適切なDPC制度の活用で病院経営を守る 損しないDPC/PDPS算定のコツ
葦沢 龍人先生(東京都健康長寿医療センター 保険指導専門部長、東京医科大学名誉教授)スライドの最後に示した「One for All, All for One」は、数年前に開催されたラグビーワールドカップでも流行りましたが、本講義をお聴きになる皆さんには是非、この事を意識して頂きたいと思います。つまりDPC/PDPS参加施設に於いては、病院で働く皆さん全員が同じ意識を持って1つのミッションを成し遂げるという理解をする事が、最も重要な事だと考えています。
三ッ林 裕巳氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(元内閣府副大臣、自民党衆議院議員、医師)ウクライナのゼレンスキー大統領が3月にオンラインで国会演説を行った日、当会では葦沢先生から診療報酬について講演を頂きました。先生方の間で非常に好評な内容だったので、今回の分科会を通して全国の皆様にもDPC制度をより詳細に知って頂きたいと思っています。
尾尻 佳津典「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)財務省は決して直接的な言葉は使いませんが、彼らが考える医療費適正化は医療費削減に繋がります。財務省や厚生労働省が昨今DPC制度の重要性を説いている事からも、その導入は日本の医療を正しい方向に導いてくれる事でしょう。
基礎編
■DPC制度の概要と意義
DPC制度とは、診断群分類に基づいた1日当たりの診療報酬包括払い制度の事で、DPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination/Pre-Diem Payment System)とも言います。急性期入院医療を対象として、医療の標準化・効率化を目的に導入されました。
DPCそのものは「診断群分類」を意味しています。診断(diagnosis)と手術や検査等の処置(procedure)を組み合わせて分類した14桁のDPCコードから成り、コード毎に包括点数が定められ、医療機関別に評価・調整された係数が決まります。点数の設定方式はDPCの内容によって4種類有ります。
20年度現在で、DPC/PDPS参加施設は、一般病床を有する全5786病院(88万7847床)のうち1757病院(48万3180床)、DPCコードは4557分類(うち支払い分類は2260分類)有ります。例えばDPCコード「010010xx99000x」は、「010010」が診断(Diagnosis)を表しています。最初の2桁「01」がMDC(主要診断群)コード、次の4桁「0010」が医療資源を最も投じた病名の4桁コードです。「xx」は、病態、年齢、出生時体重等で分類します。次の「99」は手術等の有無を表し、「000x」は「00」で手術・処置の有無、次の「0」が定義副傷病の有無、最後の「x」が重症度を表しています。
DPCコードは、先ず1層目に当たる6桁を決定しましょう。最初の2桁のMDCは18分類、続く4桁は国際疾病分類第10版(ICD-10)に基づき22分類有ります。1回の入院中に複数の傷病に対して複数の治療を行った場合でも、医療資源を最も投入した傷病は1つに限定します。不明なら入院の契機となった傷病に基づき診断群分類を決めます。傷病名の決定は、医師の裁量権であると共に最も大事な義務です。
例えば、「くも膜下出血(入院時JCSスコアⅡ-10)で救急搬送され緊急入院、初療室で気管内挿管、CVカテーテル留置。同日緊急でAngio、翌日開頭脳動脈瘤頚部クリッピング術を施行」という症例では、「010020x101x1xx」となります。順に、「01:神経系疾患」「0020:くも膜下出血」「x:該当分岐無し」「1:入院時JCS10以上」「01:手術(開頭脳動脈瘤頚部クリッピング術等)有り」、x1xxは順に「該当分岐無し、人工呼吸器CV等の処置、定義副傷病分岐無し、該当分岐無し」を表しています。
■医療機関別係数を構成する6項目
DPC/PDPS参加施設に於ける診療報酬は、「ホスピタルフィー的報酬部分(包括評価部分)」と「ドクターフィー的報酬部分等(出来高評価部分)」を評価して算定します。前者は「入院基本料、医学管理等、検査・画像診断、投薬・注射、1000点未満の処置等」、後者は「入院基本料等加算、医学管理、手術、麻酔、放射線治療、1000点以上の処置等、病理診断・判断料」がこれに当たります。
包括評価部分は、「診断群分類ごとの1日当たりの包括点数×入院日数×10円×医療機関別係数」で算出し、このうち医療機関別係数は、「基礎係数+機能評価係数I+機能評価係数Ⅱ+激変緩和係数」で決まります。基礎係数と機能評価係数Ⅱは出来高評価部分の一部である「手術」からも評価され、基礎係数が約7割、機能評価係数Ⅰ・Ⅱが約3割と全体に高い影響を与えます。
