日本は2007年に世界に先駆けて超高齢社会に入った。これから益々、少子高齢化が進み、人口も大幅に減少していく。しかし、恐ろしい事に真剣に人口減少問題が議論される事は無い。人口が減少し始めると私達の身の周りに何が起こり、生活はどのように変化するのか。又、人口減少を食い止める方策は有るのか。『未来の年表』等の著書で人口が減少した社会の未来図を描き、早急に対策を講じるよう警鐘を鳴らし続けている一般社団法人人口減少対策総合研究所理事長の河合雅司氏に、人口減少社会の問題点と、私達が取り組むべき課題について聞いた。
——人口減少の問題を「静かなる有事」と呼んでいますが、そこにはどういう思いを込めているのですか。
河合 少子化は、産業構造と人々の価値観の変化によって起こります。社会が成熟して医療や経済が発達すると、子供の死亡率は下がります。農業従事者が会社勤めをするようになると、働き手を確保する為に子供を産む事も少なくなります。少子高齢化は時間を掛けてゆっくりと進行して行くので、5年10年経って初めて私たちは変化に気付くのです。既に、児童数が激減し、都会でもクラス編成が難しくなる小学校が出て来ました。この予兆は40年以上も前からデータには表れていましたが、政治家や官僚は放置して来ました。しかしながら、気付いた時には手遅れになっているのです。私は、人口問題の深刻さを広く知って欲しいと本を書き続け、人口減少による危機を「静かなる有事」と名付けて警鐘を鳴らして来ました。人口減少は構造的な問題です。減少の速度を抑える事は可能ですが、歯止めを掛けるのは無理です。遠い将来、日本の人口が数千万人規模になった頃には人口減少のペースが底を打つかも知れませんが、私達が生きている間は少子高齢化は続きます。これは日本だけでなく世界的な問題です。韓国や中国やヨーロッパでも少子化が進んでいます。あと30年もすれば地球の人口がピークアウトし、世界全体が人口減少に向かうでしょう。
——人口問題に関心を持った切っ掛けは?
河合 私は政治記者が長かったのですが、小泉純一郎政権が年金制度改革を行った後の2004年の選挙で、初めて年金制度が国政選挙の中心テーマとなりました。少子高齢化問題は認識されていましたが、それによって何が起こるのかは誰も考えていませんでした。そこで私は人口問題の可視化に取り組もうと思い、17年にベストセラーとなった『未来の年表』を出版しました。切っ掛けは、中・高校生が参加するシンポジウムで会場にいた1人の女子中学生が「大人は何かを隠している」と発言した事でした。「学校で習った内容と河合さんの話が全く違う」と言ったんです。実はその頃、何人かの若者から同じ事を言われていました。そこで、若者達の疑問にしっかりデータを示して答えようと考えたのです。
——『未来の年表』を出版した後の反響は?
河合 国会や各省庁、大企業から声が掛かり、与野党の議員や局長クラスの官僚、経営者達と会談する機会が増えましたが、人口問題の恐ろしさを理解はしていませんでした。遠い未来の話だと高を括っているのか、真剣に動こうとしない。それは今も変わっていません。東京の街を見れば一目瞭然です。東京も後5年もすれば人口減少期に入るのに、都心のあちらこちらで再開発計画が進んでいます。いつまで人口が増え続けていた時代の発想を続けるつもりなのか。今の行政や経済モデルのまま、高齢化が進み人口が減って行くと、近い将来、社会インフラの維持コストが極めて大きくなり、日本経済が沈み込む要因になると懸念しています。
医者不足から患者不足の時代へ
——人口減少が医療面に及ぼす影響は?
河合 既に始まっているのは、小児科医の減少です。子供の数が減るのですから、当然です。一方で高齢者が増えますので高齢者向け医療の確保が課題になります。今、疾病構造の変化に対応する為の人材や医療機関が不足していると言われますが、それも当面の話です。40年以降は毎年90万人位の人口が減って行く人口激減期に突入し、その先は患者不足が問題になります。患者不足により病院の経営が成り立たない地域が生じます。厚生労働省は地域医療構想を掲げて、地域の医療体制の連携整備に取り組んでいますが、個別の事情もあり進んでいません。こんな状態で、人口減少に対応出来るのか疑問です。今回の新型コロナウイルスの感染拡大で、医療機関の連携が全く出来ない事が分かりました。患者が急増して必要な治療を受けられない人が多数出ました。こんな事で、今後、高齢者が増えて起こる疾病構造の変化に対応出来るのか疑問です。
LEAVE A REPLY