国民医療費が増大する中、GE使用拡大による光と影
新薬は厚生労働省の審査を経て、製造・販売承認を受け薬価収載(医療用医薬品として保険適用になる)され新薬として市場に流通する。一方ジェネリック医薬品(GE)は、新薬の再審査期間や物質(成分)特許期間が満了した後、他の製薬企業での製造が許可され、厚労省から品質・効能・効果・安全性等が新薬と同等であると承認された医薬品を示し、新薬に対し、後発医薬品と呼ばれる。開発コストが圧倒的に少ないため薬価は廉価となる。
欧米等では汎用されており、医師が処方箋を発行する際、製品名ではなく一般名(generic name:成分名)で記載する事から、ジェネリック医薬品と呼ばれ世界共通の呼称となった。日本でも浸透している。新薬の開発には「基礎研究」の段階で、医薬品として使用出来る可能性の有る物質(成分)を検索し、予備的試験により物質を選定する。続いて「非臨床試験」へと進み、物質の有効性や安全性を確認する為に動物を用いて生物学的試験研究を行う。有効性等が確認されると、ヒトに対する臨床試験である「治験」の段階になる。治験が「第Ⅰ相試験」から「第Ⅲ相試験」迄進むと、その結果についてPMDA(医薬品医療機器総合機構)での承認審査が実施され有効性等が確認されると、製造・販売承認を受けて薬価収載され医療用医薬品として使用される。新薬の開発で検索された新薬候補となった物質が、実際に新薬として使用出来る確率は2〜3万分の1と言われている。年々、開発の厳しさは増しており、新薬開発コストも増加の一途を辿り、自ずと薬価も高額になっている。
国民医療費増加とGEの急拡大
2000年度には30兆 1418億円だった国民医療費は、20年度には42兆2000億円と大きく増加している。20年度は新型コロナウイルス感染症の影響により、前年度に比べ減少したが、終息すれば再び増加に転ずる事は疑いの余地が無い。
国は国民医療費削減の為に、薬価が低いGEの使用を推進している。13年4月5日に「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」を策定して取り組みを進め、15年の閣議決定において、17年半ば迄にGEの使用割合を70%以上にすると共に、18〜20年度末迄の間のなるべく早い時期に80%以上にするという新たな目標を定めた。更にその後も使用を推進する方策が打ち出されていて、その結果05年度の使用割合は32・5%だったが、21年3月時点で82・1%に急拡大したとの報告が有る。
GEの使用推進によるメリット・デメリット
国民医療費削減に向けた取り組みとしては、他にも「後発医薬品調剤体制加算」が有る。調剤の現場である保険薬局がGEの使用を促進する事に対して診療報酬が加算されるものだ。
病院等医療機関に於いても、使用促進策として「後発医薬品使用体制加算」を導入。DPC対象の医療機関でも使用割合により機能係数として加算される制度が導入された。又、処方箋の「一般名処方加算」も有る。医療機関が処方箋を発行する際に商品名でなく成分の名前で処方した場合に、処方箋料に保険点数が加算される仕組みである。この様に国は後発品を使用出来る環境を整え、更なる拡大を模索して、国民医療費削減に取り組んでいる。
メリットは何と言っても、薬価が安価で国民医療費の軽減となる事だ。06年のデータで、GEを積極的に使う事で、年間1兆円の費用削減効果が有ると試算されている。同時に、患者の経済的な負担も軽減される。しかし、医療保険制度が異なる欧米と比較するとまだまだその恩恵は少ないと考えられる。もう1つのメリットとして、医薬品の味覚や形状等の剤型が工夫され、より扱い易い製品の開発が可能になる事も挙げられる。
一方デメリットとしては、医薬品添加物や製造過程が異なる為、GEに切り替える事により効果に変化が生じたり、有害作用が出現したりする可能性は否定出来ない。
医薬品添加物は、内服し易く安定化させる為に加える有効成分以外の物質である。薬理作用を示さず無害でなければならない事や、有効成分の治療効果を妨げてはならない事が定められている。添加剤が異なるGEも「生物学的同等性試験」によって先発と効果が同等である事は確認済みだ。
その反面、GEは臨床試験を実施していない為データの蓄積が少なく、副作用等の情報収集が不足している。加えて新薬と同じ有効成分である事から現在は安全性の試験は義務化されておらず、GE販売の時点では有効成分の安全性等は実証されていないという事になる。
GEの問題点と今後の解決策を考える
日本のGEは1960年代半ばから承認、販売されていて、当時は医薬品の特許が製法特許のみであり、承認条件は現在より簡便だった。その後、承認条件の難易度は上昇して現在に至る。
使用割合は2005年度が32・5%に対し21年3月時点で82・1%と、市場が急成長、急拡大を遂げた事は前述したが、この急成長によるGEのネガティブな側面も存在する。20年12月に「小林化工」が製造販売した経口抗真菌薬に睡眠薬の成分が混入し、健康被害が報告されたのは記憶に新しい。344人に処方され、21年3月8日時点で245人に健康被害が発生し、運転中に意識を失う等して事故を起こした人が居た。又、2人が死亡。今でも小林化工事件の後遺症は継続している。
その後、調査の中で、製造承認を受けた手順と異なる承認外手順書や、立ち入り検査用の二重帳簿作成といった悪質な違反行為が発覚している。企業コンプライアンスが微塵も無い製薬会社が存在する事に驚愕する。又、GEの大手「日医工」でも同様の違反行為が見付かり業務停止命令を受けた。厚労省はGE医薬品メーカーの相次ぐ品質不正を受けて、沖縄を除く46都道府県の医薬品製造工場で一斉に立ち入り検査を行う等して再発を取り締まった。両社の事件は言語道断で、国民のGEに対する信用失墜は計り知れない。この事件が今後のGE使用推進に大きな影響を及ぼす可能性は否定できない。更なる問題として、有効成分を海外の工場に依存している為、新型コロナ拡大の影響で有効成分が不足する等、医療現場の需要に応じられず、出荷調整に至るケースが続出。治療に影響が出ている事は大きな問題である。
国民医療費削減策のお陰で、GE市場が急成長を遂げた反面、欧米に比べるとその基盤整備が遅れていて、薬機法違反等の問題も露出した。新薬が次々に製品特許期間を終了して、GEの製造が可能になる現況で、製薬企業の製造ライン等に限界が有るのではないかとも思われる。この様な事実が今回の事故が起こる温床になったのではないだろうか。
厚労省は、21年7月2日に今後のGEの承認審査について、製造管理等に昨今の品質問題の原因の1つとして、適正な人員配置がなされていなかった事が挙げられるとの考えを示した。その上で、医薬品の製造業者における製造・品質管理体制については、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」に基づき、製造・品質管理業務を適正かつ円滑に実施し得る能力を有する責任者及び人員を適切に配置する事とし、製造品目の追加に伴う製造所の人員配置の状況とその妥当性を確認するとしている。
19年11月時点で国内のGE製薬企業は194社有り、その殆どが中小規模だ。大手の新薬企業が専門分野に大きな力を注いで製薬を行っている現状を鑑みて、GE製薬企業も特許が終了した全ての製品に対応するという考えは捨て、専門分野を持ち、企業間で協力して使用拡大を模索する必要が有るのではないか。GE製薬業界は医薬品使用者である患者の安全を第一に考える企業であるべきだ。厳しい言い方になるが、医療に貢献出来ない製薬企業は必要無い。
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