メーカー不正の裏で何が起きた
ジェネリック医薬品(後発薬)の品薄により、薬の共有が不安定な状態が長引き、服用している患者に不安が広がっている。2020年末から21年に掛けて発覚した後発薬メーカー最大手・日医工と中堅・小林化工の製造不正を皮切りに、各メーカーでの不正が相次いで判明した。業界団体の調査によると、6月現在で後発薬全体の約3分の1で出荷が滞っており、先発薬にも影響が及び始めている。現場では薬が手に入らず症状が悪化するケース、負担増から買い渋るケース等の事態も発生している。厚生労働省は安定供給↘を業者側に求め、解消に向けて製薬会社は増産に励む等対策を取っているが、解消の目処は未だ立っていない。厚労省は、増産には限界が有り、全品目の再開には約2年掛かる見通しとしている。
相次ぐ不正で供給不足、火災とコロナが追い打ち
事の発端は、20年12月、福井県あわら市の後発薬メーカー・小林化工で発覚した不正だった。同社が製造・販売している皮膚病用の飲み薬「イトラコナゾール」に睡眠導入剤の成分が混入し、健康被害が相次ぎ明らかになった。2人が死亡、↘車の運転中に意識を失う等して事故を起こした人は38人もいた。同社は21年2月、116日の業務停止処分を受けた。
同年3月には、〝薬都〟として知られる富山市で業界最大手の後発薬メーカー日医工の品質不正が発覚、富山県から業務停止命令を受けた。県の通告無しの〝抜き打ち〟監査で発覚したという。この2社の不正を契機に業界団体が調査を呼び掛けると、徳島県の長生堂製薬始め複数のメーカーで問題が次々と見つかり、業務停止等の行政処分が相次いだ。厚労省によると、小林化工・日医工・↖長生堂製薬の3社で計641品目が出荷停止や供給遅延となった。
後発薬メーカー38社で作る日本ジェネリック製薬協会の発表では、会員企業による自主点検の結果、全7749品目のうち1157品目が承認書と異なる製造手順をする等していた。大半は安全性に関わらない回収が不要な軽微なものだが、信頼は揺らいだ。
不正以外の事案も追い打ちを掛けた。同年11月、西日本の医薬品業界の拠点である大阪市の大規模倉庫で大規模火災が発生し、薬を保管していた複数の製薬会社の供給体制が混乱した。更にはコロナ禍も影響。有効成分と成る医薬品の原薬は、日本では約6割を海外から輸入している。感染拡大に伴い、製造している国がロックダウン(都市封鎖)による工場生産の停止、航空便の減少等で原薬の入手が難しい状況になった。
結果、薬の不足により同じ成分の後発薬を作る他社に注文が殺到した。しかし、得意先への供給不足を恐れて十分な在庫が有るのに注文を断る「出荷調整」を行い、品薄状態が拡大。同年12月に厚労省が出荷調整をしないよう求めたが、メーカーは他社の出荷状況が分からず、需給変化を読めない不安から、思うような改善は見られなかった。
品薄相次ぐ薬局、弱い供給体制
現場では深刻な事態が発生した。患者に薬を処方出来ない薬局、別の後発薬に切り替えたところ体調を崩した患者、先発薬切り替えでの負担増から買い渋る患者等、健康に関わる事態が相次いでいる事がテレビや新聞で報じられた。特に、骨粗鬆症の治療薬「エルデカルシトール」は、日医工含む2社が製造していた事等から、不足が問題となった。NHKによれば、練馬区のある薬局では21年9月に在庫がゼロになったという。
このような事態を受けて各業界団体や政府が調査を行った。
千葉県薬剤師会が県内の薬局に行ったアンケート調査(21年7月実施/586件の回答)では、「先発医薬品への変更で負担額が増加した」が77%、「入荷待ちで薬を渡すのが遅れた」が63%、自由記述欄には「使っていた薬を服用出来ず、症状が戻った患者がいる」等の意見が有った。東京都薬剤師会が都内1046の薬局を対象にした調査(21年8〜9月)でも、「納品が滞り調剤業務に影響が出る場合が有る」「製品が流通しておらず発注が出来ない場合が多くある」と回答した薬局は94%で、6月調査よりも悪化していた。日本ジェネリック製薬協会の調査では、21年12月時点で約3100品目が品切れや出荷停止等だった。
厚労省は、日本製薬団体連合会に増産等を呼び掛けた後も大きな改善が見られなかった為、出荷調整解除を進める狙いで、出荷停止の薬と同じ成分や規格の薬について、品目毎に供給量を調べた。130の成分・規格の内3分の2が通常通り。事態は少しずつ改善している。
医薬品業界では「少量多品種」の生産手法が主流で、流通体制が弱い。後発薬メーカーは200社ほど有ると言われるが、1社が扱う薬の品種は限られており、1社でも生産が止まると他ではカバーしにくい。また、医薬品の製造計画は、原料の計量や混合といった複数の工程を多品目で同時進行しているため、年間で緻密に組まれている。少しでもずれると製造出来ない品目が発生する危険性が有る。各メーカーは増産に向けて努力をしており、沢井製薬や東和薬品は、工場新設を発表しているが新設には数年掛かる。
ジェネリックのシェア増や薬価の引き下げが影響か
ジェネリック医薬品の使用割合に関する政府目標も、今回の不正や供給不足の一因と言われる。ジェネリック医薬品は、先発薬の特許が切れた後に販売される。開発費が低く抑えられる為、先発薬に比べて価格が安く、患者の負担軽減になる。国は15年、医療費の削減にも繋がるとして、13年度末で5割程だった後発薬の使用割合について、18年迄にシェア80%を目指すという素案を出して利用促進を後押しして来た。日本ジェネリック製薬協会・田中俊幸広報委員長によると、業界団体は当時、工場新設など製造設備を整える為、達成時期を5年遅らせて欲しいと相談したという。結果、要望は通らず「17年中に70%、18〜20年度末迄のなるべく早い時期に80%以上」という目標になった。
業界の努力も有って21年9月で79%迄引き上がったものの、現場は追い付いていたとは言い難い。日医工を監査した富山県は、ジェネリックの需要拡大で製造品目が増え、製造スケジュールが逼迫した事が背景に有ると指摘している。
薬価の引き下げ傾向も追い詰めている。薬には公定価格が有り、医薬品毎に薬局が販売する価格を厚労省が定めている為、製薬会社の自由で決める事が出来ない。メーカー側は薬価の範囲内で価格競争しているが、薬価は引き下げ傾向の為競争が難しくなっている。昨年12月に厚労省が発表した医薬品の市場価格の調査では、公定価格より平均で約7・6%安く流通していたという。2年毎の改定は、21年度から毎年の改定になっており、この調査を元に厚労省は22年度の薬価改定を検討している。
医薬品を含む国民医療費は19年度で約44兆3895億円。薬価が下がれば医療費抑制にも患者の負担減にもなる為国は引き下げに積極的だが、製薬会社にとっては痛手だ。コスト削減がコンプライアンス意識の低い企業の出現を招いた一面もある。大幅な引き下げには公明党を始め与党側からも慎重な意見が出ている。
後発薬の数量シェアについて、国は昨年6月の閣議決定で、「後発薬の品質や安定供給の信頼性確保を図りつつ」との前置きで、「23年度末迄に全都道府県で80%以上」との目標を立てた。今回の一連の事件の影響で、厚労省も業界でも、供給が本格的に増える迄数年掛かると見ている。そう考えると、目標設定が修正されたとはいえ残された時間は多くない。業界と国が一体となって信頼回復に進んで行く必要が有る。
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