医療機関こそ取り組むべきゴール「すべての人に健康と福祉を」
2015年9月の国連サミットでSDGsが採択されて6年が経過した。うち2年はコロナ禍にあったが、日本でも企業を中心にSDGsを唱える組織が増え、取り組みが加速している。
SDGsは、「Sustainable Development Goals」の略称で、「持続可能な開発目標」と訳される。国連加盟193カ国の首脳が一堂に会したサミットの席上、全会一致で可決された。国連加盟193カ国の首脳が一堂に会したサミットの席上、全会一致で可決された。国連は00〜15年の目標として、「ミレニアム開発目標(MDGs)」を掲げており、SDGsはその後継と位置付けられる。MDGsでは、極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の完全普及の達成等8つの目標が挙げられていた。続くSDGsは、30年までの次の15年に向けて、開発途上国のみならず先進国も含めた全ての国を対象に、より野心的で包括的な目標が掲げられた。
持続可能な開発の為に道標になる17のゴールは、以下の通りである。
①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべて の人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に、⑦エネルギーをみんなに そしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤をつくろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられるまちづくりを、⑫つくる責任 つかう責任、⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさも守ろう、⑯平和と公正をすべての人に、⑰パートナーシップで目標を達成しよう
各ゴールに向けて、具体的に169のターゲットが掲げられている。20年からは「行動の10年」と位置付けられる。教育現場では20年度に小学校、21年度に中学校、22年度には高等学校の学習指導要領にSDGsの考え方が盛り込まれる。
一般企業におけるSDGsへの意識
一般企業においては、SDGsはもはや避けては通れない。一般社団法人日本能率協会が21年7〜8月に企業経営者を対象に実施した調査(回答517社)では、SDGsを「知っている」と「ある程度、知っている」と回答した経営者は合わせて92.9%で、9割を超えた。
従業員規模別では、大企業で97.5%、中堅企業で93.8%、中小企業も86.8%で、規模が大きい企業程認知度は高いが、中小企業でも前年に比べ10ポイント以上増えた。
次にSDGsに関わる活動への取り組み状況では、「具体的な目標を設定して取り組んでいる」が30.4%、「具体的な目標の設定はしていないが、SDGsに沿った活動を行っている」が44.1%で、両者を合わせると、回答企業の4分の3 近くがSDGsに取り組んでおり、前年より10ポイント以上増加した。
規模別では、SDGsに取り組んでいる割合は、大企業(従業員数3000人以上)が90.9%と多い。中堅企業(300〜3000人未満)は76.8%、中小企業(300人未満)は55.4%だが、共に前年より16ポイント以上増えた。
前項でSDGsに取り組んでいると回答した企業385社に、目的として重視ししている事を尋ねたところ、最も多かったのが「企業の社会的責任を果たす事」だった。「非常に重視している」もしくは「重視している」とした企業を合わせ87.3%に達した。次いで、「中長期的な企業価値を向上させる事」(81.8%)、「企業ブランドを向上させる事」(68.3%)、「社員のモチベーションや帰属意識を高める事」(64.4%)となった 。
一方で、課題も浮き彫りになっている。SDGsに取り組む企業でも、「取り組みについての具体的な目標・KPIの設定」と「自社の取り組みに対する社員の認知度向上」を課題とした割合が、「おおいに」から「やや」まで含めて共に84.6%で首位だった。「社内推進体制の構築」「戦略との統合やマネジメントシステムへの実装」を課題に挙げた企業も8割を超えた。
医療機関でも具体的な取り組みが顕著に
では、医療機関では、どのような取り組みがなされているのだろうか。
まず、社会福祉法人恩賜財団済生会の事例である。済生会は1911年、明治天皇が発した済生勅語の「施薬救療」の精神に基づき、生活困窮者に医療サービスを提供する為に発足した。社会福祉法人かつ公的医療機関としての立場から、第2期中期事業計画(18〜22年度)に積極的なSDGsへの取り組みが盛り込まれ、全国で実施されている。
具体的な取り組みのいくつかを紹介する。「①貧困をなくそう」では、無料低額診療事業等を推進。生活困窮者に対する保健相談や就労支援等を行っている。又、「③すべての人に健康と福祉を」には、本来事業である医療・福祉サービスで貢献している。高齢者や障がい者、ホームレス、刑務所出所者等に対し、包括的・継続的にサービスを提供している。又、診療船「済生丸」により、離島医療の実施している。「⑤ジェンダー平等を実現しよう」では、働き易い職場作りを目指し、キャリアアップの為の職員研修を実施している。「⑨産業と技術革新の基盤をつくろう」では、ICTの整備やAIの活用に力を入れ、医療・介護・福祉分野で技術開発を進めている。「⑬気候変動に具体的な対策を」には、災害派遣医療チーム(DMAT)や災害派遣福祉チーム(DCAT)の派遣体制がある。東日本大震災の被災者の為に、陸前高田診療所を設立した。
東京都内で整形外科の病院・診療所を展開する岩井グループも、SDGsに熱心である。「③すべて の人に健康と福祉を」「⑨産業と技術革新の基盤をつくろう」では、低侵襲な医療の提供を追求する為、手技開発や画像データ分析等の新しい取り組みがある。又、「④質の高い教育をみんなに」 「⑩人や国の不平等をなくそう」では、地域や国による医療水準格差を是正する為、国内での他院医師の手術見学や臨床修練に加え、外国人医師の研修・見学を受け入れている。
又、いくつものゴールに関わる環境への取り組みでは、00年に環境保全委員会(現・環境委員会)を発足させ、二酸化炭素排出権を購入してインド風力発電開発プロジェクトに活用し、グリーンカーテンプロジェクトを進行している。その他、 環境に配慮した物品の購入や、光熱費・コピー用紙使用枚数の削減にも努めている。更に、ペットボトルのキャップを集めて世界の子供達にワクチンを届けるNPO法人の活動への賛同や、環境保全の一環として花壇周りの整備も行っている。
18年に医療機関として初めて「ジャパンSDGsアワード」を受賞したのが、産科婦人科舘出張佐藤病院(群馬県高崎市)である。同賞は、政府のSDGs推進本部が設けたもので、特別賞が授けられた。同院は、「女性の生涯にわたる専門病院」を目指しており、全ての女性が健康である社会作りに、全世代の女性の専門病院として貢献している事が選出のポイントとなった。「生涯を通じた女性の健康支援」として女性アスリートへのサポートや、「女性の健康教育」としてプレコンセプションケア(妊娠前健康管理)の実践と啓発等を行っており、産婦人科を主軸に健康な次世代の創出とライフサイクル全般に通じた女性包括支援を実施している。
一見すると、SDGsは一般企業の環境への取り組みや発展途上国への支援といった印象が強いが、3番目のゴール「すべての人に健康と福祉を」とある通り、医療と深い関わりが有り、医業経営者にとっても避けて通れない取り組みである。
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