厚労相も驚く医療法人錦秀会の収入源
東京地検特捜部は10月7日、日本大学の井ノ口忠男理事と大阪の医療法人錦秀会の藪本雅巳理事長を、日本大学医学部附属板橋病院の建設工事に絡む背任容疑で逮捕。27日には同院の医療機器購入を巡る背任容疑で再逮捕した。今後、東京地検特捜部はどこまで踏み込めるのか。政官界には落ち着かない日々を送る面々がいる。
今春、コロナウイルス感染症拡大が続く中、日本大学は東京地検特捜部の動きを察知したのか、田中英壽理事長側近が大学幹部らに、雑談の時でも日本大学内部の不祥事話は一切しないよう指示していた。
事件後、東京地検の関係者は、文部科学省の日本大学への監査・指導の甘さに驚くと同時に、日本大学が文科省の中で特別な存在になっている事を知ったと言う。田中理事長側近だったと言う元理事は「田中理事長が文科省に呼び出された時、型通りの謝罪が済んだ後に文科省の幹部を恫喝した事件がありました。それ以降、文科省は恐れをなしてしまった」と話す。不祥事が続いた後でも90億円を超える補助金は支給され続けた。恫喝の効果だけではない何らかの忖度があったと考えるのが普通だ。同じ事が厚労省にも言える。医療法人に対する厚労省の指導監査の厳しさは時に自殺者を生み、一時は大問題にもなった。その「泣く子も黙る」指導監査が錦秀会では見られない。
日本大学事業部「理事長付相談役」という仕事
2010年春、日本大学に激震が走った。日本大学内部の重要データが漏洩した事件だ。この時、大学教職員の名簿や家族情報、職員の愛人情報や全裸女性の写真まで流失し、田中理事長ら幹部は謝罪会見をしている。
14年8月初旬の朝、市ヶ谷の日本大学本部に黒いスーツを着た複数の職員が突然入り込んだ。東京国税局の調査だ。国税の調査員らは本部や日本大学事業部、文科省からの補助金を扱う部署にも立ち入った。日大では文科省からの補助金の使途について議論する事は御法度となっている。この2つが今回の事件のベースにある。
この当時の井ノ口容疑者の上司は、危険タックルで問題となったアメリカンフットボール部元監督の内田正人氏だ。2人は日本大学事業部「理事長付相談役」の名刺を使用し、これまでは日本大学の各学部が窓口となっていた購買業務を日本大学事業部に移管させた。医学部の医療機器等、高額な購入物も井ノ口容疑者の一存で行われ、大学の建設工事の業者決定も日本大学事業部が担うまでになった。各学部長から顰蹙を買ったものの、田中理事長夫人に溺愛されていた井ノ口容疑者の実姉・橋森稔子(仮名・広告代理店エルフ・エージェンシー代表)と共に「これは田中理事長の意向です」の一言で一蹴した。この日本大学事業部設立は田中理事長就任直後に田中氏自身が考案したもので、一括購入による集金ビジネスの会社だ。井ノ口容疑者が話をする時にはアメリカンフットボール部卒の社員全員が直立不動で聞く超体育会系の会社だ。来客時には、何の関係もない複数の社員が応接室の壁際に整列し、井ノ口容疑者の話す内容に大きく首を振り続ける。この異様な光景は井ノ口容疑者の相手を威圧する。
今回の資金不正事件には前例がある。神田駿河台日大病院の新病院建設工事だ。井ノ口容疑者はこの時も業者との癒着があり、巨額の不当な利益を得たとして税務署より調査を受けた。しかし、事件には至らなかった。この時、井ノ口容疑者は「これは行ける」と踏んだに違いない。せっせと「ちゃんこ屋」に 足を運んでいたスーパーゼネコンの副社長クラスも今回の東京地検特捜部の事情聴取に肝を冷やしているに違いない。
日本一のタニマチに駆け上がった財源は?
