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未来の会

第10回「精神医療ダークサイド」最新事情 最後の砦に即誘導するヤブ医者達

第10回「精神医療ダークサイド」最新事情 最後の砦に即誘導するヤブ医者達
クロザリルの安易な使用に疑問噴出

 この連載で以前にも紹介したが、私が関わるKP神奈川精神医療人権センターでは、平日午後1時から4時まで、精神医療に関する悩みを聞く相談電話を開設している。県内のみならず全国からSОSが相次ぎ、相談者数は開設1年半で200人を超えた。

 「主治医が話を聞いてくれない。よい医者を紹介して欲しい」「病院でスマホを取り上げられ、公衆電話も制限されている。テレホンカードを送って欲しい」「不当な身体拘束を受けた。病院を訴えたいので弁護士を紹介して欲しい」などなど、訴えは多岐にわたるが、最も目立つのは薬に関する悩みだ。特に最近は、抗精神病薬「クロザリル」(クロザピン)についての相談が目立つ。

 クロザリルは、「治療抵抗性」統合失調症の治療薬として、世界中で使われている。副作用として無顆粒球症などのリスクがあるため、日本では認可が遅れていたが、2009年に薬価収載された。ただし、一定の基準を満たした精神科医と医療機関でなければ使えない。副作用を早期発見するため、クロザリル患者モニタリングサービス(CPМS)への登録と、定期的な血液検査が義務付けられている。

 このように、クロザリルの処方には制限がある。だからこそ適正に使われているはずなのだが、患者や家族はなぜ不信感を募らせているのだろうか。KPに寄せられた相談の一例を、プライバシーに関わる部分などを変えて紹介する。

 相談者は、西日本に住む30代の男性Оさんの母親。仕事柄、医療に詳しいこともあり、担当医への疑問が抑えられなくなってKPに連絡をくれた。

 「医師が『最後の砦です』と言って、執拗にクロザリルを勧めてきます。でも、それ以前にできることがあるはずです」

 Оさんは20代で統合失調症と診断された。昨年、身内の不幸やコロナ禍の影響で不安定になり、入院。すると病院の若い医師が、薬の変更を短期間で繰り返し、病状がますます悪化した。

 悪化の原因は、不適切な投薬のせいだと母親は思ったが、この医師は「もうクロザリルしかない。嫌なら他の患者を優先する」と繰り返した。

 薬についてのこの種の相談は、ベテランソーシャルワーカー広瀬隆士さんが主に対応している。Оさんのケースでは、経験豊富な精神科医を紹介。すると、クロザリルを使うまでもなく症状が落ち着いた。

 広瀬さんは「おかしな投薬で症状を悪化させ、打つ手がなくなると『治療抵抗性』と決めつけて、安易にクロザリルを勧める若い医師が目立つ。クロザリルの使用実績を増やしたいとか、何らかの思惑もあるのかもしれない」と指摘する。

 クロザリルへの安易な誘導を嘆く声は、ベテラン精神科医からも上がっている。東京都立松沢病院名誉院長の齋藤正彦さんは、今年10月の講演会

)みんなねっと東京大会(で「難治だからクロザリルを使いましょうと、安易に言う医師がいる。『バカ言ってんじゃない』という話ですよ。クロザリルを使ったら、2週間に1遍、血液検査で病院に来なければならない。それは患者さんに一生、大きな社会的制約を加えるということ。そういうことに(若い医師たちが)憚りがないのは大変困った事態だ」と語気を強めた。

 経験不足のヤブ医者達が「治療抵抗性」を作り出し、クロザリルに誘導する。こんな事では、精神医療に対する患者や家族の不信は強まるばかりだ。

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