自民党への接近目立つ、参院選野党勢力との関係性維持は……
約700万人の組合員を擁する労働組合の全国組織、連合が夏の参院選を前に注目されている。芳野友子氏が女性として初めて連合会長に就任した事に加え、自民党政権からの政権交代を目指して民主党等の野党勢力を応援して来たにも拘わらず、最近は自民党への接近が目立つからだ。
「新型コロナウイルスによる経済活動の停滞に加え、資源高や供給制約、円安等による物価上昇の影響が懸念される。とりわけ、パート、有期、派遣や、フリーランス等の曖昧な雇用で働く仲間、女性、外国人の方々が、大きな打撃を受けている。不確実な状況に在る今こそ、底上げ、底支え、格差是正、人への投資、社会的セーフティネットの強化に繋がる政策・制度を通じて、雇用と暮らしを守り、将来の希望に繋げる事が重要だ」——。これは4月29日に東京・代々木公園で3年ぶりに対面で開かれた連合のメーデー中央大会での芳野会長の挨拶だ。
従来の連合の主張と変わらない様に思えるが、そこには松野博一・官房長官の姿が見える等、従来よりも様相は変わっている。
連合は元々1989年に、旧社会党系で官公労を中心とした「総評」と、旧民社党系の民間労組を中心とした「同盟」が結集して発足した「ナショナル・センター」。「非自民、反共産勢力」を掲げ、政権交代可能な政治体制の確立を目指して来た。2009年から12年まで続いた旧民主党政権誕生に大きな役割を果たした他、1993年の細川護熙政権にも尽力したのは、有名な話だ。
だが、1000万人の組合員を目指して来たが、結成時の800万人をピークに減り続け、一時よりも組合員数は戻したものの、704万人に留まっている。労組全体の推定組織率は21年6月時点で16・9%にまで落ち込んでおり、20〜30代の若い世代を中心にその存在感は徐々に低迷。それに比例するかの様に、政治的な存在感も低くなっている。
有力候補者が続々固辞、女性会長誕生の経緯
そんな中、「消去法」とも言える方法で誕生したのが、芳野会長だ。連合会長は電機や鉄鋼など日本を代表する大企業の労組でリーダーとして活動して来た人物が就任する事が多かった。しかし、中小メーカーが大半を占める産業別労働組合の「ものづくり産業労働組合(JAM)」副会長だった芳野氏が選出されたのは、21年10月で任期を終えた神津里季生・前会長の後任人事が混迷したからだ。
当初、本命とされたのは全トヨタ労働組合連合会出身の相原康伸・前事務局長だった。だが、出身母体とも言える自動車総連が、「神津・相原」執行部が共産党と手を組む立憲民主党路線だった事を理由に会長職への昇格を拒否した事で難航。その他の有力候補者も「難しい舵取りを迫られる」事等から続々と固辞した。
「火中の栗」を拾う人物が居ない中で、「女性」「中小企業出身」など労働運動の今日的な課題にマッチするという理由で、神津前会長らが推したのが芳野氏だった。連合の関係者は「初の女性会長という話題性で乗り切ろうとした側面が大きい。女性会長なら批判もしにくいだろう」と明かす。労働分野に詳しい大手紙の記者も「今の連合には求心力も無く、会長になったとしても『うまみ』は無い。そんな誰もやりたがらない中、芳野氏を女性だからと話題性で選んだ」と解説する。
1966年生まれの芳野氏は84年に東京都内の高校を卒業し、ミシンメーカー「JUKI」に就職し、在庫管理の事務に従事していた。その後、労働組合の専従になる誘いを受け、労働運動の世界に入った。連合が誕生する前年の88年に、同社の労組として初めての女性中央執行委員に就任。「JUKI」は同盟系で、総評系の女性組合役員と交わるうちに、女性労働の実態やセクハラ等ジェンダー問題に関心を寄せる様になっていったという。
共産党との共闘に拒否感示し、自民党に接近
芳野氏を取り上げた昨年12月25日の毎日新聞の記事に次の様に書かれているのは象徴的だ。「旧同盟系はどちらかと言えば女子会みたいな感じ。旧総評系の女性たちの手帳には、学習会や会議の日程がびっしり書いてあった。私のは『SALE』とかばっかり。恥ずかしくて手帳を広げられなかった」。
ジェンダー問題に関心を寄せる一方で、旧同盟系出身らしく、共産党には拒否感が強い。芳野氏は常々、「連合の労働運動は、自由で民主的な労働運動を強化、拡大していくという所から始まっている。その点で共産とは考え方が違い、相容れない」と語っている所からも窺える。立憲民主党の共産党との共闘路線に拒否感を示し、自民党と接近しているのもこうした背景が在るのだろう。4月18日には自民党の社会保障制度等を議論する部会「人生100年時代戦略本部」に出席し、雇用等について見解を述べた。自民党の部会に出席するのは異例の事で、立憲民主党など野党から批判を受けた。これに先立つ3月16日には麻生太郎・自民党副総裁と東京都内で会食もしており、「自民シフト」を強めている。
4月29日の連合のメーデーに駆け付けた松野官房長官は「岸田総理が出席をし、挨拶する予定だったが、本日朝から東南アジア、欧州訪問に出発した為欠席となった。岸田総理は出席が叶わなかった事を大変残念に思っていた」等と述べ、わざわざ岸田文雄・首相が出席出来無かった事に触れ、気遣っている。
実は2月17日に小渕優子・自民党組織運動本部長とも会食しており、これが「布石」とされている。元々小渕氏とは同じジェンダー関係のイベント等で同席する事が多く、徐々に親交を深めて行ったという。メディア関係者は「こうした関係が影響し、自民党とのパイプを徐々に築いて行ったのだろう」と推測する。
自民党に近付く芳野氏への反発も根強い……
しかし、こうした芳野氏の「自民シフト」の行き着く先は見通せない。元々、立憲民主党等は国政選挙で連合の組織力に支えられて来た側面が在る。旧民主党関係者は「国政選挙になれば選挙区内の組合幹部や運動員に号令を掛け、ポスター貼りや名簿の提出等をお願いしていた。街頭演説の場所取りやビラ配り、候補者が遅れている場合等はマイクを握って場を繋ぐ事も出来る。彼らは選挙に慣れているので、簡単な指示を出すだけで直ぐに動いてくれる。こういう人たちが居なければ選挙はとても戦えない」と明かす。
末端の組合員の中には、自民党に近付く芳野氏への反発も根強い。連合の組織幹部は「自民党にこれ程接近されたら、今迄我々がやって来た事は何だったのかという思いになる」と語気を強める。別の組合員も「政権交代を目指してやって来たのに芳野氏のやり方には失望した」という声も上がる。
一方で、岐阜県職員組合が自治労県本部と連合岐阜から脱退する事を表明し、トヨタ自動車グループの労働組合で作る「全トヨタ労働組合連合会」も野党に限定せずに超党派との協力を加速させる等、連合内の各労働組合も独自の路線を歩み始めている。
今夏の参院選ではこれまで地方で連綿と築かれて来た野党勢力との関係性は維持されるのか。自民党の圧勝と目される中、芳野氏の行動はその「ダメ押し」ともなりかねない。仮に連合が「解体」されるような事態になれば、連合が出席し、経団連等と共に労使で進めている労働法制の立法過程にも影響が出かねず、国民生活にも直接的に波及する可能性が有る。今後の連合の動向には注視が必要だ。
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