SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

これからを見据えた「自由診療」と言う選択肢

これからを見据えた「自由診療」と言う選択肢
社会情勢や変化に応じた 経営スタイルのギアチェンジ

最近の病院の懐事情は過去に比べて思わしくないようだ。税金は上がり、賃金は下がり、高齢化が進むにつれて社会医療費は益々圧迫され、保険点数は上がらない。日本の医療の将来に希望を持てない為か、初期研修後に高額賃金を望める美容整形外科に進む医師や、20代、30代の若いうちにお金を大量に稼いでFIRE(F i n a n c i a l  I n d e p e n d e n c e,  R e t i r e  E a r l y<経済的自立と早期リタイア>)を目指す人も医療業界に増えている。

 コロナ禍で病院を利用する患者数が減り、今年の閉院数は過去最高となりそうだ。現在、人口は減少の一途を辿り、少子化も歯止めが利かない。全体の医療費負担の大半を占める高齢者の人口もそろそろ減少傾向に突入してしまう。

 若い医師の考え方や世の中が変われば、それに合わせて病院も変わっていかねばならない。減少が予想される患者数に対してコストカットや人員削減、数年後の売却を視野に入れるのも良いだろう。しかし競争に打ち勝って今後も病院を存続させたいのであれば、自由診療についても考えて見てはどうだろうか。

 知っての通り自由診療とは公的医療保険の対象にならない診療の事である。公的医療保険の対象であれば被保険者の医療費は最高でも3割負担に抑えられ、高額な医療費であれば更に還付が受けられる。

 しかし自由診療の医療費は全額患者の自己負担となり、治療代には上限がなく値段は医療機関側が決定出来る。

遺伝子検査や健康診断、美容、ED治療まで

 日本でも所得格差が拡大しており、健康や美容に大金を払えるのは一部の人に限られてくるが、自由診療について高額なものから手軽なものまでいくつかご紹介したいと思う。

 まずは癌遺伝子パネル検査だ。ご存知の通り悪性腫瘍は遺伝子の突然変異で起こり、特定の悪性腫瘍は持って生まれた遺伝子によって罹患する可能性が高まる。治療の効果についても遺伝子が大きく関与する事はこれまでも研究され、検査されてきたが、従来の技術では解き明かせない事も多々あった。しかし次世代シークエンサーという機械を用いた遺伝子パネル検査では100以上の遺伝子を同時に調べる事が出来、今までよりも適切な治療薬と術後のフォローを選択出来る可能性が高まっている。自由診療と言うと怪しいイメージを持つ方も多いかと思うが、癌遺伝子パネル検査は大学病院等でも行われており、一部保険が利く事もある。検査代が数十万と高額で、場合によってはそれほど有益な情報が得られない事もあるが、悪性腫瘍の治療にとって力になる選択肢の1つとなり得るはずだ。

 健康診断も自由診療の1つである。健康診断には、スタンダードな検査(身長、体重、腹囲、視力、聴力、胸部エックス線、血圧、血液、尿、身体診察等)の他、患者のニーズに合わせた様々な種類の検査(内視鏡、腫瘍マーカー、骨塩定量検査、子宮癌検診、腹部、甲状腺エコー、ヘリコバクター・ピロリ検査、脳MRI、動脈硬化精密検査、感染症に対する抗体価等)がある。最近は人間ドッグや検診の食べログのようなランキングサイトもで出来ており、病院の競争は苛烈だ。検診は多くの病院で実施出来、患者のニーズを把握して普段から検診を勧めていれば早期発見、早期治療も可能になる。増大する社会保障費を抑え、患者のためにもなる。病院の懐も潤うなら言う事がない。

