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大企業が栄える一方、弱体化し続ける日本経済

大企業が栄える一方、弱体化し続ける日本経済
低成長の原因、『低賃金と円安』を望んだのは誰なのか

日本総研は11月、国際通貨基金(IMF)や各国の統計を基にした、「世界の実質GDP成長率見通し」(同月発表の『グローバル経済と主要産業の動向(2021年度下期):世界経済』内収録)を公表した。

 それによると、相変わらず日本経済のパフォーマンスの低下が顕著だ。コロナ禍が猛威を振るい始めた19年はまだマイナス成長を免れており、先進国の平均成長率は1・8%。米国は2・3%でユーロ圏は1・6%、中国は6・0%だったが、日本は0・0%という低さ。

 翌20年は中国の2・3%、台湾の3・1%を除きほぼ先進国、新興国共マイナス成長だったが、21年(予測値)は先進国平均が5・1%に回復するものの、日本は2・0%に沈む。米国の5・6%、ユーロ圏の5・1%、中国の8・0%と比べて差を付けられ、韓国の3・9%、台湾の5・8%にも及ばない。

 以前から各国と比較してのこうした低成長率は、1990年代半ば以降日本経済に定着した感がある。おそらくこの傾向は今後、変わる可能性が乏しい。問題はそうした将来性の暗さ自体よりも、原因について共通認識が確立されていない点にある。

 この原因は、明らかに①GDPの6割以上を占める民間消費を冷やし続けている低賃金構造と、②意図的な円安政策の2つを挙げるべきだろう。①と②は相互に関連しており、しかも「政治資金」という名の賄賂で政権与党を操っている財界が生み出したという事実がある。

雇用者全体の4割近くが非正規労働

 このうち①は、言うまでもなく非正規労働の割合増加を指す。独立行政法人労働政策研究・研 ↖

修機構が発表した「ユースフル労働統計2019」によると、生涯賃金で男性の非正規雇用者は正社員と比較すると実に1億1000万もの格差が生まれ、女性では1億円となる。

労働者の非正規化が生んだ内需の縮小

 総務省統計局が21年2月に発表した前年度の労働力調査によると、20年における非正規社員は2090万人。雇用者全体の、37・2%を占める。この比率は今後更に上がるだろうが、同調査によると第2次安倍晋三政権が発足した13年1月から20年1月までの間に正規雇用者は173万人増加したが、非正規雇用者はその約2倍の322万人に達した。つまり構造的に4割近い低賃金雇用者がビルトインされており、これでは内需が高まる筈が無い。

 その根源をさかのぼると、1995年に当時の日経連(現日本経団連)が発表した『新時代の「日本的経営」』なる文書に辿り着く。そこでは、雇用者を長期蓄積能力活用型(管理職)と高度専門能力活用型(技能者)、雇用柔軟型(単純労働者)の3つのカテゴリーに分け、うち3割を占める前者を正規とし、残った2者は非正規で良い、と結論付けた。

 これに応じて自民党政権は非正規雇用者の増大を加速化。99年には、労働基準法で禁じられている中間搾取に当たるとしてそれまで制限されていた派遣労働が原則自由化され、2003年には製造業まで解禁された。更に15年には、派遣の受け入れ可能期間が事実上撤廃され「常用雇用の代替とはしない」との労働者派遣法(85年成立)の原則も消えた。

 その結果、派遣社員を中心とした非正規雇用者が一気に増加し、年収400万円以下の層が全給与所得者の約60%を占めるという今日の格差と貧困が常態化する社会になった。そして国際的にも、日本の国民は豊かさから遠ざかっている。

 38の国々が加盟する経済協力開発機構(OECD)のデータを集計すると、97年の実質賃金指数を100とするとスウェーデンは138・4、オーストラリアは131・8、フランス126・4、ドイツ116・3、米国115・3という伸び。ところが日本だけが唯一、89・7と下がっている。非正規化の拡大が生んだ賃下げにより内需が上向く筈もないから、GDPの伸びも他国より下回った。

財界が強く要望した円安の固定化

更に財界が、もう1つ政府に実行させたのが前述②の円安への誘導だった。

 20年8月25日付のロイター通信配信記事によると、日銀の元理事の早川英男は、「過去最長政権となった安倍晋三首相の経済政策『アベノミクス』について、要は円安で株価を上げる政策だったと総括した」と言う。その円安は、言うまでも無く日銀が民間銀行等から大量に国債を購入し、マネタリーベースを2年間で2倍に増やして通貨の価値を下げる「異次元の金融緩和」によって誘導され、結果として「アベノミクス」前の1ドル=80円程度の円高は是正された。

 円安は輸出にも有利に作用し、日経平均株価が上昇したが、背後には金融メディアライターの竹中英生が指摘するように「日本円の為替レートが長期間にわたって事実上円安に固定されてきたのは、経済界からの強い強い要望があったためです」(インターネットサイトmymoの「先進国の中でも低賃金の日本、円安が続いている驚愕のワケとは?」より)という事情があった。

 だが、財界が望む円安に誘導出来たとしても、国内で賃金が上がってしまえば元も子も無い。賃金抑制政策とセットで初めて円安は好ましいものとなる。つまり非正規雇用者が4割近くを占めるような労働市場は、円安を政府に実現させたい財界にとってどうしても欠かせない政策だった。こうした一連の財界の要求こそが、未だ脱却先が見えない「失われた空白の20年」ではなく「30年」をもたらした根源に他ならない。

 同時に、日本経済は更にいびつな様相を呈している。前号でも述べたように、財務省が9月1日に発表した法人企業統計によると、資本金10億円以上の大企業(金融業・保険業を含む)の内部留保は20年度に300・7兆円に膨れ上がり、過去最高額を更新。だが、同年度の勤労者1人当たりの賃金は前年より1・5%の減となり、いくら大企業が膨大な利益を上げようが、賃上げと設備投資に還元される事は無い。

もう「豊か」ではなくなってしまった日本

 一握りの大企業のトップだけで構成される財界にとって、12年以降増大し続ける内部留保は心地良い成果だろうが、それは勤労者の犠牲のみならず、長期的には日本経済総体の衰退という代償を伴う事を自覚すべきだろう。しかも大企業が金融緩和‐円安‐輸出増‐株高という安易な手法に安住した事で、ITを始めとした新たな技術革新を怠り、成長産業も生み出せない先進諸国内からの落伍者になった。

 今や実質実効レートで見れば、現在の円の水準は実に1973年の変動相場制移行以前の1ドル=360円時代とほぼ等しい。20年の一人当たりの購買力平価GDP(米ドル)も世界33位で、1995年の19位から大幅に後退し、もう決して豊かさを誇れなくなっている。もし財界が円高も賃上げも小細工を弄せずに受容したら、強い日本経済が維持出来たのは疑いない。大企業栄えて国滅びるといった現在の構造に、根本的なメスが入るのは何時なのか。

『グローバル経済と主要産業の動向(2021年度下期)』より

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