新型コロナ対策、厚生労働省分割、こども庁創設、基礎年金の見直し……。自民党総裁選では、多くの厚労省関連の改革案が飛び交った。結局、総じて最も過激な案を掲げていた河野太郎氏は決戦投票で敗れ、穏当な岸田文雄氏が総裁・首相になった事で厚労官僚達もホッと一息ついている。
とはいえ、総裁選の最中も厚労官僚達は淡々としたものだった。当然、誰が首相になるのかに無関心なはずはないものの、「騒いでも結果が変わるわけでなし。現実に対応していくのが我々の任務」(幹部)等と概ね冷静だった。
河野氏が厚労官僚達の最も嫌う税方式の最低保障年金創設を唱えた際も、別の幹部は「実現性に乏しい事はいずれお分かりになるでしょう」。そうこうするうち、9月24日になって河野氏はBS番組で、「年金を議論しなければいけないよね、という思いだった。何かの案にこだわっているわけではない」とトーンダウン。この間、官僚達は冷ややかに見つめるだけだった。
コロナ禍でつまずいた菅義偉政権。菅氏の周辺は「厚労省がぐずぐず承認しないからワクチンでも何でも遅れた」と同省を批判した。菅氏も「厚労省は保健所に直接指揮出来ない」等と言って、米疾病対策センター(CDC)のような司令塔の必要性に触れて厚労省の再編案を訴えていた。
これを受け、総裁選で河野氏は「厚生省と労働省に分ける事も1つの考え方だ」と同省分割論を主張していた。一方、岸田氏は当初こそ自身のツイッターで厚労省への複数閣僚の配置や省再編を提案していたが、後に削除。「議論が生煮えのままだった」(陣営)と釈明し、「健康危機管理機構(仮称)の創設」へと文面を修正した。
同機構のイメージは、内閣官房のコロナ対策推進室の機能強化だ。内閣官房のIT総合戦略室を格上げした格好の「デジタル庁」に近い。特定省庁から予算や権限、人員を大きく引きはがす省庁再編なら業界や族議員も激しく抵抗するが、それとは異なる。岸田首相は「(厚労省を)単に分ければいいというものではない」と口にしている。
首相時代、菅氏は「こども庁」の創設をぶち上げ、来年度中に設立する方向で調整を進めていた。岸田首相も「時宜を得ている。政策、予算、法律を一元化させる」と継承する考えは示している。だが、子ども関連の施策を一元的に担う省庁の新設は「縦割り行政打破」を掲げた菅政権の目玉政策だった。その菅政権でさえ、関係業界の反発を恐れて6月の骨太の方針では肝心の幼稚園・保育所行政の一元化に踏み込めなかった。岸田首相に菅氏ほどの熱意は窺えず、厚労省OBは「岸田さんの中で優先順位は低いんじゃないのかな」とつぶやく。
自民党の政権転落のきっかけとなった年金記録漏れ問題、安倍晋三・菅と2代の政権が退陣する羽目に陥ったコロナ禍騒動等、同党内には「厚労省が原因の政権崩壊はまた起こりかねない」との危機感が根強くある。
それでも同省の担当者は「例えば子ども政策で大切なのは、欧州等に大きく劣る関連予算の調達。箱(省の姿)の議論にさほど関心はない」と達観している。
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