虚妄の巨城
武田薬品工業の品行
業界の「盟主」らしからぬ、武田薬品工業の製品を巡るゴタゴタはもう特効薬もない宿痾なのか。近年では2015年4月、糖尿病治療薬「アクトス」が米国で、膀胱がんの発症リスクを隠していたと製造物責任訴訟を起こされ、和解金として約9000件で約2834億円の支払いを余儀なくされたのは記憶に新しい。
18年11月には、一部製品に着色があったとして、弱ペチロルファン注射液等の7製品について自主回収と出荷停止に追い込まれた。
国内流通担うモデルナワクチンに異物
更に20年6月に米食品医薬品局(FDA)から、武田のドル箱商品であるがん治療薬「リュープリン」を製造する武田の山口県光工場ついて警告書を受けた。FDAが前年11月に査察した際、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)違反が発見されながらも、武田が提出した改善計画が「不十分」と判断されたためだった。
そして今度は、米モデルナ製の新型コロナワクチン。モデルナから輸入して武田が国内流通を担っているが、8月16日になって、何と異物混入が発覚した。
厚生労働省は同月26日、モデルナのワクチンについて、5都県8カ所の接種会場で未使用の瓶内に、磁石に反応する事から金属製と見られる粒子状の異物が混入していたとし、製造番号や工程が同じワクチン約163万回分の使用を見合わせると発表した。異物が見つかったのは39瓶とされるが、それと同じロットの製造番号「3004667」の57万回分、及び混入の可能性が否定出来ない「3004734」が52万回分、同じく否定出来ない「3004956」が54万回分がそれぞれ無駄になった。
これらが国内863カ所の接種会場に納入され、中には実際に使用してしまった例もある。福井県では計8会場、判明しているだけでも約6600人が「異物混入ワクチン」の接種を受けた。東京都では、大規模接種会場や都庁職員の職域接種で約約9100人がこのようなワクチンと「疑いが否定出来ない」ものが使用された。
その後、29日になって群馬県は、太田市の大規模接種会場で前出のロットとは番号が異なるモデルナ製ワクチンから、異物が見つかったと発表。1本の瓶に、大きさ0・5㍉程度の磁石に反応しない青みがかった黒色の薄片状が1個混入していた。これと同じ番号のワクチン使用が一時停止されたが、27日以降、既に4575人が接種を受けたとされる。
海外ではゴム片が混入していた例も報じられている。こうなると、大いにワクチン製造現場の管理具合が怪しくなる。しかし、武田の名誉のために触れておくと、この「異物混入ワクチン」はモデルナが委託したスペインの製薬会社であるラボラトリオス・ファルマセウティコス・ロビの工場産とか。
武田も同月26日の社告で、「当社は、特定のロットについて未使用のバイアル内に異物があるという複数の接種会場からの報告を受け、直ちに本ワクチンの製造を行うモデルナ社にこれらの異物・原因等に関する緊急調査を依頼いたしました。……なお、これまでに対象ロットにおいて本件に関連して発生したとみられる安全性上の懸念に関する報告は受けておりません」と説明している。
だが、接種会場の現場で複数種の異物の混入が発見されたというのは、輸入元の武田として不名誉な事のはず。こうした場合、単に輸入しているだけだからと、責任が免除されるとは考えにくい。
武田の株価が、163万回分の接種が見合わせと決まった26日を前後して続落したのも当然だろうが、厚労省側に事前に製造販売の承認申請をして受理されている以上、国内の供給・流通の責任も負っている。最低でも輸入後に、モデルナ製ワクチンの目視での外観検査ぐらい実施してもおかしくない。
無論、検査で異物混入が発見されるかどうかは別問題かもしれないが、前出の社告から自社の責任の所在意識がさほど感じられないのは、果たして正常な事なのだろうか。このような姿勢と、製品を巡って不祥事を繰り返している武田の長年の体質が無関係とは思われないが、ここまでコロナ禍が深刻化して国民のワクチンに対する関心も高まっている折、少しは自社の社会的責任に意識を向けても良いはずだ。
接種した30代男性2人死亡の衝撃
のみならず、異物混入ワクチンは厄介な問題を抱えている。いくら武田が「対象ロットにおいて本件に関連して発生したとみられる安全性上の懸念に関する報告は受けておりません」と表明しても、厚労省の8月28日の発表では、この「異物混入ワクチン」を接種した38歳と30歳の男性2人が死亡しているのだ。ともに、基礎疾患とアレルギー歴はなかったという。
武田とモデルナは同日、ワクチン接種との因果関係について調査を行うと発表。「両社と厚労省は現時点で死亡とワクチン接種の関係は不明としている」(『ブルームバーグ』8月28日配信記事)というが、ならば「安全性上の懸念」の有無も「不明」と解されるべきだろう。
一方、武田が8月25日の「第67回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」に提出した資料によれば、「(8月4日以降)モデルナ筋注の副反応疑い報告において、医療機関又は製造販売業者から死亡として報告された事例が新たに4件あり、(今年5月22日から8月8日までに)報告された死亡事例は計11件となった」とある。9日から20日までに5件の事例も記載されており、死因は様々だが、死亡男性2人は異物混入と必ずしも関係がないのだろうか。
武田は資料で、この11件の「因果関係評価結果」に関しては全て「情報不足等によりワクチンと死亡との因果関係が評価できない」としている。ならばワクチンに関する「安全性上の懸念」も、グレイゾーンにあると見なされよう。
ワクチンの安全性については様々な議論があるが、一般社団法人日本感染症学会ワクチン委員会はこのほど発表した「COVID‐19ワクチンに関する提言(第3版)」で、「COVID‐19ワクチンもヒトでは初めての試みですので、どのような副反応がどの程度の頻度でみられるのかを理解し、接種後の健康状態をよく観察しておくことが重要です」と指摘する。
間接的にではあれ、国内製薬会社として唯一、ワクチン接種に関与している武田は、これから重要となる「数年にわたる長期的な有害事象の観察」(同「提言」)に楽観的になれる確信があるのだろうか。予測めいた事は慎むべきだろうが、現実は「安全性上の懸念に関する報告は受けておりません」では済まない事態も排除出来なくなる可能性を示し始めているようだ。(敬称略)
LEAVE A REPLY