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未来の会

ここまできた「抗加齢医学」の最前線

ここまできた「抗加齢医学」の最前線

老化細胞除去薬、mRNA医薬品等の最新研究成果

第21回日本抗加齢医学会総会は6月に開催されたが、それに先立ってWEBメディアセミナーが4月に行われた。講演に立ったのは、中西真氏(東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授)、堀江重郎氏(日本抗加齢医学会理事長、順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授)、内藤裕二氏(第21回日本抗加齢医学会総会会長、京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座寄附講座教授)の3氏。最先端の抗加齢医学研究に関する充実した内容の講演だった。要約して紹介する。

「GLS1阻害薬」が老化・老年病を改善

 まず中西氏が「老化細胞除去薬の衝撃」と題する講演を行った。老化や老年病は、炎症を誘発する細胞が加齢に伴って蓄積し、それが過剰な慢性炎症を引き起こす事が基礎となって生じている。従って、加齢に伴って蓄積する細胞を除去すれば、慢性炎症を抑制する事が出来、最終的には臓器の機能低下や老年病を予防出来るし、健康寿命も延ばせると考えられる。実際、多くの老年病で老化細胞の蓄積が認められていて、老年病と老化細胞の蓄積は、密接に関係している事が分かってきた。 

 そこで中西氏は、老化細胞を除去する薬を作るための研究を行ってきた。老化細胞に発現している遺伝子の機能を1つだけブロックするshRNAを細胞に入れ、ブロックした後の細胞を調べて、どれが老化細胞の生存に必要な遺伝子なのかを探し出した。そうして分かったのが、グルタミンを代謝するGLS1という酵素だった。GLS1は正常細胞にはほとんど存在しないが、老化細胞にはたくさん存在している。老化細胞はGLS1という酵素に依存して生存している事が分かってきた。

 そこで、高齢のマウスにGLS1阻害剤を投与し、どのような事が起こるのかを観察した。高齢のマウスでは腎臓で糸球体の硬化が起こるが、それが起こりにくくなり、加齢性腎機能低下が改善される事が分かった。肺では加齢による線維化が抑えられ、加齢性肺線維症が改善した。肝臓では加齢に伴う炎症が抑えられ、加齢性肝機能低下が改善した。更に筋力等の生理機能も、免疫の状態も改善していた。また、インスリンやグルコースに対する感受性も正常化し、高脂肪食摂取による糖尿病も動脈硬化も改善する事が分かった。

 つまり、GLS1阻害薬をマウスに投与すると、老化細胞が除去される事で、老齢のマウスでも、生活習慣病のマウスでも、かなり症状が改善される事が明らかになったのだ。健康寿命の延伸が可能だという事である。

 中西氏はヒトでも同じような効果が現れるのかを調べてみた。すると、ヒトでもマウスと同様に、加齢に伴ってGLS1の発現は加齢に伴って増えてくる事が分かった。これはヒトでも老化細胞が増えている事を示していて、GLS1阻害薬を投与すれば、多くの老年病を改善出来ると考えられるわけだ。

 老化細胞のような炎症を誘発する細胞を除去する事が出来れば、炎症によって起こる老化現象や各臓器の機能低下を改善する事が出来る。そこで中西氏は、老年病の一つ一つを治療するのではなく、全てを一網打尽にするような次世代の医療、若返りを可能にする医療の実現を目指している。少なくともマウスレベルでは、ここに述べたような結果が得られているので、近い将来、ヒトに応用していけたらと考えている。

人との交流が「テロメア」を伸ばす

 次に堀江氏は「ポストコロナにおけるmRNA医薬品の抗加齢医学への応用」と題して講演した。

 新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンが開発された。mRNAは非常に分解されやすい不安定な分子だが、脂質ナノ粒子の膜の中に入れる事で分解を防いでいる。このようにしてmRNAを細胞内に的確に運ぶ事が出来れば、細胞内に望み通りのたんぱく質を作れるようになる。例えば脳の中にたんぱく質を作り出すことが出来れば、難治性の中枢神経疾患の治療に応用出来るのではないかと考えられている。このようなmRNA医薬品が可能になった事で、今後どのようなブレイクスルーが起こるかが注目されている。

 コロナ禍で3密を避ける事が求められ、絆が欠けてくるため、“心のホルモン”と言われるオキシトシンが低下している。オキシトシンが高まると、共感しやすくなり、道徳的行動に結び付き、信頼が生まれ、更にオキシトシンが高まるという循環が生まれる。

 例えば、ネズミを孤飼いにした場合とグループで飼った場合を比べると、オキシトシンはグループ飼いの方が高まる。オキシトシンは加齢でも低下する事が分かっている。

 テロメア(真核生物の染色体の末端部にある構造物で、染色体末端を保護する役目を持つ)は加齢に伴って短くなるが、短くなると、うつ病、動脈硬化、心臓病等老化に関連した疾患が起きやすくなる。テロメアを短くする要因としては、タバコのような酸化ストレスや心理的なストレスが挙げられている。テロメアを長くする要因としては、男性ホルモンであるテストステロン、運動、瞑想等がある。社会交流でオキシトシンが高まると、テロメアが長くなる事も分かってきた。オスのネズミはあまり変わらないが、メスはグループ飼いにするとテロメアが長くなる。オスはテストステロンを与えるとテロメアが伸びる傾向が出てくる。

 テロメアが短いと免疫力を発揮するT細胞が減って、コロナに感染したときに重篤化しやすい事が分かってきた。日本抗加齢医学会は多くの会員の意見を集約し、「免疫力をアップして、健康を維持!」という新聞の全面広告を出した。その中でビタミンDを摂る事の重要性を強調した。国別のビタミンD濃度とコロナの感染者数・死亡者数の関係を見ると、ビタミンDを摂っている国ほど感染者も死亡者も少ないという傾向がある。

 アンチエイジングの重要な指標としてテロメアがあるが、テロメアを伸ばす要素としてエビデンスがあるのは抗酸化食品、テストステロン、オキシトシン、ビタミンD、オメガ3脂肪酸である。

人腸内細菌叢を良い状態にする食事

 最後に内藤氏は「腸内細菌最新情報」に関する講演を行った。

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)マウスを無菌にすると、神経症状が現れて早期に死亡する事から、腸内細菌のアッカーマンシア菌が神経を保護する物質を作っている事が分かってきた。アッカーマンシア菌はニコチンアミドを作り、それが神経保護作用を示しているとの仮説が提唱された。最近、抗加齢医学の分野ではNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が注目されている。肥満の抑制や老化に対する抑制作用が報告され、抗加齢メディシンの中でトップランナーに位置付けられている。アッカーマンシア菌は老化そのものを制御している可能性がある。食事によってアッカーマンシア菌を増やせるのではないかと、いくつか研究が行われている。

 現在、食事の研究でエビデンスレベルが高いのは地中海食の研究である。地中海食の効果は、腸内細菌叢の変容を介しているのかもしれない事が分かってきた。糖尿病の予防に繋がり、心血管障害を抑制する事も明らかになっている。地中海食から肉を抜いたグリーンメディタリアンダイエットの研究も進んでいるが、内藤氏はこれこそが老化細胞除去食ではないかと考えている。日本人の体にとっては、地中海食がいいのか、和食がいいのか、結論を出してほしいと思っている。

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