医療機関別係数の中身は以下の通りです。基礎係数には、大学病院本院群(82施設)、DPC特定病院群(156施設)、DPC標準病院群(1519施設)の3分類が有ります。DPC参加施設は外科的手術をどれほど実施したかで評価が高くなり、全項目が大学病院本院群の最低値を上回ると特定病院、それ以外は標準病院と分類されます。機能評価係数Iは、医療機関の体制や構造的因子を評価しており、施設基準の合算と言えます。機能評価係数Ⅱは、医療機関の役割や機能に対するインセンティブで、6項目(保険診療係数、効率性係数、複雑性係数、カバー率係数、救急医療係数、地域医療係数)が有ります。激変緩和係数は、診療報酬改定に伴う推計変動率が±2%を超えないよう補正する役割が有ります。機能評価係数Ⅱは、各医療機関の係数毎に指数を算出して、変動処理をした上で実際に用いる係数を決めます。機能評価係数Ⅱの6項目を順番に見て行きましょう。
保険診療指数は、適切なDPCデータの作成や病院情報を公表する取り組みを評価して決まります。指数の評価指標は原則1点ですが、例えばDPCデータ作成に於いて「部位不明・詳細不明コード」の使用割合が10%以上になると0.05点減算される等、いくつか加点・減点の項目が有ります。
効率性指数は、各医療機関における在院日数短縮の努力を評価します。複雑性指数は、医療資源の投入が多い複雑な患者をどれ程多く診ているかを評価します。例えば、患者に投入する医療資源が、DPC①(200万円)、同②(100万円)、同③(50万円)、同④(20万円)とあったとすると、DPC①の患者数が多い病院ほど複雑性係数が高くなります。
カバー率指数は、様々な疾患に対応出来る体制を評価します。救急医療指数は、本来の診断群分類の点数と緊急に入ってきた入院患者に使われた医療資源の差を評価します。地域医療指数は、地域医療への貢献を評価し、がんや災害時医療、周産期医療、僻地医療等、評価項目は9つ有ります。
機能評価係数Ⅱの6項目の各係数には、どの程度改善の余地が有るのでしょうか。保険診療係数は、データ提出内容の精度向上等に改善余地は有りますが、係数への影響は小さいです。効率性係数は、在院日数を短くすれば向上しますが、疾患構成による補正が掛かるため簡単ではありません。複雑性係数は疾患構成に依存するので、改善余地は限定的です。病床数に依存するカバー率係数は、改善余地は殆ど有りません。救急医療係数は、救急車の受け入れ強化や算定漏れ防止の取り組み等で改善可能です。地域医療係数は、体制評価指数にやや可能性が有るものの、定量評価(地域シェア)には改善余地が殆ど有りません。
■今年度の制度見直し
22年度のDPC/PDPSの見直しでは、基礎係数が下げられました。機能評価係数ⅠとⅡの重みが増し、病院毎のスペックをより評価する方向になりました。災害医療としてBCP策定、新型コロナウイルス感染症対策の実施等も追加の評価項目となりました。算定ルールも見直され、短期滞在手術等基本料3の評価が従来の19項目から57項目に増えたり、入院初期をより重視して評価する手法になります。
ここまで説明した診療報酬の内容については、通称「金本」と呼ばれる『診断群分類点数表のてびき』(令和2年度版)に詳しい点数表が載っています。
応用編
■収入減に繋がる不適切コード
DPCコーディングが不適切ですと収入減に繋がります。第1に注意すべき点は傷病名の間違いです。DPC医療資源病名は、入院の契機となった病名になるとは限らず、医療資源投入量により変わります。事務方は例えばDPCナビの「DPC EYES」を使って医療資源投入量を確認して下さい。主治医は、患者退院時にDPC医療資源病名を再確認しましょう。
コード入力漏れにも注意が必要です。例えば、脳血管疾患(くも膜下出血)で45日入院した場合、JCSの入力漏れ(001部分)が有ると「010020x001x1xx」となり、収入は207万5650円ですが、正確に入力する(101部分)と「010020x101x1xx」で、収入は221万4580円となり、13万8930円の差が出ます。
DPC病名を構成する4桁コードは、最初3桁が大分類、末尾1桁が細分類ですが、末尾が部位不明・詳細不明になるものを「.9(テンキュー)コード」と言います。例えば、胃がんの場合なら「C16.9」です。「DPC導入の影響評価に係る調査」実施説明資料では「.9」コードは1000件以上記載されています。これは収入減になるので、医師は日頃から部位や詳細を明確にした病名でカルテに記載するよう心掛けて下さい。東京医大病院では肺がんの「.9」コードが52例も有り、上葉肺がん等の詳細部位の病名に変更しました。
副傷病コーディングは、それ次第で点数が大きく変わるので、経営戦略的にも重要な視点です。東京都健康長寿医療センターに入院した循環器内科の症例では、4つの選択肢が有りました。心原性脳塞栓症に対して敗血症の副傷病を負っている症例です。「心原性脳塞栓症・敗血症副傷病有り」がDPC点数72万355点、副傷病を選択せず「心原性脳塞栓症・副傷病無し」で64万4664点、「敗血症」を選択すると70万5761点、「うっ血性心不全」で64万2032点。4つのいずれも選択し得ますが、合理的なDPCコードの選択が収入差に直結します。
