今後メーカーが取るべき対策とは
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう昨今、コロナ禍を原因とした半導体不足等の影響により、医療機器の供給が不足している。
例えば「パルスオキシメーター」がその代表例だ。血中の酸素濃度を測定する事で算出される経皮的動脈血酸素飽和度の値が、新型コロナ患者の重症化を判断する上で1つの指標となっている事も有り、国内のみならず世界的にパルスオキシメーターの需要が劇的に高まった。その結果、メーカーの供給が追い付かなくなるという問題が起きている。それ以外にも、心電図・心拍数・経皮的動脈血酸素飽和度・呼吸数・血圧等のバイタル情報が測定可能な「生体情報モニタ」や呼吸管理の為の「人工呼吸器」、心臓の機能的現象を捉える為の「超音波画像診断装置」といった医療機器が供給不足になっている。
これらの背景には、厚生労働省が医療機関向けに施策した、新型コロナ感染拡大防止支援事業による補助金の支援が起因している。
補助金の対象として、一部の医療機器の導入費用が認められている為、各医療機関による補助金申請が爆発的に加速したのだ。
これにより、特に補助金対象となった製品を取り扱っている医療機器メーカーの供給が追い付かず、納品迄に大幅に時間が掛かってしまう問題が発生。最悪の場合、補助金申請期限に機器納品が間に合わず、補助金を活用した導入に間に合わない医療機関も出て来ている。その結果、経営難に苦しむ医療機関が、患者に対し適切な医療の提供が出来ず、医療機関で満足な医療が受けられない患者が発生する事態に迄発展した。この問題を踏まえ、医療機器メーカーは今後どの様に供給不足と向き合って行くべきか、これ迄に厚労省等が施策した補助金支援事業を踏まえ、論じて行く。
厚労省の施策により医療機器需要が加速
新型コロナの影響で、厚労省は医療体制の確保に務めるべく、様々な補助金支援事業を展開。例えば「令和 3 年度新型コロナウイルス感染症患者等入院 受入医療機関緊急支援事業補助金」が挙げられる。新型コロナ患者等の即応病床を割り当てられた医療機関に対して、その対応を行う医療従事者を支援して受け入れ体制を強化する為の補助を行うものだ。院内等での感染拡大防止対策や診療体制確保等に要する経費に関しては、補助上限額の3分の1が支給される(3000万円の上限であれば1000万が補助額として支給される)。その他にも、病院のみならず有床診療所や無床診療所、薬局、訪問看護ステーション、助産所に対して補助を行う「医療機関・薬局等における感染拡大防止等支援事業」や「新型コロナ疑い患者受入れのための救急・周産期・小児医療機関の院内感染防止対策」、生産性向上が見込める機器やシステムに対し補助金が支給される「働き方改革推進支援助成金」等といった施策を展開。各医療機関がこぞって申請を行い、各地方自治体の窓口が対応に苦慮する事態が起こった。
加速する医療機器供給不足
新型コロナの影響を受けて経営難となり、医療供給体制の確保が難しい医療機関を中心に多くの施設が補助金申請を行った。これにより、医療機器供給不足が急激に加速。各医療機器メーカーの供給が追い付かず、正に需要と供給のバランスが取れない事態となった。
例えば近年では、冒頭に述べた通り、パルスオキシメーターの供給不足問題が慢性的に起こっている。日本医師会が発行している「新型コロナウイルス感染症外来診療ガイド」ではウイルス性の肺炎を推定する為の指標として 「経皮的動脈血酸素飽和度値の低下」を基準としている。又、パルスオキシメーターは医療機器の中でも比較的安価であり、国内でも多くのメーカーによって供給体制が築かれている機器であった為、販売展開が加速。地方の市役所でも1案件でパルスオキシメーター数千台の入札案件が発生する等、その需要は加速の一途を辿っている。
体温計においても深刻な供給不足が取り沙汰されている。今や「体温」は新型コロナ患者の判別の為に最も用いられるバイタル情報の1つだ。利用されるシーンは幅広く、その範囲は医療機関のみならず飲食店や公共施設等でも多く利用されるようになった。従来型の腋窩で測定する体温計からハンディタイプの非接触で測定出来る体温計、更にはスタンド型の非接触タイプの体温計等、市場に存在する現行機種の種類には枚挙に暇が無い。
又、人工呼吸器も同様に供給不足問題が加速。
その背景には前述の補助金支援の他に、政府が施行した「医療機関に対する人工呼吸器等の消耗品の配布」や「新型コロナウイルス感染症患者の治療に必要な人工呼吸器無償譲渡」が起因している。この施策により、国内の人工呼吸器メーカーが政府に対し、相当数の人工呼吸器並びに消耗品を販売。政府は各メーカーから仕入れた人工呼吸器や消耗品を、人工呼吸器が必要な患者の受け入れ施設へ無償譲渡した。
これにより、各人工呼吸器メーカーで供給不足問題が引き起こされ、結果として無償譲渡を受けた施設は限定される形となり、それ以外の医療機関では人工呼吸器の台数が足りない事態にまで発展した。
加えて、人工呼吸器が供給不足になった背景には別の問題も起因している。それは、国内に於いて人工呼吸器を製造しているメーカーが極端に少ない点にある。独立行政法人経済産業研究所のデータによると、人工呼吸器の国内生産比率は著しく低い事が分かる。2018年のデータでは、成人用人工呼吸器の年間供給量9万2812台の内、国内生産は42・1%(3万9050台)に止まり、供給量の半数以上を輸入(5万3762台)が占めている。手動式人工呼吸器の年間供給量は22万1788台と成人用人工呼吸器の供給量の2倍以上だが、国内生産はわずか3%(6607台)で、殆どを輸入(21万5181台)が占める。この事から、国内における人工呼吸器生産体制の乏しさが浮き彫りになっている。
医療機器メーカーが今後取るべき対策とは
政府は医療体制確保の為に、医療機関に対し数多くの補助金支援事業を展開。しかしながら、それによって医療機器メーカーの供給が追い付かない事態が引き起こされている。この事を踏まえ、各医療機器メーカーが取るべき対策は、企業間の連携による供給体制の拡充である。例えば日本光電工業株式会社は、20年に人工呼吸器需要増加を鑑み、国内生産体制を強化。本田技研工業株式会社に対し、人工呼吸器の架台1000台の生産協力を要請した。同社ではその他にも 自動車メーカー・電機メーカー等のパートナー企業から支援され、富岡生産センタ(群馬県富岡市)が人工呼吸器及び生体情報モニタの増産体制の構築を進めている。
実際の所、もはや国内の医療機器メーカーだけで増産体制を拡充する事は到底難しい。医療機器メーカー全体の80%が中小企業で占められている以上、急速な医療機器の需要によって引き起こった医療機器供給不足問題に対し、医療機器メーカーが単独で打開する事は現実的では無い。であれば、先に述べた例の様に各医療機器メーカーが、現在の新型コロナによる供給不足問題を真摯に受け止め、生産体制を確保すべくアウトソーシングを積極的に行っていく必要が有る。業界の垣根を超えた事業提携も辞さない構えが必要不可欠だ。
まだまだ収束が見えない新型コロナに対し、医療機器メーカーはどう向き合って行くべきか。又、政府や、医療機器メーカーとは畑の違う異業種企業が真摯に医療機器供給不足に向き合い、課題を解決する姿勢が求められる。協力体制を如何に効率的に組み上げて行けるかが、今後の供給体制を安定させられるか否かの重要な要素になる。
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