新型コロナ感染症の拡大もようやく落ち着きを見せ始め、多くの人が以前の日常を取り戻しつつある。国内の観光地でも賑わいが戻り始めており、海外からの旅行者も徐々に増えて行く事だろう。そうした中、新たな観光戦略として注目を集めているのが、世界の富裕層を対象としたラグジュアリー観光。とりわけ、治療や健康増進を兼ねた「医療ツーリズム」だ。しかし、日本では海外に比べ規制が多く、富裕層にとって魅力的な国では無いという。日本に医療ツーリストを始めとする富裕層の観光客を呼び込むには何が課題なのか。日本で医療ツーリズムを企画する等、アジアの富裕層の観光事情に詳しいジェー·シー·ディ社長、徐志敏氏に話を聞いた。
——中国の大学を卒業した後、日本に留学されたのですね。日本とは縁が有ったのですか。
徐 私は中国湖南省の常德という地方の出身です。北京の清華大学を卒業後、日本に国費留学する事になりました。それ迄日本の事は殆ど知らず、9カ月間、日本語を特訓して来日しました。縁と言えば、大学の恩師が名古屋大学の教授と知り合いだった事だけで、名古屋大学がどの様な大学なのかも知りませんでした。
——名古屋大学を卒業された後、ジェー•シー•ディを設立されました。
徐 大学では都市計画、都市交通計画を学びました。当時の中国は改革開放が始まったばかりの頃で、日本は中国よりもかなり進んでいました。しかし、当時の私は特に将来のプランを持ち合わせている訳では無かった為、卒業後の1年間は、当時の通産省の外郭団体で技術者研修を受け、更にもう1年、当時の建設省の外郭団体の建設技術研修所で研修を受けました。ジェーシー·ディを設立したのは、2年間の研修を終えた後です。
——会社を設立しようと思ったのは?
徐 名古屋大学の学生の時にNTTの依頼を受けて、ボランティアとして中国人研修生向けの研修で通訳をやった事が有ったんです。すると、卒業後にNTTから「ボランティアでは無く、仕事としてやってみませんか」と声が掛かった。中国でプロジェクトを始めたり、ビジネスパートナーを探したりする時の通訳をやってみないかという訳です。仕事としてやるなら会社を設立した方が良いと勧められて、ジェー·シー·ディを作る事になりました。人の縁に恵まれました。
——医療に関わる様になった切っ掛けは何ですか。
徐 ジェー·シー·ディで日本と東南アジア、中国の企業間での戦略提言、資本提供も含めたアドバイザーの仕事をしていると、富裕層の多い企業家達から、医療や健康管理の相談を受ける事も増えて来ました。そこでアドバイザーをする様になり、その延長線上で医療ツーリズム等医療関連事業も手掛ける様になりました。
企業アドバイザーから医療ツーリズムへ
——チャロン•ポカパン(CP)グループとはどのようにして関係が出来たのですか。
徐 CPグループはタイの企業集団ですが、創業者は中国潮州にルーツのある華人なので、顔を合わせる機会はこれまでも何度か有りました。「世界華商大会」と言って、2年毎に行われる華人系の企業家の集いが有ります。世界中から経営者が集まり、2007年には神戸と大阪で開かれています。ただ、私は日中間のビジネスに没頭していたので、東南アジアには殆ど関心が無かった。しかし、日中間のビジネスだけでは浮き沈みも有りますから、08年頃から徐々に東南アジアとのビジネスの繋がりが生まれて来ました。そして、14年に伊藤忠商事とCPが業務•資本提携を結んだ時、CPのアドバイザーを務めたのがジェー·シー·ディです。1年余り掛けて、交渉を成立させました。CPと組んで仕事をする様になったのは、その提携交渉が切っ掛けです。
——今、タイで経済特区や医療特区の都市作りに参画していると聞きました。
徐 タイ政府が現在力を入れているのが「東部経済回廊」と呼ばれる東部3県の開発計画で、通称「EEC」と呼ばれています。EECの政策委員会の委員長はプラユット首相が務め、国家プロジェクトとして位置付けられています。CPグループは外国企業向けの工業団地をラヨーン県に建設し、東部の3空港を結ぶ高速鉄道を建設する企業連合にも中心的な役割で参画しています。高速鉄道は約220kmと距離は短いのですが、完成すればEECから首都バンコク迄約1時間で結ばれます。この地域には空港が3つ、港も3つ在る。日本で言えば東京から名古屋、大阪迄を湾岸ベルト地帯として開発する様なイメージです。既にタイ経済の7割が集中している地域ですが、更に高速鉄道や工業団地等の開発を進め、人口600万人規模の経済エリアに発展させて行くというのがEECの構想です。
——3つ在る空港と港を生かし、国際的な物流や人的交流の拠点を目指すという事ですか?
徐 世界的に見て、東南アジアの金融センターはシンガポールです。港も在る為、物流センターにもなっています。こうしたシンガポールの地位は今後も変わらないでしょう。でも、シンガポールは国土が小さいので、製造業の中心はバンコクとなる可能性が高い。そこで先進的なアセアンの工業センターをEECの中で実現するのが目標です。地理的にもバンコクから、ジャカルタやシンガポール、香港といったアジアの主要都市迄は2〜3時間で行けます。1日で往復出来るのが強みです。
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