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未来の会

ALSの医師が見た「患者視点」が欠けた行政対応

ALSの医師が見た「患者視点」が欠けた行政対応
介護・障害福祉制度の「適正利用」を妨げる壁

東京五輪の聖火リレーが行われた6月、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者で千葉県八千代市の医師、太田守武氏(50歳)は、額と口の筋肉で動かせる電動車いすを操作して、約200㍍を12分かけて走りきった。太田氏は「重度障がいがあっても、ここまで出来る。病気の方、被災された方々に勇気と希望を持ってほしい」と聖火ランナーに応募。自身は医療と介護サービス、医療機関の助けを得て家族と自宅で生活している。

 太田氏は2014年にALSの診断を受け訪問診療医を断念。その後、災害時を想定し目と目で会話が出来る「Wアイクロストーク」を開発したり、東日本大震災等の被災地住民の心のケアを中心とした無料医療相談を行ったりしている。一時は自殺まで考えたが、被災地の人々やボランティアらの励ましで生きる希望を持つようになった。

 太田氏は全国から無料医療相談を受ける中で、障害福祉サービス等の制度が適正に受けられていない事を知った。中には役所の職員から差別的対応を受けた人もいるという。例えば、都内のALS患者の場合、重度訪問介護の時間数を制限され、独り暮らしでの在宅体制が取れない。しかも役所から「地域生活が出来るわけがないではないですか。施設ですよね」と言われ、傷ついたという。太田氏は「今後の人生を制度改革、制度の適正利用に捧げたい」と述べる。最近では、栃木県宇都宮市内のALS患者からの無料医療相談の話がひどく、涙が出たという。太田氏のSNSで発信された内容を次に紹介する。

患者・家族を共倒れにする行政対応

 以下、病院から在宅に戻りたい患者様ご家族様へ伝えられた宇都宮市役所障がい福祉課職員の言葉です。

「介護保険を使っている人で、重度訪問介護を使っている人はいません」

「看取りが前提の人は受け付けません」

「重度訪問介護はハードルが高いのでまず認められないと思って下さい」

「介護保険優先なので、まず夜間も介護保険のヘルパーの身体介護でやってみて下さい。やってみてどうしても介護保険でまかないきれないのであれば障がいサービスの相談に来てください。そこから検討しますので」

「巡回型に頼めばいい」

「介護保険優先であり、計画書を見ると障がいの比率が高い。プラン上、障がいサービスの比率が大きいため、介護保険の割合を5〜6割以上にしたプランに見直すように」

「ALSのため急変の見込みがある。緊急時の初期対応がヘルパーではできない。それをヘルパーに任せるのは違うだろう。そのため、24時間対応できる病院でこのまま看てもらうのがいい」

「日中と夜間の支援の差が大きい。自宅で介護がしたいと言うのならば、昼夜問わず家族が支援する必要があると思う。家族の介護力が見えない」

「ヘルパー任せなのではなく、夜間も家族の努力が必要だと思う」

 これは現実の話です。ご家族様は憔悴しきっていました。看取りではないのに決めつけられ、家に帰りたいのに、帰らせてもらえないんだと。ケアマネも何度もケアプランを出し直させられています。

 私たちも代理人として担当の職員と電話でのやり取りを何度も行いました。でも埒が明かず、直接宇都宮市役所まで行って、市議会議員の仲介のもとでやっと職員たちとの面談が実現しました。宇都宮市役所障がい福祉課から課長ともう一人の職員、そして張本人の職員が話し合いに応じました。

 一人の職員は、身体介護(居宅介護)を月60時間しか出せないと言いました。たったの60時間では3日もカバーできません。月30日のうち、27日を家族だけで介護しなさいというのはあまりにも理不尽です。

 私の重度訪問介護の時間数は月892時間です。うち移動介護は月200時間(2人介護可)です。家族だけでは介護は担えません。家族も本人も共倒れになってしまいます。

 重度訪問介護を利用して、家族の負担を減らし、誰もが自宅で暮らせたらいいのですが。重度訪問介護を利用してはいけないんでしょうか。難病や事故はいつ起こるか分かりません。あなたの家族がそうなった時、自宅に帰れなくなったら悲しいですよね。

 話し合いの中では、職員の心無い言葉でご家族が体調を崩したと伝えたにもかかわらず、最後まで謝罪の言葉がありませんでした。

利用しやすい制度改正案を提言

 編集部が9月に宇都宮市障がい福祉課に取材を申し込んだところ、メールで以下の回答があった。利用者目線がなく、心ない職員の対応に関しては「ご本人や関係者の方々に、今後の手続きやスケジュールなどについてご了承をいただいたところですので、回答を控えさせていただきます」。また、重度訪問介護を利用して自宅で生活している患者がいる現実や今後の対応をどう考えるかという質問に対しては「重度訪問介護を含めたサービスの提供について、医療機関や介護サービス等の関係者と連携を図りながら、対応してまいります」と具体的な回答はなかった。

 難病や事故で突然重度障がいになった人や家族は、受け止める事も困難なのに、検査や治療に追われたり介護で疲弊したりしている。それを補うために介護保険や障害福祉サービス等があるのに、財政難等を理由に利用を阻まれてしまう。自治体は厚生労働省の指針に従うと言うが、自治体間で格差がある。太田氏は「まずは格差を解消し、制度を公平に利用出来るようにしなければならない」と言う。太田氏は8月、医療的ケアが必要な子どもがいる野田聖子・自民党衆議院議員や、熊谷俊人・千葉県知事、服部友則・八千代市長等に現場の問題点と対策案をしたためた手紙を送った。主なポイントは以下の通りだ。

 ▽障害福祉サービスの重度訪問介護/申請の仕方が分からない、判断基準が分からないという相談が多い。全国の役所のホームページに申請方法を載せ、書類をダウンロード出来るようにしてほしい。また、要請した時間数を認めずボランティアにケアを強要するかのような対応は許されない。申請が適正に審査されているか全国調査を実施したり、審査会に重度障がいに詳しい人が同席したりする事を提案する。審査会は1カ月に1回の開催ではなく、緊急時には即時に制度を利用出来るようにすべき。

 ▽介護保険/訪問入浴と重度訪問介護の併用を、役所によっては認めたり認めなかったりしている。併用を許可するよう全国的に統一すべき。また特定事業所加算では上限点数が決まっているため、事業所は加算分が増えると訪問回数を減らさざるを得ない。加算を上限単位内から外し、国保連が別途支払う形にすべき。

 ▽訪問看護/難病等複数回訪問加算は1日複数回訪問しても算定出来るが、1日1回しか算定出来ない基本療養費と管理療養費に比べると格段に減る。訪問看護ステーションが複数回訪問したくない理由になっており、報酬を見直す必要がある。

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