 今一番流行っている自由診療は、やはり新型コロナウイルス感染症の検査だろう。誰もがコロナウイルスへの感染に不安を抱いており、海外出張等はPCR検査が必須となっている事もあり、大都市ではコロナ検査センターがあちこちにタケノコのように出現している。検査の種類もコロナウイルスのDNA、RNAを専用の薬液を用いて増幅させ検出させるPCR検査、抗体を用いてコロナウイルスが持つ特有の抗原を検出する抗原検査、過去の感染による抗体が今現在体内に残っているかを調べる抗体検査等何種類かある。一度人々の心に根付いた恐怖心は簡単には消えない。検査の需要はこれからもしばらくは続くものと思われる。

 ここまで一般病院で行う事の出来る診療をご紹介したが、自由診療と言えばやはり美容だ。特に最近の流行りはアートメイクだ。アートメイクとは専用の機械を使用して皮膚の表皮部分に着色していく落ちないメイクである。眉やリップ、アイライン等に事前に着色しておくことで毎朝のルーティンも必要なくなる。化粧が上手くいかなかったり眉を書き損じてしまった等の失敗も減る。刺青は真皮に入れるので一生残ってしまうが、アートメイクは表皮層なので1〜2年もすればまたその時の流行りに合わせて色やデザインを作り直す事が出来るし、レーザー等で除去する事も可能だ。値段は1カ所数万円だが化粧品代や化粧に費やす時間を考慮すると十分元は取れる筈だ。美的デザインに自信があれば参入するも良し、自身が施術され節約した時間で他の事をするも良い。

 最近は美容外科の待合室に男性の姿も見掛けるが、まだ女性の利用者の方が圧倒的に多い。しかし男性が美容や自由診療に興味が無い訳では無い。むしろ髪の毛やED治療など男性向けの自由診療のニーズは高まっている。近年ではフィナステリド(商品名プロペシア)によって多くの男性の髪の毛の悩みが解決されている。2016年には新たにデュタステリド(商品名ザガーロ)も発売され、それらの薬を求める人が後を絶たず、新しくAGA(A n d r o g e n e t i c  A l o p e c i a<男性型脱毛症>)専門の病院も増えている。ED治療薬の中心はシルデナフィル(商品名バイアグラ)、バルデナフィル(商品名レビトラ)。ICI療法(陰茎海綿体注射)も歴史は古く効果も高いが、やはり局部への注射は近寄りがたく、特別な理由がなければ内服薬の方が手軽でニーズが高い。そしてこれらの薬を必要としている男性は、他人に知られたくはないだろう。オンライン診療や一般外来でこっそり治療薬を手に入れることを望んでいる。その為、どのタイプの病院でも参入しやすく、障壁はかなり低いと思われる。

歯科・皮膚科・整形外科で注目のPRP治療

医療の細分化が進んでおり、それぞれの専門領域には特有の自由診療が存在する。歯科、皮膚科や整形外科領域で最近よく行われているのがPRP(多血小板血漿)治療だ。これは、患者自身の血液に含まれる血小板等の血球成分を利用して、ケガや病気で傷付いた組織等の治癒を目指す再生医療である。この治療法では患者自身の血液を採取し、遠心分離によって血小板を多く含むPRPを抽出してそのまま患部に注射する。血小板には体の傷んだ組織を修復する成長因子という成分があり、これが放出され幹部に働いて自分の力で組織を修復させる。使用出来る疾患としては歯科用のインプラントや骨の再生、火傷治療、創傷治療、皮膚の美容、変形膝関節症やスポーツ外傷等がある。既に20年以上の治療の歴史があり、自分由来の成分で治療を行う為、安全性も比較的高い。欧米では実用化されている為、日本でも保険適応になる日は近いかもしれない。

 治療の進歩は凄まじく、政府の認可が間に合っていない面も多々ある。社会保障費は膨れ上がっており、政府の本音としては高額な検査や治療は保険適応の対象にはしたくないだろう。医学が進むにつれて新たな自由診療が登場し、今後はそれが治療方法の有力な選択肢になるかも知れない。医師が時代遅れにならない為にも保険診療の知識だけでなく、自由診療の知識もインプットしていく事が大切である。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top