昨年末、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は米国で仮承認されたアルツハイマー病(AD)治療薬「アデュカヌマブ」について承認を見送り、継続審議とした。部会メンバーの1人は「継続と言っても現データの再解析ではなく、追加の臨床試験が必要になる」と語る。そうなれば、再審議までに4〜5年を要する可能性が有るという。
「米国と欧州の間を取ったようだが、『却下』寄りの結論だ」。アデュカヌマブの継続審議に関し、厚労省幹部はこう話す。
アデュカヌマブは米・バイオジェンと日本のエーザイが共同開発した。ADの原因物質とされる異常たんぱく質「アミロイドβ(Aβ)」を脳内から除去する事でADの進行を長期間抑える、というのが売り文句だ。
ただ、2つの臨床試験の結果は食い違った。いずれもAβの減少は一定程度認められたものの、症状の進行については一方の試験で22%抑制出来たのに対し、もう一方の試験では効果が認められなかった。
これを受け、米国食品医薬品局(FDA)は昨年6月、一定期間内に効果が認められない場合は承認を取り消すとの条件付きで承認したのに対し、欧州医薬品委員会(CHMP)は昨年12月、申請を却下し、欧・米で対応が割れた。FDAは「Aβの蓄積がADの原因」という仮説に重きを置き、Aβの減少を以て仮承認した。方やCHMPは2つの臨床試験の間の食い違いを否定的に捉えた。バイオジェンは即座に再審議を求めている。
日本の場合は、①2つの試験結果に一貫性が無い②Aβの減少と進行抑制の因果関係が不明確③脳の浮腫等の副作用——の3点を挙げ、継続審議とした。アデュカヌマブの潜在的効果に賭ける格好で継続審議としたものの、追加の臨床試験で認知機能の改善傾向を明快に示す事が出来なければ却下になる。
先行した米国でもアデュカヌマブは普及していない。年間5万6000ドル(約630万円)という費用の割に効果が曖昧とあって、昨年7〜9月期の売上高は30万ドル(約3400万円)に留まった。複数の大手医療機関が不使用を決める等当初の期待が萎んだ事が大きい。昨年末にバイオジェンは価格を半分に引き下げると発表したものの、効果への疑問符は付いたままだ。
認知症の人は世界に5500万人いるとされ、日本では2025年に700万人に達すると推計されている。高齢者の5人に1人になる計算だ。国内外ではAβ除去を狙う他の新薬候補も相次いで開発が進められている。
ただ、「Aβ原因説」を立証するのは難しい。効果が期待出来るのは早期のAD患者に限られ、数年間という短い臨床試験の間に明確な認知機能の改善効果を得るにはハードルが高いとみられる為だ。更に、高額な薬剤費も課題になる。患者数が膨大なADの場合、少々薬価を抑えても全体額は膨らむ。厚労省幹部は「継続審議としたのは極めて妥当な判断」としつつ、仮に承認された場合も「適用患者の相当な絞り込みを迫られる」(幹部)として、新薬への期待と高額な薬剤費というジレンマに頭を痛めている。600万人を超える国内の認知症患者及びその家族らからの期待は大きい。
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