もう1つ、尿路感染症の症例を紹介します。「29歳女性。既往歴:SLEと脳梗塞。現病歴は、4月9日:23時頃に突然の腰背部痛で電話相談が有り、カロナール内服で1時間経過観察を指示。改善しないため救急要請し、救急外来へ搬送され同日緊急入院。10日:夜間緊急入院。背部痛、悪寒・戦慄を認め、血液培養によりグラム陰性桿菌を検出。尿路感染兆候を認め、泌尿器科へ対診依頼、左尿管結石による閉塞性腎盂腎炎の診断で抗生剤の投与開始。12日:検体検査にて血小板がPlt5.1万とDIC傾向を確認。腎盂腎炎・尿管結石に対し、左尿管ステント留置術を施行。14日:検体検査にてCRPの著明改善が有るが血小板はPlt2.7万と減少。15日:脳梗塞の後遺症に対して脳血管リハ開始。22日:検体検査にてCRP正常化。23日:経過良好にて退院」。
この症例も、候補となる4つのDPCコードにより入院14日間の算定金額の合計が異なります。①M329「全身性エリテマトーデス(SLE)=070560xx97xxxx」(重篤な臓器病変を伴う全身性自己免疫疾患・手術有り)の場合、81万6892円。②N390「尿路感染症=110310xx01xxxx」(腎臓又は尿路の感染症、経尿道的尿管ステント留置術等)の場合、58万1980円。③は2つ有って、③-1がN201「尿管結石症=11012xxx97xx0x」(上部尿路疾患・その他手術有り・副傷病無し)で48万5817円、③-2がN209「結石性腎盂腎炎=11012xxx97xx1x」(上部尿路疾患・その他手術有り・副傷病<敗血症>有り)で63万7664円です。④A415「グラム陰性桿菌敗血症=180010x0xxx0xx」で敗血症・1歳以上・処置2無し」の場合、62万6919円となります。ちなみに、「DIC」「敗血症」等の入院後発症疾患を医療資源病名とする場合は条件が有り、根拠を示す必要が有るので注意して下さい。
尿路感染症は、腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎など部位の選択が出来ますが、②のN390「尿路感染症」は尿路のいずれかに感染症を起こした状態として、部位不明コード扱いになります。感染部位や臓器が特定されている場合、その部位を明示した病名・分類とすべきで、「尿路感染症」という選択は排除した方が良いのです。
20年度の改定で、部位不明・詳細不明コードの使用割合が10%以上だと0.05点の減算となりました。東京医大病院で言うと約1000万円の収入減が予測されます。
■ベンチマーキングによる分析の意義
DPCデータによるベンチマーキングは、自施設の現状と最も優れた実施施設(ベストプラクティス)の現状とのギャップを把握・分析し、診療行為の改善を図る目的で行います。標準化されたデータを収集して算出される臨床指標毎に比較する等して、自施設の立ち位置を把握します。19年、東京医大病院の効率性係数は大学病院本院群80病院のうち下から1/4程度でした。平均在院日数が長くは無かったので、もう少し効率性係数が高くて良いのに、何故伸びなかったでしょう。
ベンチマーキングで分析すると、同病院で最も実施された手術の上位20位には、在院日数の短い手術や化学療法等の為の入院等、単価の低い診断群の多い事が分かりました。その結果、平均在院日数が短くなり効率性や複雑性の低さに繋がりました。効率性係数の指標は、入院期間Ⅱ迄の退院率が大きく影響します。この様に、ベンチマーキングによって改善点が見えてきます。
複雑性係数の向上は、手間の掛かる手術症例をどれだけ効率良く実施するかに掛かっています。外保連手術指数の高い手術を実施したり、紹介患者数を増加させたりと工夫して下さい。外保連手術指数は「時間当たりの人件費の相対値×手術時間数」で算出します。この指数が高い手術の実施はDPC特定病院群として認定される可能性が広がり、基礎係数が上がり、機能評価係数Ⅱの複雑性係数も向上し、収益に反映します。
■制度の正しい理解が増収になる
DPCコード設定に於いては、何より算定漏れを把握して下さい。その上でDPC/PDPSのルールを知り、適切なDPCコーディングをしましょう。ケアミックスの検討もお勧めします。東京都健康長寿医療センターでは、適切な施設基準の届出、正確なDPCコードの設定、入院期間短縮の努力等により、22年度の医療機関別係数は前年度に比べて0.0142上がり、約4000万円が真水として増収する見込みです。
重要な事は、まず経営者や院長がどの様な病院にしたいかを思考する事です。その上でDPC/PDPS参加施設に於いては「One for All, All for One」を意識し、病院の様々なミッションを成し遂げる意識を全員で共有しましょう。
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