急拡大を続ける新型コロナウイルス感染症の対応に多くの医療機関が苦慮する中、医療現場の課題として改めてクローズアップされたのが、看護師、保健師、助産師、准看護師等の「看護職」の不足だった。何らかの事情でやむを得ず職を離れている人もいるが、資格を持ちながら現場を離れている潜在看護職は約71万人いるとされ、国も対策に乗り出している。一方、職場環境や待遇の改善は進まず、医療現場の体制が整っているとは言い難い。又、医療が高度化、専門化して行く中で、高いスキルを持った看護師が求められている。今後、どうしたら看護職を増やして行けるのか。看護師の質向上はどのように図って行くべきなのか。看護職を取り巻く現状と課題について日本看護協会の福井トシ子会長に聞いた。
——新型コロナウイルス感染症対策を巡って、看護の現場ではどのような教訓が得られましたか。
福井 健康危機管理という点で言えば、「地域における感染管理」についてです。これ迄、医療機関の中での感染対策については、協会としても力を入れて取り組んで来ましたが、地域における感染管理にどう対処するかという点について特段強く打ち出して来た訳ではありませんでした。今後は地域における感染管理に必要な人材育成や教育環境の整備の為に役割を果たして行かなければならないと強く思っています。
——課題の看護職の不足についてはいかがでしょうか。
福井 1992年に「看護師等の人材確保の促進に関する法律(人確法)」が制定され、看護職を確保する為に中央ナースセンターと都道府県ナースセンターが設置されました。センターの運営は国や都道府県から指定を受けて看護協会が担い、定めにある役割に基づいて活動を行って来たのですが、コロナ禍のような有事の際に看護職を確保する為、センターを活用する仕組みが無かった。現職の看護職約168万人に対し、潜在看護職が71万人というのは大きな数字です。今回の教訓を踏まえ、有事にどう対応するのか検討を進める必要が有ると考えています。国は、マイナンバーと看護職の免許を突合させて一元管理をして行く方針を既に決めています。それらを有効に活用出来るよう働き掛けて参ります。
——潜在看護職に戻って来てもらう為には何が必要なのでしょうか?
福井 新型コロナウイルス感染症の拡大の中で看護に戻って来た看護師達には、医療機関側との間で働き方に対する考えに大きなギャップが有りました。医療機関側は3交代で週5日の勤務が可能な看護師や、9時から5時まで働ける看護師を期待していますが、看護職側は「フルは難しいけれど、短時間で良ければ」と思っている人も多い。病院側が意識を変え、柔軟なシフトを組めば、相当数の看護職が戻って来てくれる筈です。一方で、離職期間が長いと、今の医療体制に付いて行けないという側面も有るので、復帰し易い環境を作る必要が有ります。資格活用の基盤の強化は、国にとっても日本看護協会(以下本会)としても重要な取り組みの1つです。感染拡大の中で復帰した看護職は、ワクチン接種やホテル療養者の対応、入院待機センター等で働く人が多かった。そうした場であればスキルを生かせると考えたようです。ワクチン接種センターについては時給が良いという事も影響したようです。
看護における新たな課題—国際連携と健康危機管理
——貴会が2015年に公表した「看護の将来ビジョン」ですが、目標年度の25年に向けて進捗はいかがですか。
福井 「将来ビジョン」は、今後の社会の要請に看護がどのように応えて行くのかを示したものですが、20年の中間評価で2つの項目を付け加えました。1つは今回のような新しい感染症に対する健康危機管理の強化。もう1つは国際的な連携強化です。日本の看護は世界から高く評価されており、国際的にも重要なポジションに立っています。本会は「国際看護師協会(ICN)」に加盟していますが、21年10月の理事選挙で、手島恵氏(千葉大学大学院教授)が当選を果たしました。ICNには136団体が加盟し、地域毎に投票で理事を選出します。西太平洋・アジア地域では中国、韓国、台湾、日本から立候補して、日本と台湾が理事に当選しました。理事になれば、ICNの中で意思決定に関与し、アジア・西太平洋地域の看護を牽引出来る。日本の看護の良さをもっと世界に発信出来ると考えています。
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