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第158回 政界サーチ 岸田政権2022 改憲は据え膳?

第158回 政界サーチ 岸田政権2022 改憲は据え膳?

2022年を迎えた。干支は壬寅(みずのえとら)である。易学では、厳しい冬を越えた後の芽吹きを意味し、新しい成長の礎のイメージだそうだ。アフターコロナの時代を示唆する様で興味深い。

 プロ野球の阪神ファンに限らず、日本人の多くは勇猛で威厳の有る虎に畏怖と好意を抱いて来た。神獣「白虎」から昭和世代が熱狂した『タイガーマスク』、子供アニメの『しましまとらのしまじろう』、国民的な映画『男はつらいよ』の主人公だって「寅さん」である。

 政界にも虎好きは多い。印象に残っているのは女性で初めて衆院議長になった土井たか子・社会民主党第2代党首(故人)だ。政務の合間を縫って上野動物園に虎を見に行き、周囲には「虎を見ると勇気が沸く」と話していた。ちなみに本人は辰年生まれ。竜虎を意識していたのかも知れない。

 土井氏は筋金入りの護憲派だった。自民党内で土井氏らの主張に一定の理解を示し、安易な改憲の動きに歯止めを掛けていた中心が、名門派閥「宏池会」だった。今の岸田派である。ところが、第2次岸田文雄政権発足後、この流れに変化が見え始めている。岸田首相が記者会見で「自民党総裁としては憲法改正が重要な課題。茂木敏充幹事長に党是である憲法改正を進める為、党内の体制を強化すると共に国民的議論の更なる喚起と国会における精力的な議論を指示した」と明言したからだ。

 リベラル派の岸田首相は急進的な改憲派の安倍晋三元首相らとは基本思想が異なる。党内では「本来、岸田さんは改憲に慎重な筈だ」「党内右派や改憲に前向きな日本維新の会の支持取り付けを狙ったリップサービスだろう」等、発言の真意を巡る発言が相次いだ。

 自民党幹部は「自民党の党是なんだから、総裁として当たり前の事を言っただけだろう」と前置きしてから、解説を始めた。

 「あれだよ、選挙結果。日本維新の会が大勝した結果、衆院での改憲勢力は4分の3を超え、過去最大になったんだ。岸田首相は初の憲法改正を実現する大チャンスに恵まれたんだな。これで何のアクションも起こさなければ信用を失う。すんなり行くとは思っていないだろうが、据え膳状態なんだから、毒味が終われば食べますよ、という事だろう」

 自民党幹部の言う改憲勢力には与党の公明党も含まれている。改憲に慎重な支持母体・創価学会の意向は無視出来ないのだから、「据え膳状態」は言い過ぎだろう。ただ、各種の世論調査で改憲に前向きな国民は徐々に増えている。党内の改憲推進派は「改憲に慎重な宏池会出身の首相が音頭を取る事でタカ派イメージが薄らぎ、議論が進むのではないか」と期待を膨らませている。

 自民党が提起している憲法9条への自衛隊明記は難しいにしても、環境問題や地方分権等9条以外での合意が実現する可能性は高いと見る向きは案外多い。もちろん、リスクも伴う。岸田首相は平和維持に関心の高い広島の出身であり、安倍元首相らのタカ派路線からの転換がそのレーゾンデートル(存在理由)になっているからだ。改憲が実現すれば、政権のレガシーになるだろうが、改憲色が強まれば支持層の離反を招く事だって有り得るのだ。

 「虎穴に入らずんば虎児を得ず、と言うじゃない。まあ、やって損は無いとの判断だろうね。維新の会をくっ付けて置く接着剤にもなるしね」。自民党幹部はそう見ている。

 ハトに少しタカ色もにじませた岸田政権の最大の課題は7月の参院選だ。衆院選に野党共闘で臨んだ立憲民主党が数を減らした事で、与党内では「勝って当然」との楽観論が支配的だが、原油価格の高騰がじわじわと国民生活を圧迫し始めている。コロナ禍からの復興も含め、経済政策の舵取りを間違えれば、暗転だって有り得る状況だ。

気になるバイデン政権の不人気

米国通を自認する自民党の中堅議員は米国のバイデン政権の動向が気になると言う。

 「新時代にふさわしいインフラを整え、雇用を確保し、教育や福祉にも目配せするという理想的な政策を示しながら、なかなか国民の支持を得られない。岸田首相はバイデン大統領と違って分配重視のトーンを弱めたけれど、民主主義は難しいよね」

 バイデン大統領は数百兆円もの巨額の財政支出による国家の大転換を目指しているが、インフレと原油価格の高騰に見舞われ、支持率の低迷が続いている。今年11月の米議会・中間選挙も現状では敗色が濃いとされ、政権運営に黄信号が灯っていると伝えられる。

 支持率低迷は米軍のアフガニスタン撤退に伴う混乱に起因しているとされる。紛争地での立ち回りの巧拙に手厳しい評価が下るのは米国の伝統だ。矛先を変えようと、アジアでは台湾情勢を巡って、中国を牽制する動きを先鋭化させている。

 先の自民党中堅議員が語る。

 「NHKで台湾軍が主力戦闘機F16Vのお披露目に米国代表が参加したと言うニュースを扱ったのには驚いたね。保守系メディアでは人権問題を理由に米国が北京五輪への外交使節団を派遣しないとも報じられた。昨年秋から台湾関連のニュースの頻度が上がっている」

 戦闘機前のツーショットに中国外務省は「米国と台湾の間のいかなる公的な連携にも反対する」と反発したが、バイデン大統領はオンライン形式で12月に開いた「民主主義サミット」に台湾を招き、「専制主義」と批判する中国、ロシアを除外した。台湾は蔡英文総統ではなく、唐鳳(オードリー・タン)デジタル担当相らを出席させ、緊張緩和に努めた。

 バイデン政権は中国、ロシアを念頭に「民主主義と専制主義の闘いに勝利する」事を外交方針に掲げている。岸田首相が通常国会への提出を目指す「経済安全保障推進法案(仮称)」も先端技術で存在感を高める中国を意識した内容だ。「サプライチェーン(供給網)」「基幹インフラ」「技術基盤」「特許非公開」の4分野が柱になる。半導体等産業に欠かせない戦略物資の供給網を確保する為、補助金を支給する一方、技術情報の流出を防ぐ為特許を非公開とする制度も始める方針だ。バイデン政権との歩調合わせである事は言う迄も無い。

3外相体制でドラゴンと向き合う

 「安全保障」という言葉はかつては防衛力の整備が中心だったが、2022年以降は岸田政権の目玉政策の1つである経済安保推進法案によって、「経済」と不可分な言葉として再認識される事になりそうだ。

 自民党長老が妙な例え話をした。

 「中国はドラゴン、米国はワシ。日本は何だ。ツルか。岸田さんは酉年だな。今、鳥の仲間という事で、米国と組んでいる。でも、ドラゴンも空は飛ぶよな」

 中国の習近平・総書記(国家主席)は今年11月の共産党大会で異例の3期目入りを目指す。文化面にまで及ぶ厳しい統制下にあるのはその為だ。一息ついた、自民党長老はこう付け加えた。

 「岸田首相と茂木幹事長のツートップが外相経験者というのは珍しい。林芳正外相と合わせ3人外相がいるようなもんだ。政府、党の両面でこれまでに無い外交力を示して欲しいね。来年の共産党大会に向けて、頑なになり、ハリネズミの様に尖った中国とどう向き合うか。それで、力量が試される事になる」

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