生補助金の不正受給、診療報酬の不正請求……
未曾有のコロナ禍で、2度目の冬が近づいている。いつ収束するのかが見通せず、医療現場はなお厳しい闘いを強いられている。
とりわけ深刻なのは、患者の受診抑制である。幸い、ワクチン接種が全世代に広がっている事が歯止めとなって、状況が好転するかもしれないが、なお余談を許さない。
もっとも患者数は、人口が減少に転じている日本においては、早晩減っていく事は必定である。何十年か先に来る未来を、コロナ禍が先取りして突き付けているだけだ。その実態を真摯に受け止め、今こそ足下を固めなくてはならない。健全な経営の鉄則とは、収入を増やし、それに見合った支出を心掛ける事に尽きる。病床稼働率は大切なファクターだが、患者単価も重要だ。
8月末、病院の大型倒産のニュースが飛び込んできた。医療法人社団友愛会(大阪市福島区)が民事再生法の適用を申請した。負債総額は約52億円に達する。同法人は、松本病院(199床:一般病棟93床、回復期リハビリテーション病棟49床、地域包括ケア病棟44床、ハイケアユニット13床)を運営している。1938年に開院した診療所が52年に松本病院となり、約80年の歴史の中で診療科と病床数を増やしてきた。
帝国データバンクは、これを「新型コロナウイルス関連倒産」に分類している。その定義は、原則として新型コロナウイルスが倒産の要因(主因または一要因)となった事を、当事者または代理人(弁護士)が認め、法的整理または事業停止(弁護士に事後処理を一任)したケースという。
「経営の稚拙さに起因する」と理事長
2021年1月に再度大阪府に緊急事態宣言が発出される中、同院は府から新型コロナウイルス患者受け入れについて強い要請を受け、一部の病床で軽症・中等症の患者の受け入れを決めた。コロナ禍で外来患者数が落ち込む一方、人件費など経費負担が増えた事が資金繰りの悪化要因になった事は事実だろう。
しかし、わずか2年足らずのコロナ禍だけで、負債が50億円を超えるまでになったとは考えにくい。コロナは無関連とは言えないものの、主因ではないはずだ。
友愛会はホームページに理事長名で、「新型コロナウイルス感染症の患者受け入れが経営を圧迫した事実はない」「過去の設備投資に伴う過大な有利子負債など経営の稚拙さに起因する」と明言している。
少し詳しく見てみよう。
同院は、外科、内科、脳神経外科、整形外科、循環器内科、心臓内科、形成外科等を擁し、院内に検体検査、生理検査、内視鏡検査、X線検査等を行う医療設備を備えている。地域中核病院で、救急医療機関にも指定されており、完全24時間体制で応需していた。
しかし、近隣は複数の医療機関が所在する激戦区であり、採算は低調に推移していたという。手術室や集中治療室の刷新、MRI等先進医療機器の導入等の設備投資の負担がのし掛かり、借入金依存度が高まっていた。
資金繰りの悪化に伴い、02年には借入金が整理回収機構へ譲渡される事態となったが、13年に現在のメインバンクに債権が再度譲渡されて金融取引が正常化。再生支援を受けて、15年には耐震問題を抱えていた病棟を改築して新規オープンさせた。
手術件数は増加し、手術単価は上昇、病床稼働率90%を確保した。20年3月期には収入約27億5300万円、売上高は24億2300万円、経常収支で約1億6700万円の利益を確保していた。しかし、新病棟開設に伴う先行投資負担が重くのし掛かり、取引金融機関から返済猶予を受けていた。
債務超過に陥った事で、事業を譲渡する予定の支援者(スポンサー)との間で再生のための基本合意を締結し、借入金の整理のために民事再生法の適用申請に踏み切ったという事らしい。コロナ対応も含め、病院機能は継続したままだ。
同法人は地域に密着してニーズを汲み上げ、社会福祉法人友朋会を設立し、1997年から特別養護老人ホームの運営にも乗り出していた。病院併設型のホームで、大阪府の認可で開所するに当たっては、国・市から建設費約17億2000万円の4分の3の約12億9000万円を補助金(設計費、施設整備費)として受給した。
ここでは開設直後からトラブルが明らかになっている。当初の計画では9階建ての建物の4〜8階がホームで、4階はショートステイ(20床)施設のはずだった。
しかし実際には、4階が松本病院の一般病棟として使用されている事が発覚し、補助金の不正受給(目的外使用)に当たると、是正を求められた。
保険医療機関の「指定取り消し」も
更にホーム整備に際して、市から無担保で約4億9000万円の融資を受けているが、利子を含めて2億2000万円が未返済のままとされる。当初は2017年までに完済予定の計画だったが、計画が3回変更され、29年末までの完済へと先送りされているが、今回の倒産で債権放棄となれば市が回収出来なくなる可能性もある。
その上、倒産を巡って、新たな疑惑が発覚した。債権者への説明資料で明かされた診療報酬の不正請求である。14年から17年まで約3年に渡って、入院基本料や回復期リハビリテーション病棟入院料について、診療報酬を算定するための施設基準を満たしていなかったとされる。
これが不正請求と認定されると、同院は行政処分で保険医療機関の指定を取り消される恐れがある。仮に取り消しとなった場合、原則として5年間は再指定されず、不正に得た診療報酬の返還を求められる事になる。
これが「現在の法人格の下で病院事業を継続する事は事実上不可能」との判断がなされ、民事再生法適用の申請に至った「直接的な原因」と説明されている。何ともお粗末な顛末である。
さて、コロナ禍に話題を戻そう。同院は、診療所から発展した民間病院である。日本には、このようにして生まれた個人や法人等民間の病院が多く、皆保険の受け皿となる全国均質な医療体制を実現していった。
しかし、コロナ禍で、世界一の病床数を誇る“医療大国”であるはずが、容易に医療逼迫を招いた事が、国民に大いなる疑問を抱かせる事になった。実は、日本は病床当たりの医療人材が少ない。民間病院は赤字が続けば倒産する……そうした点については、なお一層の理解を求めていかないないとならないだろう。
コロナ流行の当初はどの病院も減収に見舞われたが、その後補助金が整備された。
例えば「協力医療機関」になれば、通常医療が減少したままでも、補助金で一気に黒字に転じる。まるで公立病院さながら、“コロナバブル”とも言われる状況は、少なくとも今年度中は続くだろう。
しかしながら、財源不足もあって、いつまでもは続かないだろう。診療報酬も上がる事は期待出来ない中で、人件費や、最先端の医療機器や薬剤の費用は膨らんでいく。医療ニーズが本格的に減少する時代に備え、経営の手綱を引き締める時だ。
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