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未来の会

山積する医療教育の課題にじっくり取り組む ~余裕ある環境が大学のポテンシャルを育む~

山積する医療教育の課題にじっくり取り組む ~余裕ある環境が大学のポテンシャルを育む~
高松 研(たかまつ・けん)1954年福岡県生まれ。78年慶應義塾大学医学部卒業。82年慶應義塾大学医学部助手。83年三菱化成工業株式会社(現三菱化学株式会社)横浜総合研究所研究員。85年慶應義塾大学医学部專任講師。88年米スタンフォード大学医学部留学。91年東邦大学医学部助教授。94年東邦大学医学部教授。2012年東邦大学医学部長。18年東邦大学学長。日本生理学会評議員・常任幹事(理事)・監事、日本神経化学会評議員・理事、私立大学情報教育協会専門委員、日本学術会議連携会員、基礎医学・実験動物・IUPS分科会委員等を歴任。

東京と千葉に2キャンパス5学部5医療機関を運営し、駒場と習志野に2つの中学・高等学校を抱える東邦大学。医療人材の育成で先駆的な役割を果たしてきた同大学は、昨年来のコロナ禍にどう対処したか。また、変化する社会のニーズ、医療分野における働き方改革に対して、どのようなビジョンの下、施策を展開しているか。2025年の創立100周年に向け展開されるグランドデザインを先導し、2期目を迎えた高松研学長に話を聞いた。

——教育と医療を共に担っておられる貴学では、昨年来のコロナ禍にどう対処してこられましたか。

高松 昨年4月最初の緊急事態宣言が発出されました。その後を思えば感染者の数も少なかったのですが、未知の感染症には警戒が必要です。大学の方では、とりあえず授業を中止すると同時に、ICTを活用した遠隔対応の授業体制の構築を急ぎ、早い学部では4月の連休前、他の学部でも5月の連休明け頃には遠隔講義をスタートしました。感染状況が落ち着いてきた7月頃には、予防策を講じた上で対面による実習を順次再開しました。少人数の対話だけであればZOOM等でも出来るのですが、実習となるとその場にいて相手の表情や動きを見ながらのコミュニケーションが大事ですから。キャンパス内を密にしないよう、講義の方は遠隔を続けました。

——医学部最終学年の病院実習や卒業単位認定はどうしていたのですか。

高松 6年生の病院実習につきましては、4月、5月は中止しましたが、学生達が卒業と同時に最前線で働く事を踏まえ、6月後半に再開しました。本学の場合、例年は夏前に全部終わるのですが、昨年は7月まで実施して、その後国家試験の勉強に入りました。実習時間数は少なくなりましたが、文部科学省の方も「シミュレーション等で内容がしっかり担保されるなら大学の裁量の範囲」という事でしたので、なんとかやり繰りしたというところです。

——文科省から授業の仕方等のアドバイスはありましたか。

高松 総論的には示されますけれども、具体的施策は大学に委ねる形でした。セミナーが随時開催され、他大学の取り組みが紹介されて、これは参考になりました。良い事例に学んで、何とかこなしたという状況でした。

——今年春の国家試験はどうでしたか。

高松 コロナの影響で、国家試験の出来は皆良くないのではないかという心配はありました。実際は、年度によって問題の難易度が違うので単純に比較は出来ないんですが、今年の春は平均点・合格点共に上がりました。本学の学生も全国の他大学の学生も、皆賢くなっていましたね。

コロナが露わにした日本医療の特殊性

——医療機関の方はどうでしたか。

高松 昨年初め、散発的なクラスター発生が社会を騒がせていた頃から、まだ多くはおられませんでしたが、患者さんを受け入れていました。感染症専用病棟は前から本学医療センター大森病院内に設けられており、コロナの初のケースとしてそこで対応しました。

——ベッドはどのくらい用意されましたか。

高松 重症度によって対応出来る数が変わるんですが、医療センター大森病院の場合、通常の感染症であれば25床の病棟を用意しました。都の要請で第5波に備えて出来る限りという事で、重症12床(ICU9床を含む)、中等症18床を用意しました。それ以上となると、別の病棟を丸ごと転換しないといけないので、都と交渉してとりあえず現時点はそれで、という事で合意しました。

——政府のコロナ対策に対しては厳しい評価もありますが、どういう意見をお持ちですか。

高松 結果からみれば、もっと合理的な別のやり方もあったとは思うんですが、未知の危機でもあり、仕方なかったかな、と。混乱には、日本の医療のやや特殊な在り方も関係していたと思います。

——特殊な状況とは?

高松 日本の医療制度の特徴はフリーアクセスです。誰がどこにいつ行ってもいい。そういう体系の中で、患者さんの診療を受ける権利を尊重して、通常の医療を守りつつ危機的医療に対処するというのは極めて難しいのです。今は病棟をきっちり分ける体制にはなっていますが、最初はそうはいきませんでした。感染がどこまで広がるか分からず、通常の医療をある程度保障する必要があったので、どうしても後手後手に回ってしまった感は拭えません。

——コロナ患者の受け入れは、まずは公的病院の役割ですね。

高松 はい。その場合、通常医療の患者さんを民間病院に移す必要がありますが、日本の場合いきなり連携は難しい。また、公的病院をコロナ対応に転換するといっても、インフラはともかくスタッフはそうはいきません。日本の病院は、普段から効率を求めてきて、少なくとも人員の配置に関しては極力無駄はしない体制になっているため、何かあった時に余力がないのです。療養型とかリハビリ型の病院が欧米に比べて多く、医療スタッフを極力少ない形で回しているので、100床あるからといってコロナの患者さん100人は到底受け入れられません。ご批判はあるのですが、なかなか改善出来ないという、非常に苦しい状況で、今後の大きな課題です。

グランドデザインに基づき学内を率いる

——2018年の学長就任以来の取り組み、成果をお教えください。

高松 最も大きいのは、創立100周年にあたる2025年に向けたグランドデザインの策定と進行です。記念の年に向けて本学のブランディング、また19年の大学基準協会による認証評価に向けて明確な方針が必要という事で、学長就任以前から前学長や各学部長と協議して策定したものです。グランドデザインでは、2025年に向けた目標として、例えば国家試験の合格率や研究論文の発表数等について、事細かにプランニングした上で高めの数値目標を掲げています。達成を目指して少しずつ伸ばしていこう、と学内を動かしてきたのが、学長1期目の3年間でした。

——学内体制について特に留意された点は?

高松 本学5学部間の連携強化です。本学は長年、学部ごとにそれぞれの領域で専門人材を育成するという方針できました。かつては全学共通の教養部課程があったのですが、1970年前後キャンパスに学園紛争が吹き荒れ、それ以降、入学時から専門教育中心にした方がいいというポリシーで、学部間の分離が進みました。専門重視の効率的な教育の結果、国家試験の合格率等も良い状態を維持してきました。ただ、今の世の中にあって「東邦大学の魅力って何ですか」と聞かれた時に「優れた医療人材を育てる事」に加えて「複数分野の学部を生かした人材育成」を全面に打ち出す事が必要ではないか。そんな考えをベースに、国家試験への注力と並行して、学部間連携をビジョンに掲げました。各学部間には、授業一コマの時間が違っていたり、同じ分野でも科目名が異なっていたりする等の状況がありましたが、徐々にインフラを整えて、来年から新カリキュラム導入の形で新しいルールに基づく教育体系への移行を順次進め、2024年までに完了する予定です。

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