8月6日の朝8時、東京地検特捜部は藪本容疑者を医療法人錦秀会内のある場所に呼び出し、一緒に錦秀会本部に移動。藪本容疑者のパソコンや携帯電話を任意提出させた。以降、藪本容疑者は病院幹部と一切連絡が取れない状況に陥った。
今回の錦秀会の対応は危機管理から見て最悪だった。弁護士らが危機管理を徹底していれば、藪本容疑者の逮捕は無かったのではないか。確かに藪本容疑者は事件の舞台となったコンサルティング会社(株式会社インテリジェンス)の1人株主だが、弊誌の得ていた情報では事件の詳細を把握していたとは到底思えない。弊誌の取材に回答はないが、インテリジェンス社の代表堀内敏幸(仮名)は、井ノ口・藪本両容疑者の橋渡し役で実務責任者である。堀内の前職は日本航空の関連旅行会社で、藪本容疑者の海外旅行の担当者だ。藪本容疑者が元タカラジェンヌの愛人と行くモナコのF1レース観戦やヨーロッパの美術館巡り等一度に1千万円を優に超える豪遊を担当し、評価を得た。そして、コンサル会社代表や錦秀会MS法人の幹部に抜擢された。この元タカラジェンヌご自慢のブログには豪遊時の写真が掲載されていたが、逮捕後には全てが削除された。因みに、藪本容疑者と井ノ口容疑者は同じマンションにそれぞれの愛人を住まわせており、逮捕当日は、そのマンションから東京地検特捜部へ移送された。
錦秀会に危機管理能力が無かった為に、藪本容疑者と政官界幹部との会食情報が漏洩したが、そこには厚労省幹部十数名の名前と接待金額の記載があり、支払金額は一晩で300万円を超えていたという。「クラブのホステスに泣きつかれると一晩で1千万円の派手な散財をする事も度々でした」と錦秀会幹部は言う。藪本容疑者の豪遊は大阪・北新地や銀座でも広く知られており、「あるホステスの誕生日に藪本がエルメスのケリーバッグをプレゼントしたが、テーブルにあった誕生日ケーキをバッグの中に突っ込んで渡され、ホステスは泣いていた。彼はこの10年で人間が変わった」と飲み仲間の会社社長は藪本容疑者の異常な行動について語っている。藪本容疑者はクルマも大好きで「ル・マン24時間レースで優勝経験のあるドライバーに1億円を超える援助をする最高のタニマチだった」ともいう。
政治家や高級官僚への接待攻勢
事件後、厚労省の幹部は「藪本容疑者が安倍総理の名前を出すので行かざるを得なかった。藪本容疑者が首相官邸に出入りするのは『首相の動向記事』に自分の名前を出して、自分の権威を高めるためだった」と話す。大阪の某医療法人院長も「彼はこっちが頼んでもいないのに、いつも安倍総理に会わせてやると言って自慢していた」と話す。総理の名前も安くなったものだ。
特捜部は藪本容疑者の無尽蔵とも言える資金がどのようにして得られたのかを調べている。決算報告書にある売上は通常の医療では到底説明が出来ないからだ。この答えのヒントになりそうな話が過去にあった。数年前に錦秀会を退職した職員が錦秀会の特殊なカラクリと驚愕の手法を説明している。「毎朝、大型バス数台が病院を出て、四国方面や神戸・岡山方面へ向かい、路上生活者や生活保護者を拾い集め、そのまま入院させる。健康状態の良い人なんて1人もいない。手術が必要な人にはどんどん手術をする。これは錦秀会だけでなく関東の医療法人明電会(仮名)でもやっている。『西の錦秀会・東の明電会』と呼ばれ、同じように病床を増やし続けている」と。事件後に錦秀会に取材をすると「それは私の入る前の話かも知れません。ノーコメントとしか言えない」と電話は切られた。
厚労省や文科省の指導監査を豪遊という接待攻勢で封じ込めていたとなれば、立派な贈収賄となる。特捜部の捜査を息を潜めて見守る面々に心安らぐ日は来るのだろうか? 東京地検特捜部の捜査はこれからだ。(続)
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