海外でのオンライン診療の普及
海外でオンライン診療が進んでいるという事がよく指摘される。コロナ禍前と後で比較してみよう。米国の状況については後で詳しく述べるが、コロナ禍以前の米国では、高齢者の公的保険であるメディケアのオンライン診療は、医師不足の地域に限定されていた。又、米国では地方分権が進んでいる為、民間保険のオンライン診療も医師の免許の関係で同じ州内でしか行えなかった。
しかしコロナ禍以後はどちらも地域の制限を解除しており、その結果オンライン診療の割合が2割から6割に増えたと言われている。
英国では元々、医療費が税金で賄われているという事もあり、効率化が進んでいる。AI問診等の導入も進んでおり、NHS(National Health Service、国民保健サービス)がネット診療の普及に力を入れた為、オンライン診療の普及率は7割に増加した。比較的保守的と言われるフランスでも、コロナ禍以前は1年間に1回以上の対面診療を原則としていたが、その規制を撤廃する事によりオンライン診療が2割から5割に増加したと言われる。
最近ではこの様な記事が紙面を賑わしているが、前回述べた通り、コロナ禍における日本のオンライン診療は、諸外国に比べて普及が遅い事は間違いない。その原因は前回も述べたが、医療機関が価格転嫁した為という事もあるし、患者側の受け入れ態勢が整っていなかったという事もあろう。
今回は、米国を例にとって、オンライン診療に関する規制の変化を詳しく見てみよう。
米国におけるテレヘルスの規制緩和
私が関わっている会で、米国の遠隔医療の協会の方と議論する機会があった。今回はそのエッセンスを報告したい。
米国の「テレヘルス」を、日本では「遠隔医療」と訳してしまうので少し分かりにくいが、日本で言う「オンライン診療」に比べると概念はかなり広いが、オンラインでのリアルタイムの診療だけでなく、患者の日常生活のデータ収集や、医師と他の医療従事者とのチャットの様な非同期コミュニケーションも「遠隔医療」に含まれる。以降、この概念を「テレヘルス」とする。
米国においても、コロナ禍でテレヘルスの規制は緩和された。実はこの点は日本と同じで、緩和された規制を今後どうするのかが米国でも話題になっているという。
コロナ禍以前の米国のテレヘルスは、患者が医療機関内にいる時に限定されていた。その為、2019年まではメディケアの0.8%しかテレヘルスの対象者ではなかったが、COVID-19の流行で公衆衛生上の緊急事態と判断された事により、20年より全ての被保険者がテレヘルスの対象となっている。
今後の規制については、コロナ禍以前まで逆戻りするという事は無いと思うが、無制限に緩和するのではなく落とし所を見付けようと模索している様だ。
ご存知の通り米国は国民皆保険制度が無い訳だが、連邦制で分権化が進んでおり、制度は州ごとに異なっている。例えば米国医師国家試験は全国の統一試験であるが、その後臨床医として機能する為には州ごとの承認が必要になる。つまり、州ごとに個別の規制があり、テレヘルスも例外ではない。規制緩和についても、ある州では行われ、ある州では行われていないという状況であり、患者の住んでいる州の規制が優先されるという。一方では、メディケアの様に全国統一の保険制度もあるので、話は更にややこしい。要は、米国は日本が思っているほど自由な状況ではなく、乗り超えなければならない変革や、それに伴う規制緩和が必要であるという事だ。
米国におけるテレヘルスの進展
しかし、州ごとの規制があるからといってテレヘルスが進展していない訳ではない。米国の遠隔医療協会は、テレヘルスを「人々が必要な時に必要な場所でケアを受ける事が出来、その際に安全で効果的かつ適切なケアを受ける事が出来る様にすると共に、臨床医がより多くの人々に貢献出来る様にする事を目的」としている。テレヘルスを手段として位置付けているのである。そして、テレヘルスは、「対面での治療が必要ない、あるいは不可能な場合に、個人と医療従事者を効果的に結び付けるもの」としている。
その為に、時間が同期していない情報交換(例えば、チャット等のオンラインによる情報交換や、心電図の遠隔モニター等)もテレヘルスの一部として位置付けており、右記の図の様に全米でテレヘルスの普及が進んだ。
日本は縦割りで統合が苦手である、とよく言われるが、この話などはその典型である。米国の場合、州ごとあるいはどの民間保険に入っているかによって分断されてはいるが、その固まりの中では統合されている。
分かり易い例で言えば、スマートフォンのサービスをソフトバンクにするのか、ドコモにするのかという様な違いである。お互いに乗り換えるにはものすごく労力が掛かり、分断されているが、その中のサービスは連携が取れていて便利である。ITの進歩は、便利さを伴ってこの様に動いていくのだが、日本は更に細かいレベルで縦割りになって分断されてしまっている。これが日本でIT化が進まない理由である。これを逆に言えば、特にヘルスの分野では通信キャリアへの期待に繋がるという事でもある。
日本におけるオンライン診療をどう考えるか
前号と合わせ、2回に渡りオンライン診療の普及について考察してきた。オンライン診療の進め方については概ね3通りの考え方があるだろう。1つ目は、グローバルな傾向を重視し、政策側がオンライン診療をどんどん進める考え方。2つ目は、日本では時期尚早として熟慮を重ねる考え方である。
スマートフォン等が十分に普及している日本の現状を考えると、「日本人はオンライン診療を好まない」とは思われない。前回も述べた様に「経験が少ない」という事が最大の課題であろう。
前回触れた論文未発表の我々のデータでは、ヘルスリテラシーが高い人の方がオンライン診療等の効率化を望まない人が多かった。現在のオンライン診療は、消費者や患者の側でメリットが感じにくい、という事が問題なのである。
しかし、医療データの統合が進み、オンラインの診療のみならずデータの共有化のメリットが感じられる様になれば、状況は変わるであろう。これが筆者の考える第3の道である。
そもそも消費者側でのITリテラシーが高くない、といった面もあるだろう。20〜60歳の5000名を対象に我々が調べたところ、「ZOOM等のオンライン面談」は「よく利用している(8.0%)」、「ときどき利用している(20.4%)」という結果が出ており、全年代を通じて50%を超えなかった。この辺りも、どうするべきかは難しいが、日本の特徴と言えるかもしれない。
LEAVE A REPLY