大阪の巨大医療法人へ飛び火、国会議員の名前も
2008年、田中英壽は日本大学理事長のポストを掴んだ。そして、理事長室の金庫に保管されていた『田中英壽調査報告書』を破棄した。書類を破棄された事は日大には痛恨だったに違いない。この調査報告書は当時の日大総長らが外部調査委員会に作成させた常務理事時代の田中の身辺調査資料だ。田中は以降、十数年もの間「日大のドン」であり続け、この間多くの事件が起きた。日大理事に郵送された銃弾事件、カザルスホール閉鎖事件、日大医学部附属練馬光が丘病院閉鎖問題、アメフト暴行事件等、驚くほど多くの危機を乗り越えて来た。警視庁は田中逮捕を目指したが叶わなかった。
07年、常務理事だった田中が理事長選に立候補を表明すると、瀨在幸安元総長や現役の理事ら「田中が理事長に就任すれば日大の恥だ」と大々的に対立候補者を推す選挙運動を展開した。しかし、若い頃「アマ相撲界の大鵬」の異名を取った田中だけに、相撲パワーが勝利した。その後、粛正人事が始まり、多くの優秀な教授らが大学を去った。当時の医学部長も更迭され、田中新理事長に忠誠を誓った新医学部長が誕生、現在は副学長に上り詰めた。医学部附属板橋病院建設の責任者となって田中の指示通りに動いた事が評価されたと言われているが、今回の捜査で田中の逆鱗に触れた。
田中は10年、今回の捜査対象となる「株式会社日本大学事業部」を設立した。いわゆるトンネル会社だ。人事面では大学と事業部の周辺に自身の仲間を配置した。多くは田中夫人のお気に入りだ。今回の捜査は板橋病院の建設工事に絡む不正な契約だ。警視庁も執念を燃やしていたが、今回は東京地検特捜部が動いた。この捜査には田中が自ら設立した「日本大学危機管理学部」の関係者の協力があったと言われている。この学部教員には警察OBや元検事の弁護士ら名を連ねているが、その中の一部が古巣の警察や検察に情報を提供したと言う。田中の設立目的は、彼らに守って貰うために採用したはずだったが、考えが甘かったようだ。
東京地検特捜部がこの捜査に着手し、資金の流れを追う段階で、一瞬、特捜部の動きが止まった時がある。「おいおい、何だ、この会社は!」。検事が資金の流れた先の会社を調べた時に発した言葉だ。資金が流れた先は都内の株式会社だが、そのオーナーは大阪の巨大医療法人理事長Yの個人会社だったからだ。理事長Yは安倍晋三元首相とも親しく、官邸にも出入りし、ゴルフや会食もする仲だ。日大と大阪の医療法人理事長と元首相と話が複雑に絡み合う。この理事長Yは医療界では無名だが、銀座や大阪の繁華街キタでは知らない者はいない。横綱だった朝青龍のタニマチでもあり、年間2億〜3億円を提供していた話は相撲界では有力だった。断髪式に親方の次に登場している。
昨年、この医療法人に国税調査が入っているが、これは偶然とは思えない。決算書の数字が医療法人のレベルを超えていると判断され、調査は実に7カ月に及んだ。国税が驚いた内容は海外への旅行費や銀座等の夜の世界の支払総額が2億〜3億円を超えている事だ。世界最高の自動車レースF1のモナコ観戦やヨーロッパの美術館巡り等、超VIPな旅行をしている。また、フェラーリ好きでも有名でフェラーリの最高級クラスを数十台持ち、クルマに投下した資金は30億円とも言われている。同時に、政治家への献金も熱心で、大阪選出の国会議員には特段の支援をしている。特捜部は病院幹部らを任意で取り調べている。慎重の上にも慎重な捜査を続けているが、今、病院幹部らも理事長とは連絡が取れない状況が続き、顧問弁護士が特捜部に抗議をしていると聞く。東京地検特捜部が念願の田中逮捕を目指す捜査は、日大医学部だけでなく医療界に大きな波紋を呼ぶ事は間違いない。 (敬称略)
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