AI医療機器の可能性と課題
武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科理事長、
(株)AIメディカルサービス代表取締役CEO
多田 智裕氏
21世紀は人工知能(AI)を使った「第4次産業革命」が始まったとも言われ、医療の分野でもこの数年で多くの研究開発がなされるようになった。2021年からはAI医療機器を社会実装する時代に入り、より質の高い医療が期待されるだけでなく、市場規模11兆円の成長産業として国も支援に乗り出している。11月24日に衆議院第1議員会館で開かれた勉強会では、武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科理事長・株式会社AIメディカルサービス代表取締役CEO多田智裕医師に、「胃癌鑑別AI」の仕組みやAI医療機器時代に突入する上での課題についてお話し頂いた。多田氏は、内視鏡を使った胃癌鑑別AIの開発に成功し、近く世界で初めて承認される見込みだ。患者死亡率の軽減に寄与するだけでなく、画像の見落しの悲劇をも救う等、AI医療機器の将来性を示し、国内外で注目を集めている。
三ッ林裕巳・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(自民党衆議院議員、医師)今後、新型コロナウイルスの感染第6波が来ると言われていますが、日本は現状では低く抑える事が出来ています。第6波に備えて、国産ワクチンの開発等が年内にも承認される見込みなので、迅速にお届けして国民の安心を図ります。
尾尻佳津典・「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)AIの導入によって医療の質が格段に上がる事は間違い無いのですが、世界に比べて日本はまだまだ医療分野への進出が遅れているようです。患者満足度の高い医療を提供するにはAIが欠かせません。今後の研究の発展に期待しています。
AI医療機器の可能性と課題
■AI医療機器でより多くの患者の命を救う
私は25年間内視鏡医をしており、内視鏡指導医でもあります。専門医でも困難な病変の鑑別をAIがサポートする研究開発を2018年に始め、胃癌と食道癌の検出AIの開発に世界で初めて成功しました。21年8月、胃癌鑑別AIにおいて承認申請を終了しました。世界初なので承認申請は手探りで4年近く掛りましたが、世界初の製品として22年春に上市し、同年後半にはシンガポール、東アジア全域、アメリカ、ヨーロッパに展開する予定です。
約70年前、日本で初めて開発された内視鏡は、全世界で使われるようになり、その間日本が世界をリードして来ました。現在、消化器内視鏡はオリンパス株式会社、富士フイルム株式会社、ペンタックス株式会社の3社で世界シェアの98%を占めています。30年程前は、胃カメラの太い管を口から入れる時代でしたが、今は喉に当たらず吸い込むだけで楽に安全に検査出来、しかも高画質です。大腸検査も、昔はお腹に約2mの管を入れていたので激痛がある上、管で腸に傷が付き、命に関わる事故もしばしば起きていましたが、今は内視鏡が腸の壁に当たると自動的に曲がる機器をオリンパスや富士フイルムが開発しました。他にも無送気軸保持短縮法等の技術開発により、大腸の内視鏡検査も安全に出来ます。
最後に残された課題が、検査の質をどう高めるかです。胃癌は、周りが炎症に囲まれていて 突起も無く、判別がとても難しい癌です。早期胃癌の見逃しは2割、人によっては4割と言います。胃癌・食道癌はどんなに最新の治療をしても5年生存率30〜50%であるため、胃癌・食道癌の早期発見は、患者の命を救う事に直結すると考えて、胃癌・食道癌に特化してAIを開発しました。
AIの画像認識能力は、人間の脳の構造をAI内に再現した「ディープラーニング(深層学習)」が12年に登場した事でぐんぐん上がりました。それ以前、AIの画像認識能力は約25%間違いが有りましたが、15年には数%になり、人間を超えたと言えます。私はAIによる画像診断技術を使えば内視鏡医療の発展に貢献出来ると考え、17年に「AIメディカルサービス」を創業、研究を始めました。当時はAI医療機器について前例が有りませんでしたが、現在は多くの研究開発、論文発表が有り、21年からはAI医療機器の医療現場への社会実装が始まるフェーズになりました。実際に使った事がある医療従事者は1〜2割ですが、今後は市場規模約11兆円の産業になり、医療をより良く変えて行くでしょう。
■歴史に残る論文を多数報告
世界最高峰の医学雑誌『Gut』によると、胃癌検出AIと食道癌検出AIに関する論文の半分、40本以上を私達のグループが出していますので、いくつか紹介します。
先ず、18年に出した世界初の胃癌検出AI開発に関する論文で世界的に有名になりました。分かりにくい早期胃癌をAIが92%、6mm以上の癌に限ると98%の感度で検出します。食道癌の鑑別AIは、98%の感度で検出します。その後、AIは画像1枚当たり0.02秒と診断のスピードがものすごく速いという特性を生かし、静止画ではなく動画でもAIが使用出来る事を世界で初めて報告しました。
医者が内視鏡検査する時にAIが動画上で一緒に癌を探してくれます。正診率は94%で、10年以上のトレーニングを積んだ専門医でも難しい胃癌を瞬時に見つけます。胃癌鑑別AIの検出感度は、有位差を持って専門医を上回る事も証明しました。
AIが何を基準に判断しているのか見えないという指摘がよく有りますが、ヒートマップにしてある程度可視化することが出来たという論文も発表しました。内視鏡医と同じく、表面の粘膜の変化に注目して癌と診断している事を報告しています。東京大学の永尾清香先生と一緒に行った研究では、AIが「胃癌深達度」を鑑別する事を証明しました。胃癌は、粘膜筋層まで深く進行しているSM2以深だと胃切除の手術をしないと完治出来ませんが、粘膜の浅い所にあるM-SM1で見つければ内視鏡で病変を切り取るだけで治ります。この論文により、AIが治療方針の診断を支援出来る可能性を示しました。
更に、AIは小さな窪み等に反応して、癌だと誤認定してしまう率が人間より高いとよく言われますが、内視鏡医とAIが一緒に動画を見て検査すれば、特異度は落ちません。将来的には、内視鏡の手術をする時に、どの範囲まで癌を切り取ればいいかといった範囲診断もAIで可能になると考えています。
内視鏡発祥の地である日本はレベルがとても高く、質・量共に世界最高水準のデータが国内にあった事が、歴史に残る論文を多く出せた理由として大きいです。
■内視鏡AIを世界へ
私たちの開発品は、汎用コンピューターで利用出来ます。専門のハードウェアを作る必要が無いので低コストな上、ベンダーフリーなので内視鏡メーカーに関わりなく使えます。内視鏡検査中、胃癌の鑑別が難しい時にボタンを押してAIを呼び出すと、癌の場所を癌疑いの確信度と共に表示します。がん研有明病院と東京大学医学部附属病院のデータを中心に作っているので、日本のトップレベル専門医とほぼ同等の能力を持ったAIが一緒に癌を探して鑑別してくれます。AIが勝手に診断すると言うよりは、医師がAIと答え合わせをしながら検査する形です。そう遠くない未来、「医者がAI無しで検査するのは信じられない」という世界に変わって行くと思います。
>>> 詳細はこちら
LEAVE A REPLY