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コロナ禍で露呈した日本経済の脆弱性

コロナ禍で露呈した日本経済の脆弱性
拡大する格差——アンダークラスの貧困がもたらすもの

帝国データバンクが2021年12月23日午後4時段階で集計した数字によると、新型コロナウイルス関連の倒産(負債1000万円未満及び個人事業者を含む)は、全国で2565件に達した。

同日の新型コロナウイルス感染確認者は東京都内では37人。68日連続で50人を下回ったが、欧州で猛威を振るうオミクロン株の影響を考えると、いつになったらコロナ禍による経済的打撃が収まるのか今後も見通しが立たない。ただ、現段階ではっきりしているのは、こうした打撃が全産業あるいは全国民に等しく及ぶわけではないという点だろう。

 帝国データバンクの数字によると、製造・卸・小売を合計した倒産件数は、飲食店が428件と最大で、食品は279件、アパレルは211件。「ホテル・旅館、旅行業、観光バス、土産物店」等の観光関連は219件となっており、サービス系の打撃が大きい。

際立つ「階級差」と「最貧層」の増大

 この傾向は以前から指摘されていたが、コロナ禍でもたらされた打撃の深刻度は業種によって異なるだけではない。この国内部の「階級」ごとに打撃の影響は大きく異なる。それ故に容易ならざる問題として、現在「階級」が浮上しているのだ。

一般に60年代の高度経済成長を経て、70年代には「一億総中流」の社会が実現したと見なされている。だが80年代に、第2次臨調・行政改革に象徴される新自由主義が始まって以降雲行きが怪しくなり、1989年には「中流崩壊」が指摘されるようになった。その後2006年に、「格差社会」が流行語大賞にランクインしたのは記憶に新しい。

非正規雇用とコロナ禍が増長する格差社会

 今や、「一億総中流」の社会は完全に崩壊したというのが定説になっている。既にこの社会が目撃しているのは、上流と下流という「階級」間の格差が固定化し、所得差が拡大し続けているのみならず、「下流」の内部で新たに形成された最貧層がより増大している現実に他ならない。

 近代日本の階級・階層論が専門で、『アンダークラス2030 置き去りにされる「氷河期世代」』(毎日新聞出版)等の著作がある早稲田大学教授の橋本健二氏によれば、日本の社会は職種や雇用形態等により、5つの「階級」に区分されてしまったという。

 それは、①従業員5人以上の企業の経営者・役員の「資本家階級」(全就業者中3・5%)、②大企業に勤務する管理職・ホワイトカラー等の「新中間階級」(22・8%)、③自営業者・家族経営従事者・農家等の「旧中間階級」(11・8%)、そして④単純作業やサービス業・販売業等の「正規労働者」(34・5%)に加え、⑤非正規で低賃金・不安定雇用の「アンダークラス」(14・4%)だ。

 おそらく③と④はオーバーラップする面もあるだろうが、90年代以降の非正規雇用の増大によって「アンダークラス」という「階級」が生じ、極端な格差社会(橋本氏によれば「階級社会」)が誕生したという。更にコロナ禍はこの傾向に拍車を掛けたのみならず、5つに分かれた「階級」の存在を鮮明に際立たせた。何故ならば、コロナ禍で受けた打撃の度合いが違い過ぎるからだ。

階級別の世帯収入とアンダークラスの貧困率

 橋本氏は、「週刊ダイヤモンド」21年9月6日号(電子版)の「〝旧中間階〟は年収127万円減、貧困大国ニッポンの全『階級格差』データを初公開!」で発表した「階級別に見た収入・貧困率と仕事の変化」という表で、世帯収入1年間の減少金額とその減収率を数字で示している。

 それによると、「資本家階級」は64万円の減収で、減収率は5・5%、「新中間階級」は47万円で、5・4%だ。「正規労働者」になると44万円、6・5%だから、ここ迄はそれ程格差は感じられない。ところが、「旧中間階級」になると127万円、15・8%、「アンダークラス」は53万円、12・0%と一気に悪化する。

 更に「低所得で経済的に苦しい状況にある世帯の割合」(同記事)である貧困率で見ると、「アンダークラス」は19年の貧困率が32・7%であったのが、コロナ禍が始まった翌20年には38%と5・3ポイント増大している。「旧中間階級」はこれが15・5%から20・4%と4・9ポイントの増大だから、「アンダークラス」の方が影響度の広がりが大きい。

 しかも非正規労働者は20年7月には、対前年同月比で実に131万人も減少した。非正規労働者を取り巻く雇用環境がいかに悪化しているかの証明で、21年と20年の比較だと、「アンダークラス」は貧困率のみならず、所得の減収額と減収率が更に悪化を余儀なくされている事は間違いあるまい。

 冒頭の帝国データバンクの発表で示されたように、コロナ関連の倒産で最も多いのは飲食店であり、自営業者が非正規の従業員を雇っているケースが大半の業種だ。そのため、「旧中間階級」と「アンダークラス」が最も打撃を被ったのは必然的であったろうが、人数的には「アンダークラス」が913万人で、「旧中間階級」の751万人よりも160万人以上多い。しかも自営業者は以前から減少傾向にあるが、非正規労働者は今後少なくとも雇用環境に関わりなく増加していくのは確実だ。

アンダークラスへの対応と日本経済の未来

この「アンダークラス」に対する行政の対応が不十分で、「階級」間の格差が固定化し、家族的に同じような境遇が受け継がれて拡大していこうものなら、日本経済の衰退に更に拍車が掛かるのは疑いない。

 第1の理由は、GDPの5割以上を占める個人消費の盛り上がりを阻害する要因が形成されるからだ。橋本氏の調査によると、20年の個人年収では「資本家階級」が818万円、「新中間階級」が561万円。「正規労働者」は463万円で「旧中間階級」が413万円だから、この両者は大差が無い。ところが「アンダークラス」は216万円に過ぎず、非正規労働者増加の傾向が続けば消費の拡大等夢物語となる。

『アンダークラス2030』 橋本健二著

 第2の理由は、社会的コストの上昇だ。「アンダークラス」は税の支払い能力が十分ではなく、更には年金や失業保険の未加入も少なくない。そうなると社会保障関連予算を増大せざるを得なくなり、貯金も困難だから、この「階級」が高齢化したら一挙に生活保護の申請者が急増するだろう。加えて「アンダークラス」の男性の66・4%、女性の56・1%が未婚だ。生活苦で結婚が困難で、結婚出来たとしても出産・育児の余裕が無い以上、日本経済にとって「死病」に等しい少子化を更に解決不能に追いやっていく。

 現在のコロナ禍は、2000年代の「小泉・竹中改革」が加速化させた労働者雇用の非正規化と格差社会化が、日本経済の基盤をここ迄脆弱にした事実を示している。現状の経済的苦境から立ち直るのみならず、「ポストコロナ」を見据えた経済政策を早急に構想する事が求められている。だが現在の岸田文雄政権に、二極化していく「階級」差がどれだけ危険かを認識している気配は乏しい。日本経済は、どこまで沈み続けるのか?

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