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新型コロナウイルス第6波は来る? ~感染症対策に関する取り組みと今後の課題~

新型コロナウイルス第6波は来る? ~感染症対策に関する取り組みと今後の課題~
北村 義浩(きたむら・よしひろ)1985年 東京大学医学部医学科卒業。89年に同大学大学院医学系研究科微生物学の博士課程を修了。90年に米国のタフツ大学に留学。2006年からは中国の日中分子免疫学・分子微生物学連携研究室(LMIMM)で新興再興感染症の研究に携わる。帰国後は国立感染症研究所室長、国際医療福祉大学基礎医学研究センター教授を経て、2020年4月から日本医科大学 医学教育センター 特任教授。

第5波での感染者数が激減し、今年4月から断続的に発出された緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置は9月30日をもって全都道府県で解除された。果たして第6波は来るのであろうか。第6波が来た時に、私達はどのように対処すれば良いのだろうか。新型コロナウイルスに関するコメンテーターとしてテレビでもお馴染みの北村義浩氏に、日本の感染症対策に関する取り組みと今後の課題についてインタビューした。


——第5波は収束し、緊急事態宣言が解除されましたが、ここまで長引いている事をどう捉えますか?

北村 現在の感染症法は1999年の施行以来基本的にずっと同じ枠組みで、コロナウイルスの世界的流行を、あまり想定していませんでした。想定していない枠組みである以上、適切に対応する為には、直ぐに法改正をすべきなのでしょうが、実際は昨年2月7日に新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」になりました。指定感染症と言うのは簡単に言えば、訳の分からない感染症、つまり「その他」と言うカテゴリーに分類される感染症です。ひとまず「その他」にしておき、色々な事が分かってくれば適切なカテゴリーにしようとした訳です。結局、今年の2月に「新型インフルエンザ等感染症」と言うカテゴリーに配置され、通常のインフルエンザではなく、少し危険なインフルエンザという位置付けになりました。

——「指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」に変更された事に、意味はあるのでしょうか。

北村 普段、私達が感染するようなインフルエンザではなく、世界が初めて経験する危険なインフルエンザですから、このカテゴリーは、ある意味適切だと思います。問題は置き所が決まる迄の1年間です。指定感染症は、「その他」のカテゴリーなので、1類でも2類でも3類でも症例を使っていかようにでも扱う事が出来ました。場当たり的な事も出来る訳です。だから今回のように、指定感染症だけれども、扱いはほぼ2類と同じと言うケースもあります。2類は、結核やジフテリア、ポリオ等ですが、現在はもう結核くらいしか存在していません。結核は、BCGワクチンがある。又、薬も何種類もあります。ですから薬もワクチンもある感染症と同じ分類の所に、全く新しくて薬もワクチンも無い感染症を入れて同じ扱いにしたのが、少し間違いになっています。そこで2類プラス新型インフルエンザ等と言うハイブリッドな扱い方をしたのですが、ご存知のように、インフルエンザにもタミフルやリレンザといった薬があります。「従来の薬が効く」という大前提で作られている枠組みなので、2類であれ、新型インフルエンザ等感染症であれ、ハイブリッドで運用してきた事自体が、甘く見ていたという感じがします。

政府や分科会の取り組みについて

——プロの目から見て、今までの経過はどのように評価されていますか。

北村 今回のようなパンデミックが起こった時に、行政がすべき事はたった2つです。1つは、専門家の言う事を聞いて、流行の収束を図る事です。間違っても、自分達の判断で行動してはいけません。もう1つは医療の提供です。例えば雨漏りで屋根から水がポタポタし始めると、先ずは床が濡れないように洗面器やバケツを置きますよね。でも、そもそも屋根を修理しないで、雨漏りを直そうというのは無理があります。つまり感染者を減らす努力をしないで、病床という名のバケツの数を増やすのですから、バケツ2個でも、100個でも足りる訳がありません。雨漏りは減るどころかどんどん増えていくのですから。日本のコロナウイルス感染症対策は、雨漏り対策をしていないのに、「バケツが足りない」と言って、自宅療養を強いている訳です。言ってみれば、その辺りにある鍋でも良い、割れた茶碗でも良い、欠けたどんぶりもありますと言っているようなもの。パンデミックの場合、根本的な対策を重視しない行政は、どこかで破綻します。最初の頃は、専門家の言う事に耳を傾けていたと思いますが、途中から少し聞かないようになりました。

——行政がすべき事の2つ目は何ですか?

北村 適切な医療の提供です。これに関しては、医療従事者も行政も国民も良くありませんでした。例えば、トンネルの崩落事故の現場でフルスペックの医療を提供しようとしたようなもの。パンデミックで毎日3万人、10日で30万人の感染者が出ている時に、フルスペックの医療を提供出来る訳がありません。災害医療なのですから。

——PCR検査は、最初の半年間程全く出来なかったように思いますが、体制が整っていなかったのでしょうか。

北村 一言で言えばそうです。PCR検査は、①鼻から採取した検体に、②試薬を混ぜて、③検査機に掛けるのですが、①②は全て人の手によって行われていました。今は少しオートメーション化しましたが、当初この2工程は全て人が行っていました。この部分が圧倒的に足りていませんでした。 鼻に綿棒を突っ込み壁面をこするくらいなら、少し訓練をすれば誰にでも出来るだろうと思いますが、日本の法律上で、これが出来るのは医師・看護師・臨床検査技師の3職種だけです。しかしこの3職種は全部合わせても150万人程度。 病院で働いている人もいれば、ICUで働いている人もいますから、PCR検査に動員出来る人数には限りが有ります。欧米では、直ぐに自分で鼻から採取出来るシステムを導入しましたが、日本ではそれも許されませんでした。

——人が足りないと言っていたのは、法律的な問題だったのですか?

北村 実は検査には3種類あります。熱が出る、お腹が痛くなる等、症状がある人にする検査が1番目。病気を治す為に病気を発見して、患者だと確定した上で、適切な医療を提供する為の検査です。そして症状が全くない人、隠れた病気を発見する為に行う検査が2番目です。早期発見・早期治療の為の検査、つまり検診です。そして3番目が公衆衛生的な検査です。例えば、今回のように全く症状が有りません、熱も有りません、別に早期発見したからといって、早期治療が出来るわけでもありません。更に言えば、早期発見されたところで、「家で寝ていて下さい」と言われるだけ。しかし、これは隔離とセットになっているから意味が有ります。つまり社会の為の検査です。当初、2番目と3番目、特に3番目は全く行うつもりは有りませんでした。やる気が無かったと言うのも有るし、システムも人もいなかったと言う事も有る。或いは機械も足りていなかったとされていたので、3番目の検査は積極的に行われませんでした。問題は2番目です。患者を確定する検査だけでも数が足りないのに、早期発見・治療の為の検査や公衆衛生的な検査まで手が回らない。又、未知のウイルス検査に尻込みをしてしまった医療機関、医療従事者も多くいました。これは世界共通の拒否反応であって、本来は国立や公立の病院であったり、特設の場所を作ったりして提供すべきです。民間の医療機関に頼る事自体に無理が有ります。

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