新型コロナウイルスのパンデミック下の今夏も、海外の留学先から戻ったり、海外の留学先に向かったりする官僚はいる。海外での知見を基に国内の政策立案に生かす海外留学制度は近年拡充されてきた。今回は官僚がどのような動機で留学し、その後はどのような官僚人生を歩むのか、官僚の留学事情を明らかにしたい。
国費で海外に留学出来るのは、基本的に若手官僚が対象で、入省10年目までに出発する場合に限られる。厚生労働省では毎年10〜20人前後が海外留学をしており、キャリア、ノンキャリア、技官と採用職種を問わずに希望する官僚がこの制度を利用出来、希望者が多ければ年次が高い順に認められるが、「すぐにいけるかどうかは別として、希望は大概叶っている」(官僚の1人)。必然的に幹部登用されるキャリアが多くなるが、ノンキャリでも海外留学制度を活用するケースがあるという。一方、財務省や外務省等では、キャリア官僚は必ず海外留学する等、省庁により事情は異なる。
選考基準はTOEFLやIELTSといった英語の語学検定で、一定レベルに達する事が主な条件だ。基準をクリアすれば、それぞれ希望する大学に応募する。専攻分野は自由だが、厚労省では公共政策を学ぶ官僚が多いという。アメリカのシカゴ大学やコロンビア大学、シラキュース大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)等が人気。修士課程(2年)で学ぶケースが多いが、まれに博士課程を選択する官僚もいる。
留学中の金銭事情というと、これまでの基本給に加えて、出張扱いとなるため1日当たり9000円程度の手当が出るという。留学経験のある官僚は「独身者なら普通に生活出来るレベルだが、家賃の高いニューヨークやロンドンに家族とともに赴任する場合は意外とカツカツのようだ」と明かす。
学費は国が負担するが、5年以内に退職すると在籍期間に応じて返還を求められる。学費を返還してでも民間企業や研究機関へ転職するケースは少なからずあり、「より高いレベルで研究したくなる人はいる」(若手官僚の1人)という。
留学経験がその後の昇進に繋がるかは不透明だ。海外留学が奨励され始めたのは近年のため、幹部で海外留学した経験がある人は多くない。樽見英樹・厚労事務次官もアメリカ大使館に派遣された経験はあるものの、海外留学はしていない。ただ、海外留学経験があると、経済協力開発機構や国際労働機関、世界保健機関に出向する傾向にあるという。
ヨーロッパに留学経験のある官僚の1人は海外留学する意義について、「アカデミックなバックグラウンドが得られる事で、厚労省の審議会に参加する識者らとも、より高いレベルで政策論議や政策協議が出来るようになると期待している」と話す。
社会保障制度はスウェーデンやイギリス等海外と比較される事が多く、先進事例を政策に取り入れる事が多い。海外留学する官僚が今後も増え、国際的な知見を政策に加味する事で、厚労省の立案能力がより高いレベルに達する事を期待したい。
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