世界的に見て極めて低水準とされる日本のジェンダーにおける格差を取り除き、時代の流れに足並みを揃えるべく、政府主導による男女共同参画が進められている。性別格差が根強く残る医療界において、とりわけ「女性管理職比率3割」の実現に向け、キャリア育成、就労継続の為の施策、関連法規や制度の整備、文化的価値観からの脱却等、乗り越えるべき課題は多い。同時に、厚生労働省により医師の働き方改革が進められている様に、全ての医師が働き易い労働環境を実現する為の包括的な対策の推進が求められる。1月26日に衆議院第一議員会館で開かれた勉強会では、医療界におけるジェンダー平等について、秋田大学大学院医学系研究科衛生学・公衆衛生学講座教授の野村恭子先生に講演頂いた。
原田 義昭氏「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士):男女平等と言われ始めてから長いのですが、いかにそれを実質化するのかと言われて来ました。女性の医師や医療関係者はどんなにご苦労されている事かと思います。若い皆さん、特に女性の皆さんがめげずに頑張っておられる事に心から敬意を表します。
三ッ林 裕巳氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(元内閣府副大臣、自民党衆議院議員、医師):男女共同参画では選択的夫婦別氏制度の議論が激しくなっていますが、本質は女性が活躍出来る社会を構築する事です。地域医療構想、医師偏在対策、医師の働き方改革を三位一体で進めていますが、これからの医療において女性がいかに働き易い環境を作るかは大変重要です。
東 国幹氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(自民党衆議院議員):ジェンダーの問題は、どの分野においても恐らく切実であると思いますが、労働力の観点からモノを言うのは禁じ手だと思っています。日本が世界の中で先進国である為に大事な政策です。結果を残し、完結する為に、汗を流さなければなりません。
尾尻 佳津典「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):ジェンダーは日本が大変遅れている部分です。日本のジェンダー・ギャップ指数は120位という低評価になっていますが、それは海外からの投資が入らない事にも繋がりますので、ジェンダーについて勉強する事は重要で、それが国益に沿う事になると考えます。
医療界におけるジェンダー平等の推進
■日本の医師統計・調査に見る性差
厚労省の2018年の統計によると、全国の医師数は32万7210人、その内女性は7万1758人にまで増加しました。これは医師全体における22%を占める割合ですが、新興国30カ国で見ると、韓国と並ぶ最低レベルです。
毎年世界経済フォーラムから発表されているジェンダー・ギャップ指数は、21年で156カ国中120位になっています。これは4つの指標から算出されるもので、日本は教育と健康の2つの指標は点数が高い一方で、男女の賃金差や政治家、企業経営者、管理職といった責任の有る地位に就く女性の割合が極めて低い事が、ジェンダー・ギャップ指数が伸びない要因となっています。
そこで政府は「202030(にいまるにいまるさんまる)」と言って、20年迄に女性管理職の比率を30%に引き上げる事を目標として来ましたが、これが達成困難となり30年迄先送りになっています。こうした状況は、女性医師の将来のキャリアに大きな影響を与えています。
診療科別の割合を見ると、女性医師が多い診療科は皮膚科や眼科、耳鼻科、麻酔科といったオンオフの切り替えが比較的スムーズに出来る診療科に偏在しています。
年代別の割合では、例えば産婦人科では20代は女性が75%を占めていますが、女性が子供を産み育てる20代後半から30代、40代になると、女性医師は現場を離れて行きます。医学部は6年制なので新卒で24歳。卒後10年以内に一度でも離職する割合が、9割程度である事が確認されています。
09年に行った全国私立医科大学合同調査では、常勤で働いている女性は7割に過ぎないという事が分かりました。こうした事が、男性医師の働きを1とすると、女性は0.7と言われる事に繋がっています。
その後、厚労省が17年に行った「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」では、20〜30代では常勤の女性より男性の方が就労時間が長い事が分かり、この10年間で女性医師の働き方は殆ど変わっていないと愕然としました。状況は殆ど改善されていません。
そうした中、18年の東京医大の医学部入学試験での差別事件が起きました。現役と1浪、2浪男子は20点加算、3浪男子は10点加算、4浪男子と女子は0点と加点に傾斜を付けていたという大変残念な事件でした。
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