口頭で述べた事柄が文書化されて郵送されて来るけれども、その時まで待つべきではない(当日の対応要領はまだ山ほどあるが、紙幅の関係上、今回は初歩的な要点のみとし、また折を見て補足することとする)。
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